編集者、本を売る
「青弓社で〜す。書籍を販売していますので、ぜひ手に取ってごらんくださ〜い」
編集者として、ふだんは会社にこもりっきりでパソコンや原稿の前に座っている私も、この日ばかりは声を張り上げて書籍を売ります。
編集者が「1日書店員」になる日、それが学会での書籍販売です。
先日、とある学会会場で書籍販売をしてきました。学会とは、各分野の専門家たち(多くは大学教員や大学院生)が、自分の研究成果を報告したり、同じ研究分野の人の報告を聞いて勉強する集会です。
というと、ひじょうにカタく聞こえるかもしれません。上記は、学会の一面にすぎず、懇親会という名の「飲み会」を含めて、専門家たちの交流会のようなものです。
学会では、出版社が会場で書籍を出張販売することがままあります。私たちも、社会学や文学、民俗学、歴史学などの大会では、可能なかぎり会場で販売をおこなっています。
自分たちが作った書籍を読者に直接売ることは、なかなか体験できることではありません。POPの立て方や書籍の配置を考え、尋ねられれば自社・他社を問わず書名を教え、書籍の内容を説明し、お金をやりとりする……。私たちが会場に持っていくのはせいぜい100冊から200冊程度なので、「書店の現場を体験」とは大げさすぎるのですが、小売りの立場を疑似体験できて勉強になります。
とはいえ、「書店員」には徹しきれず、「編集者」をしてしまうこともしばしばです。たとえば……
- 自分が企画・編集した書籍を手にとってページをめくるお客さんに、「お願いですから買ってください!!」という熱いまなざしを無言でそそぐ。
- お客さん=専門家と雑談をしていておもしろい研究テーマを聞くと、「あ、それ、本にしましょうよ♪」と言ってしまう(注;脊髄反射です)。
- お客さん=専門家に「私の研究テーマは本になりますかね?」と相談を受ける。
ただ、学会によっては1冊も売れないこともありますし、他方、私たち出版社も著者に挨拶し、新しい人脈を作るために交流をしに行っている部分もあります。あるときは「書店員」として、またあるときは「編集者」として、といろいろな「顔」を使い分けできるのも学会での書籍販売のおもしろいところなのかもしれません。
ちなみに、先日の学会での販売冊数は、一桁でした……。が、これにめげてばかりもいられません。来週も再来週も、西へ東へと学会販売の日々は続きます。