どういう本を出したいか
弊社の奮闘記『日本でいちばん小さな出版社』(晶文社刊)が出て、半年以上が過ぎました。たくさんのご感想をいただきました。ありがとうございます。
好意的に「いろんな本を出している出版社」と言ってもらっていますが、「いろんな」とは「ジャンルがバラバラ」の裏返しです。ようやく刊行点数が12点になりましたが、書店で同じ棚にうちの本が2点以上あることは、おそらくありません(もちろん、いばることじゃありません)。営業的に不利だと多くの方々に言われましたが、絞れないまま、ますます別ジャンルの本が増えていってしまっています。
出版ジャーナリストで版元ドットコムの会友でもいらっしゃる長岡義幸さんは、「出版社の創業者というのは、テーマや訴えたい事柄があるからこそ、起業するものと思い込んでいた」のだそうです。うちの出版事業開始には変ないきさつ(『日本でいちばん…』、ご参照ください)があったものの、問題は「志は後からついてきたこと」だけじゃないように思います。
ひとり出版社なので、企画自体にダメ出しをする人がいません。自分が好きなものだけ出します。これはすごく幸せなことなのですが、大きな問題があります。私は、「大勢と同じ」というのが大嫌いなのです。「他人と同じは嫌」というような強い意思ではありません。「マイナーに属しているほうが快適」という、腑抜けた性格です。
なので、「類書がない(『炭を飾る』、『非常本』、『あるばむ』)」とか、「こういう主張は本になっていない(『ダンナがうつで死んじゃった』、『福祉の仮面』)」ということに人一倍魅力を感じながら、いつも企画を練っています。自覚してます。
もちろん、全部の本がそうではありません。けれども、年に2回しか書店回りをしないことを除いても、書店営業的にはすごく不利です。「ジャンルは何ですか?」、「どこの棚に置けばいいでしょうねえ」とよく言われます。作り方の問題もあるかもしれませんが、「これこれの棚にぜひ」とお答えすると納得していただけることを考えると、やっぱり類書がないのはきついなぁと実感します。
マイナー志向が生んでいるもうひとつの問題は、「読者が多い本の企画が好きではない」ということ。マイナー志向以外に天邪鬼的性格も原因と、これまた自覚してます。しかし、コアな読者(=高価な本でも買う)という概念もあるので本来は営業的強みに変えていけるはずなのですが、これまた興味の対象が広すぎて、全部「浅く広く」なため、コアな読者を満足させられるような本の企画も立てられません。
でも、自分の中では、「こういう本は嫌、こういう本なら出したい」という基準はあるのです。(読者のニーズからスタートしていない発想…というお叱りがあるかもしれませんが、ちょっとその話は置いといて・・・)
自分でわかっているようなわかっていないような傾向について、出版ジャーナリストの塩澤実信氏が『週刊読書人』で、「複雑多岐にわたる現代社会で行き抜く知恵の盛られた著書」と書いてくださったのを見て、雲が晴れるようでした。そうだ、私は、弱者(今の日本では多数派扱い?)を救うとか今のトレンドはどうとかいうことではなくて、ひとりひとりが各々に合った底力をつけられるような、そんな本が出したかったんだ。そのことが私の企画の核になっていて、いろんなジャンルでいろんな表現の仕方になってしまっていたんだ。
・・・ようやくわかった弊社の出版傾向ですが、自分が納得できただけで、世の中の認知的には「長い道のりが待っている」状態です。でもこれが、出版業を続けていく楽しみだとも思っています。