方法論への渇望。
6月から7月にかけて数回、業界向けセミナーの講師を務めました。テーマは共通で『中小出版社のためのPOSデータ活用法』というものです。以前から取組んでいるテーマですが、自分でも講演用に考えを整理していく中で色々と見直しや再発見もあり、とても有意義な機会を与えられたと感謝しています。
長引く出版不況の中、「売上に直結する」であったり「返品率が下がる」といった惹句に対しての関心は高く、どのセミナーも大盛況でした。しかも皆さん非常に真剣であり「データなんか見てたってしょうがない」ではなく「データを読むための前提と実際の行動(販促など)をどう実現していくか」について幾つか問題提起を行なえたのではないかと感じております。
実際、書店店頭の実売データ(POSデータ)については過去の取組みからは想像もできないぐらい大量で良質のデータが安価に、そして使いやすい形で入手可能になりました。POSデータは、書店の現状や商品の内容についてきちんとした理解があり、かつ販促や営業の方法論についてより広範な理解を持った人間が読んだ方がより効果的に活用できるようです。つまり、POSデータ云々、以前の課題がしっかりと存在しているという意味です。それを理解してPOSデータと向き合わないと、それこそ「宝の持ち腐れ」になるかもしれません。
さて、その場では偉そうに話していた私ですが、実際には私自身も「魔法の杖」を持っているわけでもなんでもなく、データの解析にしても活用にしても、我流で手探りで行なっているのが実態です。
臆面もなくセミナーの講師などを努めているのも「本当に自分のやり方で良いのか」「もっと良いやり方を知っている人がいたら是非教えて欲しい」という気持ちがあるからです。
個人的な感想ですが、「置けば売れる」ような時代の大量配本の方法論ではなく、それ以前の、より地域に密着した形で地道に売っていく方法論に可能性を感じています。新刊よりも既刊、ベストセラーよりロングセラー。言葉にすると簡単ですが、そのための方法論は失われて久しいように感じています。
例えば、毎年同じように売れていたはずの辞書や学参、親子の世代で読み継がれる絵本・児童書、近所の子供の成長と共に変化していった学年誌、そうした町の本屋の基本となる売上を支えていたはずの商品群の販売のための方法論が気になっています。
残念ながら上記のような方法論について、特に中小の出版社では、先達に教えてもらう、という機会が少ないのも事実です。書店営業についても「とにかく回れ」「自分で考えろ」という話に(自分も含めて)なりがちですが、陳腐であっても「せっかく回るのであればお店のこういう点に着目しろ」であったり「こういう話題で引っ張れ」であったり、といった具体的な提言があったほうが良いのかもしれませんが……。
出版業界の悲哀というよりは中小企業の悲哀になってしまいますが、人をきちんと育てる、人にきちんと教える、というのは大きな課題だと考えています。自分もそういうことを要求される年齢になったのか、という気持は、実は「教えるほどの内容をきちんと受け継いでいるのか、きちんと自分のものにできているのか」という不安だったりもします。
私自身、知識や経験不足で恥ずかしい思いをすることは日常です。皆さんと一緒に勉強できるような機会は、自分が一番必要としているようです。今後もそういった機会があれば積極的に出ていき、大いに恥を掻きながら勉強していこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
追記■ポット出版のサイトでこんな記事も書いております。しばらく中断していましたが、近日中に再開の予定ですので、こちらもよろしければご覧下さい。
『出版営業の方法』
追記■上記の連載でも書いている「語学教材の音声配信」の件ですが、有料のダウンロード販売というのも始めています。興味がある方は弊社のホームページをご覧下さい。
『語研』