版元は割を食ってばかりいる
出版業が情報産業だというのは、単に本が文字やビジュアル情報を伝送しているということではない。本にまつわるあらゆる情報が付加価値をつけられて流通するようになるから情報産業なのだ。常々そう考えてきたが、昨今いよいよそれを実感することが多くなってきた。
どこの書店でどういう本がいつどんな読者に売れたか。その情報に結構な値段がつけられてすでに出版業界で売買されている。いわゆるベストセラー情報ではなく、個々の版元が自社の本や他社の競合本の売上とか広告効果などをオンタイムで知ることが出来るので、重宝されている。
この場合、本がどれだけ売れたかだけではなく、どれだけ売れなかったかと言う情報にも値段がついていることの意味が大きい。つまり、情報を売る書店サイドからすれば、極端な話、本がぜんぜん売れなかっても、その「どの本がどれだけ売れなかったか」という情報を売って食べて行けるという「情報産業」が成立し得るわけである。
版元サイドからすれば、自分のところで作った商品がどれだけ売れたかを教えてもらうのに、どうして毎月そんなに支払わないといけないのか、ということになるのだが、そういうクレームをつけた版元を寡聞にして知らない。
一方、取次から版元に売られる情報の一例として新刊委託したときの書店への配本リスト情報がある。これは上記の書店売上情報とは性質を異にする。書店売上情報は販売用に新たにシステム開発したデータベースによるものである。だからこそかなりの値段で売られていると説明もつく。ところが、配本リスト情報はもともと取次で自社の配本作業用に作ってあるものである。それをそのまま版元にメールで送るだけなのに、各取次を合わせると、一点当り何万円かについてしまうのだ。最近耳にして驚いたのは、某取次から返品情報を版元にメールで送ってくるシステムを作るから、一回一点あたり何がしかを払ってくれという要請が来たこと。版元としては、ただでさえ見たくもない返品情報をデジタル化してあるというだけで、カネを払って買えと言うのだ。それでもデジタル化情報というだけで唯々諾々と受け入れる流れが大勢らしいから、版元もアマく見られたものだ。
ここまでに挙げた事例はいずれも、情報を発信する側がそこからしか出せない情報を握っていて、それをその情報を必要としているサイドが買うという話だ。
それでは、版元だけが握っていて版元からしか出せない情報で、取次と書店がほしがっている情報はどのように扱われているか?
例えば、新刊刊行予定情報にしろ既刊本の在庫情報にしろ、有料なんてとんでもない、なんとか受け取ってくださいと版元が提供しようとしても、新刊案内はFAX用紙代がもったいないといやみを言われるし、取次のデータベースの在庫ステイタスを変更してもらおうと在庫情報を送ってもゼーンゼーン無視されたりデータベースに反映されないままだったりの繰返し。
どう考えても、この情報化社会の中の情報産業の一翼を担っているのに、版元だけはやけに割を食ってばかりのように思えてならない。
割を食うといえば、日書連が読者サービスにポイントサービスを導入して定価の1%ほどを還元する方針を打ち出したとかで、思い切ったことをやるものだとびっくりしていたら、何と何と、その1%は書店でも取次でもなくぜーんぶ版元におっかぶせるつもりだという。
版元はこの情報化大戦争の中で、行く末にアマい見通しばかり持っていて「楽天的大敗北」を喫してしまいそうな雲行きである。