切手、語りに偏りあり。
切手が伝える第二次世界大戦
メディアとしての切手
著者(編者)印南博之
彩流社
本体価格・・・1600円
ISBN・・・4-7791-1144-7
本書は、切手で第2次世界大戦を振り返ってみるという無茶な企てを本にしたものである。
2004年の6月、軍事史学会の年次大会に関連書の販売に出向いた際、著者の印南博之さんから声をかけられたのがきっかけである。
軍事専門版元でもないのにそんな学会にのこのこ出かけてゆく私も物好きなら、そんな私に声をかけてくれた印南さんはそれに輪をかけた立派な物好きであった。
戦後60周年に「戦争モノをビジュアルで」出したいと思っていた矢先だった。切手なら著作権もないし、小社の低予算でも何とかなる。「切手で第2次大戦振り返れるんじゃないか」早速手紙で企画意図を伝えたところ快諾をいただいた。2005年の7月発売予定。これはいける!と。しかしそこからが苦難の道のりであった。
まず、手紙で予想はしていたのだが、原稿が7割しか読めなかった。あまりに達筆であった。進行が遅れ、別の仕事が舞い込み、先生もお忙しく…とずるずる予定がずれ込み、2005年中には本文と年表のみ出来上がり、肝心の切手には手付かずという体たらく。ひとえに私の進行が甘かったのだが、ベテランのタイプ屋さんもお手上げの達筆ぶりと軍事の専門用語に四苦八苦したゆえでもある。
「あとは切手を選ぶだけ」「1年遅れの7月発売は楽勝」と余裕をかましていたらとんでもない。切手の多いこと多いこと。たとえばノルマンディー上陸作戦だけでストックブック何冊にもなってしまうのだ。結局、粗選定から4回ほどの選定を経て約500点に落ち着いた。印南さんは軍事切手収集家として日本でも有数のひと。そのコレクションが半端なものではないのは当然だが、一収集家のコレクションだけでこの有様。いったい軍事・戦争関係の切手は世界でどれだけ発行されているものか、考えただけで気が遠くなる。(この辺の事情は本書をごらんいただきたい)
さて、収集家はコレクションを開陳するのが至上の喜びである。切手一枚を選定するたびに披露される薀蓄に、最初私も興味深く聞き耳を立てていたが、それが長時間におよび、選定がほとんど進まない段にいたって、私の「聞いているフリをしながら半分寝て、ここぞというときに相槌をうつ」技はますます磨きがかかった。(印南さんすいません)それにしても68歳の印南さんがその一枚一枚にまつわるエピソードを目を輝かせて語る様子は、子供のようでもあり、まったく正しい収集家=物好きそのままであった。
さて、最後に本書の特徴を紹介しておく。
●オールカラー(豪華!)。
●大戦の全体像がコンパクトにわかる。(年表あり)
時系列に沿って、スペイン内戦から、日本の降伏調印まで中国、ヨーロッパ、アフリカ、太平洋各戦線の主要な作戦を入れ子に編集。
● 軍事ファン、切手ファンも納得の充実コラムとコレクション。
そして最後に切手が帯びる政治性、プロパガンダ臭をぜひ読者に感じていただきたい。じつはこれこそ編集サイドの隠された思いであり、裏テーマなのです。