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日本編集者学会第11回セミナー「書物の黄金時代 二十世紀初頭、イギリス・フランスの出版と編集」

2018/10/20

日本編集者学会第11回セミナー「書物の黄金時代 二十世紀初頭、イギリス・フランスの出版と編集」

第一部 新しい出版のかたち ― プライヴェットプレスと木口木版の世界 草光俊雄
第二部 二人の女性編集者 ― シルヴィア・ビーチとアンドリエンヌ・モニエ 宮下志朗

 [イギリス] 出版の新しいかたち─プライヴェットプレスと木口木版の世界  草光俊雄 [東京大学名誉教授]

 二十世紀初頭のイギリス出版界での大きな特色の一つは、小さな出版社が個性あふれる本を次々に発表していたことです。例えばヴァージニア・ウルフとレナード・ウルフによって1917年に設立された<ホガース書房 The Hogarth Press>はブルームズベリ・グループの作品やエリオットの『荒地』の出版でも知られていますが、これらとは別にきわめてユニークな本作りを行うグループがありました。それは私家出版(Private Press)と呼ばれるもので、同じ美的な嗜好を持つ少数の読者に向けての出版活動でした。多くはイラストを多用し、それも前世紀末に写真の登場とともに廃れてしまった木口木版を再生させた独特の本作りをするグループでした。
 ウイリアム・モリスが始めたケルムスコット・プレスでもエドワード・バーン=ジョーンズなどの挿絵が木口木版で刷られてモリス自身が飾り文字を彫ったと言われ、この辺りで私家出版と木口木版の結びつきが実現したとも考えられますが、その後二十世紀に入ると、多くの木口木版を実践するアーティストが出現し、全盛期を迎えた私家出版の美しい本のページを飾ることになります。
 また、この時代に見られるもう一つの特徴は、新たな活字の創作とカリグラフィーの復活です。モリスも自身で創案した活字を作成しましたが、この時代もギルによるギルサンなど今日でも使用されている活字が作られ、エドワード・ジョンストンなど優れたレタリングやカリグラフの作家が登場し、本作りの黄金期が現出します。こうしたこの時代の新しい動向を紹介しながら、そこに登場する人々について出来るだけ言及できればと考えています。

 [木口木版について] 
 木口木版は、十九世紀の初めにニューカッスルの版画家トマス・ビュイックによって開発された版画の技法で、板の垂直断面を表面に主として柘植などの堅い木を材料に、通常の木版ウッドブロックと比べれば遙かに繊細な表現を可能とした技法である。木口木版は摩耗の割合も通常の木版よりは遅く、と言うことはより多くの印刷を可能にした。このことから十九世紀のイラストの多くは木口木版によって行われることになったが、そこにはもうひとつ、他のイラストの手段として用いられていた銅版画との違いを考えなければならない。つまり、木口木版の場合、活字の高さと同じ厚さの木材を利用することによって印刷はいっぺんに可能であるが、銅版画は厚さが薄いので活字の印刷と同時に行うことは出来ないという不便があった。木口木版は有名なところではディエール兄弟Dalziel Brothersの企業など多くの版画家を抱えた専門企業が栄えて、イラスト付きの新聞や、多くの挿絵入りの書物を生みだしていくことになる。しかし十九世紀後半になり、写真を印刷することが可能になると突然に木口木版は衰退してしまう。

[フランス] 二人の女性編集者─シルヴィア・ビーチとアドリエンヌ・モニエ  宮下志朗 [東京大学名誉教授]

 1920年代の初め、パリのオデオン通りに二人の女性編集者が書店・書肆を構えていました。一人は<書肆シェイクスピア Shakespeare & Company>(1919-41)の店主でアメリカ出身のシルヴィア・ビーチ、もう一人は<本の友の家 La Maison des Amis des Livres>(1915-51)という貸本屋兼書店を経営するフランス人のアドリエンヌ・モニエです。二人はこの街で出会い、友人以上の関係、いわば同性愛関係にあったとされています。そしてこの二人の女性編集者と二軒の書店・出版社の元に、当時の前衛作家たちや、旅行中・亡命中の多くの外国人作家たちが集まってきます。ヴァレリー・ラルボー、アンドレ・ジッド、ポール・ヴァレリー、アーネスト・ヘミングウェイ、ジェイムズ・ジョイス、スコット・フィッツジェラルド、ヴァルター・ベンヤミン等々、この時代の新しい文学を創造した高名な作家たちです。
 またこの時代は私家版の季刊文芸誌の全盛期で、多くのリトルマガジンが発刊され、当時の前衛的な文学作品の発表の場になりました。ジョイス『ユリシーズ』の仏訳が載った「コメルス Commerce」(1924-32)はその代表的な雑誌ですが、アドリエンヌ・モニエがこれに飽き足らずに発刊した「銀の船 Le Navire d’Argent」(1925-26)などは、短命でしたが多くの成果を残し、ヘミングウェイやズヴェーヴォやサン=テクスなどは、みんなこの雑誌のおかげで認知されることになったと言われています。
 こうした動向を、パリで撮った写真や資料なども交えて、具体的に紹介したいと思います。

会場専修大学神田キャンパス5号館 6階 561教室
開場/開演開場/開演 13:30/14:00
料金資料代:2000円(非会員) 1000円(会員) 学生無料
出演者草光俊雄 [東京大学名誉教授]
宮下志朗 [東京大学名誉教授]
お問い合わせ問い合わせ先:日本編集者学会事務局 〒102-0074 東京都千代田区九段南3-2-2森ビル5階 ㈱田畑書店 内
tel:03-6272-5718 fax:03-3261-2263 e-mail:info@tabatashoten.co.jp

http://tabatashoten.co.jp/press/
その他情報「歴史の工房―英国で学んだこと」草光俊雄 みすず書房 978-4622079859
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784622079859

「カラー版 書物史への扉」宮下志朗 岩波書店 978-4000611343
http://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784000611343
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