弁護士村瀬さんからの、出版物の総額表示についての見解
先日来、版元ドットコム会員内でもさまざまに話題になっていましたが、出版物の総額表示について、版元ドットコムから弁護士村瀬拓男さんに見解を伺いました。
回答をいただき、公開の許可もいただいていますので、以下全文を編集無しで、みなさんに示します。
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2004年より消費税法63条によって総額表示が義務づけられています。とはいえ、罰則規定はありません。
2013年に特例法により総額表示義務が猶予されるまでの期間、相当数の出版社がこの義務に従わず、小売店においても総額表示がないまま販売がされた例も多数ありました。
1・この期間に、この表示義務違反によって行政指導や入札・指名停止などの実際的な不利益を被った事業者の例は(メーカー・小売、出版業界の内外を問わず)どのくらいあったのでしょうか。
総額表示違反には罰則規定はありませんので、「そのことのみ」をもって行政指導を含めた処罰の対象となることはありません。
ただし、表示違反することによって、一般消費者が税抜き価格を税込価格と誤認するような場合は、景表法における有利誤認とみなされる可能性があります。
消費税に関する表記は、ほとんどの取引において生じるものなので、取引によって問題となる法律も異なりますが、出版に関して言えば、読者=一般消費者が対象なので、問題となるのは景表法になります。
景表法における有利誤認での行政指導等は、年数十件ありますが、消費税総額表記違反「のみ」での指導は調べた範囲では見当たりませんでした。
入札・指名停止についてはわかりません。
2・2021年4月以降に総額表示をせずに販売した場合、法理上はどのような不利益が考えられるでしょうか。
上記のとおり、表記によって読者が「税込価格」と誤認するような場合は、景表法違反とみなされる可能性があります。消費税法違反としての罰則はありませんが、景表法違反とされた場合は、措置命令が出ます。命令が出たことは公表され、ケースによっては課徴金が課せられます。
3・不利益があった場合は、どのような不服申立の手段がありますでしょうか。
措置命令、課徴金賦課、それぞれの判断前に弁明の機会が与えられます。
それでも行われた措置命令等については、違法な行政権の行使として裁判所に、処分の取り消し等を求める抗告訴訟を提起することができます。
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弁護士 村瀬拓男
用賀法律事務所
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