印刷屋さんはエラい!
3月の3連休、印刷屋の真似事をした。
手づくりの漢字教材を自社内の簡易デジタル印刷機で印刷したのだ。
A4判300部、全11巻総計1020ページ。大仕事とはおもっていたが、考えた以上にたいへんだった。
最初は、著者が40ページていどずつのものを自宅で刷って、教員に頒布していたのだが、小学校配当漢字全1006字のワークブックの印刷となると、ちょっとすごい作業量になってしまう。
話を聞いているうちに、スキャン→PDF化→面付け→自動製版・印刷という流れをつくれば、かなり省力化できるのでは? と考え、ソロバンをはじいたら、諸々の協力もあって、なんとかできそうだ、と浅はかにも考えてしまったのだ。
まずは、もとの手書き原稿のスキャニング。当初は1枚1枚フラットベッド・スキャナでスキャンして、補正をかけて、とやっていたが、さすがにラチがあかない。オートフィーダのあるビジネスコンビニに外注した。
そこからの面付けは、折よくAdobeのAcrobatが7.0にバージョンアップして、トリミングなどの機能が大幅強化されたので、かなりラクにできた。
問題は、印刷だった。
まず、速度の問題だ。小社で使っている簡易印刷機の説明書を見ると、「1分間最大120枚」と書いてある。つまり、1時間7200枚しか刷れない、ということだ。300部×1020ページは約30万ページ。それを2面付け両面印刷するので、予備を入れて8万枚16万通し。ぶっ通しで刷っても20時間以上かかるということだ。この速度はプロの印刷屋が使っているオフセット枚葉機でも大きくは違わないようだ(もちろんサイズが違うので生産量は4倍だ。両面機なら8倍。輪転機ならケタ違いに速い)。
印刷ドラムの加減速の時間や製版時間など考えると、物理的に30時間以上はかかる。しかし、3連休というのは72時間しかないのだ。機械を最大効率で働かせようとしないかぎり、完了はおぼつかない。
ちょうどこの3月は、印刷屋のスケジュールがとても混んだ。聞く話によると、中学の指導要領改訂がらみで、印刷需要が急増したらしい。そんななか、ふだん2週間足らずでできる重版がいくらたっても日程のメドがつかず、ずいぶん印刷屋の営業さんをせっついたものだ。
自分が刷る立場になればわかる。「物理的に機械の日程がどうしてもとれません」とは、こういうことか。彼らも、「そんなこと言ったって、ムリなもんはムリだよ!」とおもっていたことだろう。
印刷をはじめてみると、紙の補給が手間になる。印刷の助手を「フィーダー」というらしい。紙やらインキやらを印刷機さまに遅滞なくお渡し申しあげることが重要になる。紙を適量いい位置に用意しておき、版替えのあいまにすかさず投入しなければならない。かといって手荒く扱えばたちまち印刷曲がりや折れの原因になる。
最初は、「印刷のあいだにほかの仕事もこなそう」なんて思っていたけど、そんな時間はありゃしない。
今回、用紙はA判22連を4裁して用意した。つまり88,000枚。1割の通し予備に、さらに8000枚の予備をつけたが、まったく安心はできない。じっさい、用紙セットの前後を間違える、面付け処理前データを印刷する、下巻のウラに上巻を刷る、データ転送のエラーを見逃す、エラーで電源を再投入したとき位置調整を忘れる……考えられるあらゆる事故をおこした。
こうなると、予備の枚数をケチって、事故に備えた用紙を手元に確保しておきたくなる。ふだん自分では「予備は均等に刷ってよ。製本側にだって予備は要るし、発注数以上にできればそれに越したことはないんだから」とか要求しているくせに。
5万枚を越したあたりから、紙送りモーターに熱を持ったらしい印刷機がエラーを出しはじめ、また、ローラーの摩耗や調整ズレも起こりかけて、ヒヤヒヤしながらの印刷だった。ここで機械に故障が起これば、納期は絶対に守れない。
さんざん苦労してつくったこの刷り物だが、A4判30万枚というのは考えてみれば、A5判240ページ5000部という、ごく一般的な単行本1点の分量にすぎない。
注文された印刷物を毎回毎回、規定の枚数、納期通りに、きっちりキレイに仕上げていくというのはどんなにタイヘンなことか。印刷屋さんの苦労を垣間みた気がした。印刷屋さんはまったくエラい! ちょっと刷りが遅れたとか、用紙予備の要求が多いとか、そのくせ刷られた予備が少ないとか、そんなことで文句は言わないようにしよう。とりあえずこれから10日くらいは。
今回の話、刷り物を丁合いをとって製本するのは、はなからプロの製本屋さんにまかせる計画だった。シロウトのこんな無茶な印刷ができたのも、最後にプロのチェックがはいる安心感があったからだ。製本屋さんもエラい!