音楽書も出足好調。これで給料出せるかも!?(笑)
「10冊入れたんですが残が1なので追加を10下さい」「5冊入れで残1です、5冊追加お願いします」「30仕入れましたが残りが5になりました。在庫ありますか?」そんな電話が何本も入ると思わず頬をつねりたくなる。お店によるとはいえ、これほど出足が良いとはまったくの予想外。なんと今日の注文で在庫も切れてしまった……。
あ、これ、先月24日に発売した創業2冊目の本、『クラシックでわかる世界史』の話です。著者は音楽社会史、音楽思想史がご専門の桐朋学園大教授・西原稔さん。「音楽を愛する人のための出版社」を標榜するぼくらにとって、こういう本がしっかり売れてくれることがなによりも嬉しいのです。在庫切れは困ったことではあるけど(初版2000じゃ足りなかったか?)、これならなんとかやっていけるかも、やっと給料を出せるかも(笑)と希望も湧いてきます。
たまたま内田樹さんの村上春樹論集『村上春樹にご用心』で出版界デビューという幸運なスタートを切ることができたアルテスパブリッシングですが、4月に会社を立ち上げた二人はもともと音楽之友社で編集者として働いていました。音楽をテーマにした本しか作ったことがありません。ですから、ひとりのファンとして愛読していた内田さんとのお仕事はとても新鮮で刺激もたっぷり、学んだことも山ほどありました。おかげでとても恵まれたスタートを切れたことはありがたいかぎりです。
でも会社の柱、本業はあくまで音楽です。けして市場が大きいとはいえない音楽書を、二大取次に頼りきることなくしかるべきお店に置いていただけるかどうか、しかるべき数を売っていくことができるかどうか、2冊目からが本番、正念場となります。
当初は流通関係の用語すらおぼつかず、取次や卸し、書店の方々のお話に付いていくのも大変でしたが、いざ始めてみれば流通の現場のみなさんとのやりとりはとても楽しくて、古くから「本の雑誌」や「本屋さんか」(みなさん覚えてますか?)を愛読していた身としては夢のようです。卸しや取次のベテランたちの実践的なアドバイスにも大いに助けられています。20年以上もこの仕事をしているのに妙なことを言うようですが、ようやく出版界で働いている実感が湧いてきたような気持ちです。
とはいえ営業はひよっ子、新米、駆け出しもいいところ。ご挨拶に伺いたい書店はまだまだ山のようにありますし、ポップやパネルを作ったり書評をファックスしたり会社の通信を送ったりといった以外のプロモーション方法も考えていかねばなりません。重版のタイミングや部数を測るためのデータも足りませんし、受注の体制や在庫の管理も行き届いていません。
そんなもろもろの課題も山積みですが、なによりも頭が痛いのは編集の仕事に割く時間を作れないこと。聴くべきCD、行くべきライヴ、読むべき本とも板挟みになりながら、それでもつまらないストレスとは無縁の楽しい日々が続きそうです。
来年1月に予定している次の新刊は、先頃講談社選書メチエから『近代日本の右翼思想』を発表されたばかりの片山杜秀さんによる『片山杜秀の本1 音盤考現学』。早くも予約をいただくなど期待が高まるなか、満を持しての著者初めての音楽論、お楽しみに!