書名と向き合う
版元に入ったら、本を読む余裕がなくなりました(笑)。
明石書店入社4年目の板谷と申します。営業部で、主に受注と発送を担当しております。
当初、毎日お客様の読む本を包んだり取次さんに搬入したりしながら自分が読む時間はないというのは、「紺屋の白袴」ってヤツかななどと思っておりました。
自分の会社の本は読み放題だろう、発売前にいち早く読めるだろう、従業員価格で入手できるだろう、という下心で入社した者にとっては大誤算でした。
私は子どものころからなぜか「差別」という問題が気になって、それをテーマにした物語を読んだり映画を観たりしてはアツくなっていました。
自分では何もできないんですけどね。
職探しをしていたときに、無理だろうなと思いつつ版元の求人広告を見ては、「この出版社はどんな本を出しているのだろう」と検索したり、図書館や書店さんで当たってみたりしました。
「ああ、こういう本を読みたいな」と思った版元の一つが明石書店です。
分野でいえば、人権、障害、福祉、ジェンダー、また世界の歴史や文化・民族などなど。
具体的にはマーチン・ルーサー・キング牧師著、猿谷要先生訳の『黒人の進む道』とか。
『「親日」と「反日」の文化人類学』とか。
実際、後者の感想文を書いて応募しました。面接の感触は「落ちたな」でしたけれどね。
お陰様で入社以来、受注担当です。となれば、本文は読めなくても書名とは毎日向き合います。
「門前の小僧習わぬ経を読む」のほうがふさわしいかも、という気がしてきました。
もともと本を読むのは遅いほうです。
そのかわり書棚の背表紙を見ているだけでもかなり満足できます。フェチですね。
萌えですね。
巻末の広告も全部読むタイプです。うまくすれば自然に書名が頭に入ります。
もしかして僅少本を探したりするのは天職かも?!
以下は、本というより書名とのお付き合いの例です。
日常の中で、たとえば私は四半世紀前から映画ファンですが、「武士の一分」という作品を観たとき、うーん主人公の気持ちもわかるけれど、『見えない目で生きるということ』という書名が浮かんできました。
タイトルだけで涙が出てしまいそうになるのは「性虐待を生きる力に変えて」シリーズ。
第6巻『性暴力を生き抜いた少年と男性の癒しのガイド』という書名をみるたび、映画「スリーパーズ」や「ミスティック・リバー」を連想してしまいます。
書名ではありませんが、発達障害という分野は明石書店にとって重要な一項目です。
いまでも私は門外漢ですから、この仕事をしていなければ「アスペルガー症候群」とか「特別支援教育」という言葉さえ知らなかったかもしれません。
言葉を知っただけでも、そういう現実に立ち向かっている人がいるのだなと知ることになるわけで、そのほうがいいと思いませんか。
また、版元で働けるなどとは夢にも思わなかったころ、新聞広告で『楽しくやろう夫婦別姓』という書名を目にして、「ふうん、こういう考え方の人もいるんだ?!」と思ったのを不思議と覚えていました。
入社してから倉庫で偶然その本を見つけて、これも明石の本だったんだ!と驚いたものです。
著者の一人は、いまや社民党党首の福島瑞穂さんですが、新聞広告を見た当時はそんな認識すらありませんでした。
残念ながら、この本はもう品切ですが。
明石書店では2008年末に、商品コードが2900番台に突入しました。
30年間に2900点を超える書籍を刊行してきたということですね。
現在うごいている本はどのくらいになるのかな、版元ドットコムの在庫ステータス管理も常に最新情報にするべく必死です。
読めない読めないと愚痴をこぼしましたが、いま読んでいるのは『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』です。
もともと映画ファンとして韓国映画には力があるなと注目していましたが、明石に入って”韓流おばさん”道にますます精進するようになりました。
道をきわめようとすれば、おのずと韓流スターの周辺からさらに興味は広がり、いまの韓国の若い人たち=「88万ウォン世代」のことも知りたくなります。
「88万ウォン世代」、キーワードですから覚えてくださいね。
みなさまに呪い?をかけたところで、今回は失礼いたします。