出会い
いまの会社にアルバイトで入ってからもうすぐ丸7年を迎えようとしている。3年目から正社員となったはいいが、営業とは名ばかりの仕事をしてきた私が、最初で最後(?)の出張に行くことになった。
東京から異動になった書店員さんや大学時代の友人などから「遊びに来なよ」と以前からずっと言われつづけいたこともあり、新刊がまあまあ好調だし、書店の方には挨拶してポップを渡してくればいいっか、という安易な気持ちでいざ名古屋へ。
事前に他社の営業担当者数人から、行ったほうがいい書店さんとそこの担当者さん、書店のある場所、営業しやすいルートなどを聞いていたため、お店を探すことやお店に入って担当者さんを捜すことに大した問題はなかったが、「今日は休みです」と軽くあしらわれること数軒。
このとき、今更ながらに学んだことは《営業するならば事前にアポイントメントを取ってから》である。本来は都内の書店さんでも、担当者さんがいる日時を確認し、アポを取ってから営業に行くべきなのだろうが、都内すらろくに回れていないのにそんなことが身につくはずもなく…。
しかし、今どきアポもなしに営業するのは出版業界と押し売り(いまは訪問販売っていうのかな)ぐらいじゃないですかねえ。
「私、○善のIさんとは仲がいいんだ」と交流のあるB社のMさんから聞いており、Mさんの話で盛り上がればいいや、という軽い気持ちで、Iさんが仕事をしていると思われる売り場に乗り込んでいった。
早速、恒例の自社本チェックをすると、その店の棚には小社の売行良好書が! 平積みだ!! しかも3点も!!! もうウキウキ気分で挨拶に向かう。
「Iさんはこちらの担当だとお聞きしたのですが、Iさんは…」
「Iは担当場所が変わりました」
「エッ?!」
「だから、ここはいま私が担当しているんですッ!!」
「じゃあIさんは…」
「別の担当をしています」
「そ、そうなんですか…。あ、あの本、ひ、平積みしてくださってありがとうございます」
「いえいえ…」
ウキウキ気分はどこへやら、重い気分で軽く挨拶をした後、Iさんの元へ(棚の担当者さんを大事にせず、知り合いの人のほうを大事にする悪しき習慣)。
緊張しながらもIさんに挨拶すると、「あの本は売れてますよ。刊行してからだから、かれこれ7〜8年は平積みしてるんじゃないですかねぇ。あれだけ長い間平積みしている本ってもうないんじゃないですか。ずっと平積みして売っていきますよ。新しい担当者にも念を押しておきますから」と涙がこぼれ落ちそうなくらいありがたい言葉を頂戴した。これで気分も元に戻り、B社のMさんネタで盛り上がり、ついでに近刊の話でも盛り上がった。
Iさんとお会いできただけで、出張した甲斐があったなあ。
後日談。Iさんが、とある会に来賓として呼ばれ、上京された。小社はその会の会員社ではないので、参加する方に「Iさんによろしく伝えておいて」とお願いしておいたら、「7年以上も(径書房の本を)売り続けていて、初めて営業の方が出張に来てくれて本当に嬉しかった」と仰っていたとのこと。またもや涙が…。
さらに後日談。そんなIさんも○善を辞めることになった。辞める前に、出版社の方に挨拶をするために上京してきた。というより、いろいろな出版社の方が労いの会を開くために呼ばれたそうだ。人徳というか人望というか…。
そんな忙しい折にも「一日空けましたから飲みましょう」と。まだ一度しかお会いしていない人間に対して、この心遣い。三度涙が…。いまではちょっとしたメル友。近況を報告しあうような仲になった。Iさんは現在、アルバイトをしながら就職活動中。個人的にも書店員を続けてほしいが…。
いつかまた、何処かでこんな出会いがあることを願いつつ、日々精進していこうと意を決したのである。
上に出てくる売行良好書3点とは『自分を好きになる本』『おとなになる本』『夢をかなえる本』です。
最後に、径書房は「こみちしょぼう」と読みます。決して「怪」しくもなく「みち」でも「けい」でもありません。「こみち」です。これを機にみなさん覚えてください。
よろしくお願いします。