脱原発の季節
去る4月26日はチェルノブイリ原発事故から20年でした。
昨年は、敗戦60年。沖縄戦から60年。各地の大空襲から60年。そして被曝 60年。ヒロシマ、ナガサキに人類史上はじめて原爆が投下されてから60年の歳月が流れたのでした。
もう記憶の彼方に消え去ろうかというチェルノブイリ原発事故は、未曾有の事故でした。
この年から、七つ森書館は出版活動を始めたのです。チェルノブイリ原発事故を考え、脱原発の市民運動をする人びととともにやってきた感があります。 ですから、この4月のチェルノブイリ20年のシンポジウムなどの準備にもかかわってきたのですが、同じような時期に青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場のアクティブ試験が始まろうとしていました。昨年末の予定がずれ込んで、今年2月という話も聞こえてきましたが、どうやら無理らしい。政府と原燃のやることは、どうもあやし気です。
昨年からこの時期にはアクティブ試験に入ることはわかっていましたから、新刊をぶつけるべく用意をしていきました。2月の新刊『核の軛——英国はなぜ核燃料再処理から逃れられなかったのか』です。
再処理工場の本場はイギリスです。イギリスでは、再処理工場の建設について、公聴会を何度も開くなどして、詳細に検討してきました。何度も建設を断念するきっかけがあったといいますが、結局建設が強行されました。結果、子どもの白血病が増大するなど、深刻な被害を出し、現在は廃液漏れ事故で運転を停止しています。
その政策決定のプロセスを詳細に検討したのが本書。六ヶ所再処理工場も同じ運命をたどらないともかぎりません。
日本でも核燃料サイクルの検討はされました。昨年「原子力政策大綱」をまとめた新計画策定会議がそれです。その議論は、「経済性よりも安全性より も、既定事実が優先する」というもので、まったくお恥ずかしい内容でした。 その会議でたった一人、反対意見(私たちにとってはまともな意見)を述べ続 けた人がいます。世界に誇るNGOの原子力資料情報室共同代表の伴英幸さんで す。議論の経過報告と孤軍奮闘記が、3月の新刊『原子力政策大綱批判——策 定会議の現場から』です。
この本が書店に並んだころ、3月31日に再処理工場のアクティブ試験が強行 されました。年度末ギリギリの日ですが、2005年度中に試験に入ったというアリバイづくりですね。やることが姑息です。
再処理工場では、全国の原子力発電所から出る使用済み核燃料を化学処理して、ウランとプルトニウムを分離するのですが、本格稼働が始まると莫大な放射能が環境にバラまかれます。原発が1年で出す放射能を、たった1日で放出するといわれてます。それも、放出管というところから六ヶ所村の沖合に捨てられるのです。
捨てられた放射能は海流に乗って南下。——岩手県の三陸海岸、宮城県、福島県の沿岸をとおって千葉県にまで及びます。これは、市民運動の人びとが葉書を放流して調べた結果です。エチゼンクラゲというでっかいクラゲが広がっ た経路と同じです。
それで、4月の新刊のタイトルを『放射能がクラゲとやってくる』としました。
こうして、毎月1点ずつ、脱原発の本を出してきました。
いまの七つ森書館のテーマは、「平和で持続的な未来」をめざすことです。 このことについては、いずれ語りましょう。
6月には、『原子力市民年鑑2006』を予定しています。この年鑑は11年目を 迎えました。よろしくお願いします。