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第16回 「往来っ子新聞」

街歩き好きに人気の高い東京屈指の散歩エリア、千駄木。地下鉄千駄木駅から徒歩数分、千駄木通り沿いにある往来堂書店は、一見ふつうの町の本屋さんですが、その見事な棚作りで全国の本好き、出版書店関係者に人気の高いお店です。同店がすごいのは、そうした玄人に「だけ」愛されるような、敷居の高いお店になっていないこと。地元の老若男女にとってのふだん使いのお店、文字通りの町の本屋さんとしてきちんと機能し、町にとけこんでいるのがすばらしい。筆者も大好きな本屋さんの1つです。

同店で長く発行されてきたフリペが「往来っ子新聞」。紙面は、A4判横置き両面。店頭では3つ折りの状態で、レジや入り口の看板に置かれています。すべて手書きで、新刊やおすすめ本の紹介、文庫などの売上ランキング、フェアやイベントの紹介などの情報が両面にぎっしり詰まっています。

表面の下には、同紙の名物といっていいでしょう、新聞のサンヤツ(一面の下に並んでいる書籍の新刊広告;新聞の段、3段分を使って横に8コマ並ぶことからこう呼ばれます)のように、手書きの広告がずらりと並んでいます。地元のお店の広告あり、新刊広告あり。書影まで手描きのイラストになっています。手書きなので、本文と同じテイストで広告を「読めて」しまうのがおもしろいですね。

創刊は2009年6月。前回紹介した「次読むならコレにしや〜!」も60号超と、長く続いている本屋フリペの1つですが、こちらはなんと本稿執筆時点で通算150号をゆうに超えています。

2013年には、創刊号から109号までをまとめた合本版『往来っ子新聞 創刊号−一〇九号』が刊行されました。税込2,000円。表紙はミロコマチコさんによるシルクスクリーン。1枚ずつ刷ったそうで、いくつか色違いのバージョンがありました。同じスタイルで長く継続して刊行し続けてきたからこそ可能になったものですよね。こちらは完売で、残念ながら現在は在庫がないようですが、また200号記念のときなどにまとめたものが作られるかもしれませんから、ファンの方は要チェックですね。

「往来っ子新聞」は、同店で無料配布されているほか、版元ドットコムでPDFをダウンロードすることもできます。バックナンバーの一覧はこちらをご覧ください。

往来堂書店といえば、なんといっても「往来っ子新聞」が有名ですが、同店にはメルマガ「往来堂ももんが通信」もあります。こちらは週刊で、「本日の一冊」「これから出る本の予定 ピックアップ」「編集後記」などからなっています。まぐまぐで配信されていますので、登録はこちらからどうぞ。バックナンバーはこちらで読めます。

  
発行店:往来堂書店
頻度:(往来っ子新聞)月刊;(往来堂ももんが通信)週刊
 
  
 
【お知らせ】
往来堂書店のオリジナル文庫フェア「D坂文庫2017」が7/15(土)に始まりました。同店にゆかりのある選者64人が、とっておきの文庫をセレクト。わたくし空犬太郎も選者の一人として参加しています。読み応えたっぷりのフェア冊子(ブックカタログ)は100円で販売されるそうです。フェアは8/31まで(予定)。

もう1つ、往来堂書店にも関連のあるイベントを。

7/29(土)に「帰ってきたブックンロール(ブックなし)」を開催します。出版・書店業界関係者による音楽ライヴイベントで、往来堂書店の笈入建志さんが登壇するショートトークのコーナーもあります。荻窪ルースター・ノースサイドにて。詳細は当方のブログの案内記事をご覧ください。
 

第15回 「次読むならコレにしや〜!」

愛知県豊橋市に本社をおく、大正創業の老舗、精文館書店。愛知県を中心に店舗展開をしているチェーンで、関東だと、千葉・埼玉・神奈川には支店がありますが、都内にはありませんので、都内近郊の書店好きにはあまりなじみがない名前かもしれません。

ただ、名古屋市中川区にある精文館書店中島新町店の名を知る書店人・出版人は関東にもたくさんいることでしょう。というのも、同店には、目的地にたどり着けないという、ただそれだけのことを、おもしろサバイバルな文章にまとめて、WEB連載で人気を博し、あげくのはてには単行本にまでなってしまったという名物書店員さんがいるからです。ひさだかおりさん。連載をまとめた本は、こちら。『迷う門には福来る』(本の雑誌社)。

その《「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用された妻母兼業の時間的書店員》(本の著者紹介より)、ひさださんが手がけ、同店で発行されているフリーペーパーが「次読むならコレにしや〜!」です。

A4判裏表に、手書きとワープロ文字混在で、主にエンタメ系フィクションの情報がぎっしり。創刊当初から、ひさださんが一人で手がけていますが、途中、児童書を紹介するコーナー「えほんの力」が裏面に掲載されていた時期がありました。同店の児童書担当の方の協力を得ていたようで、絵入りの記事はなかなか楽しく読ませてくれるものでしたが、残念ながら休載となってしまいました。

現在は、またひさださんの一人体制に戻り、あいかわらず裏表に情報がぎゅっと詰まった紙面をすべてひとりで手がけています。

本屋フリペを発行している人の多くが感じているのではないかと思いますが、いちばん大変なのは、発行を続けること。それも定期的に続けることでしょう。本連載で紹介している本屋フリペの多くは一人の書店員さんの手になるもので、しかも、業務時間外に作られているものがほとんどです。正規の業務として認められ、輪番制になっていたり、担当者が変わっても継続発行されたりすることはまれで(ないわけではありませんが)、そのため、担当者の方が異動になったりやめてしまったりすると、フリペも続けられなくなってしまう、ということにしばしばなってしまいます。

そんななか、「次読むならコレにしや〜!」は、本稿執筆時点の最新号が66号。月刊ですから、5年以上継続発行されていることになります。個人発行でこの数字はすごい。現在、ぼくが定期的にチェックしている本屋フリペのうち、個人で出しているものとしては、最長の1つになるでしょう。がんばって続けてほしいなあ。

通常号を出し続けるだけでも大変なのに、ひさださんは、これまでに何度か読書感想文対策用の特別号も発行したりしています。題して「勝手に課題図書新聞」。以前の情報では、年に1回の発行で、過去に発行された号を見ると、表はオススメ本の紹介、裏面は「イケてる読書感想文の書き方」という記事になっていました。

「次読むならコレにしや〜!」は、同店で配布されているほか、ひさださんご本人がPDFにして、書店仲間や当方のような出版関係の知り合いに直接配布もしているようです。お問い合わせは、精文館書店中島新町店店のひさださんまで。

 
発行店:精文館書店中島新町店
頻度:月刊

 
【お知らせ】
まもなくこんな本屋本が出ます。『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』(ジー・ビー)。

書き手はBOOKSHOP LOVERのハンドル名で本屋情報を熱心に発信していることで知られる和氣正幸さん。

その和氣さんの本屋フリペに関する取材を受け、わたくし空犬も少しだけ本書に情報を提供しています。本連載で紹介してきたフリペの実物を例に引きながら、本屋フリペのおもしろさについての話をしました。コラムとして掲載されているようですので、本屋さん情報に興味のある方はぜひ手にとってみてください。6/20ごろ発売です。

刊行後には、こんなイベントも予定されているようです。「7/7(金)19:30〜 本屋100連発 本屋の良いトコロをこれでもかと紹介する会@双子のライオン堂」(Peatix)。会場は赤坂の本屋さん「双子のライオン堂」。要予約のイベントです。近隣の本屋好きの方はぜひお出かけください。

第14回 「放課後本屋さん」

当方がふだんよく通っている本屋さんの1つ、東京・吉祥寺のBOOKSルーエ。同店の2階には、常設のフリペコーナーがあるんですが、そこで出会ったフリペが「放課後本屋さん」。表紙には「書店員と元書店員が作るフリーペーパーです」とあります。書店員が所属のお店で作成・配布しているタイプのフリペではありませんが、これも「本屋フリペ」の一種だとしていいでしょう。

2016.7.31発行のVol.1の「おくづけ」によれば、寄稿者のサークル名は「野生の本屋さん」、発行者は「蒲山ヒポ麿」となっています。創刊からまだ1年にならない、できたばかりの本屋フリペですが、創刊以降順調に刊行されているようで、本稿執筆時点で10号(2017.5.4発行)まで出ています。

Vol.1の表紙にはこんな一文が載っていました。《本屋の業務が終わっても本屋をやめてしまっても仕事を離れてなお本と物語を愛し続けるそんな野生の書店員が集まって作ってみたフリーペーパーです》。職場を離れた立場を「野生の書店員」と表現しているのがおもしろいですね。

サイズは文庫判よりひと回り大きいB6判。手描きとワープロの文字が混在で、イラストも多用されています。号によってページ数が異なるようですが、最近の号でみると、「レビュー増量号」と謳われているVol.9、「レビュー微量号」と謳われているVol.10はともに32ページとなっています。

内容は、本のレビュー、文芸書・文庫の発売予定など。過去にはテーマ特集の号もあり、これまでに、ガンダム、ポケットモンスター、シン・ゴジラなどが取り上げられています。

この連載では、玄人はだしの画力・レイアウト力をほこる作り手によるフリペも紹介したことがありますが、この「放課後本屋さん」は、いい意味でゆるめのテイスト。レイアウトやイラストに素人っぽさが出ていて、全体に、昔ながらの同人誌、ミニコミっぽい雰囲気になっています(クオリティ云々の話ではなく、あくまで雰囲気、テイストが、です)。自分の好きなもの=本のことをもっと知ってほしいので、こんなのをつくってみました、という感じがストレートに出ていて、読んでいてほっとさせられます。

目を引くのはマンガ、それも数ページにわたるマンガ作品が掲載されていること。4コママンガを載せている本屋フリペは割によく見かけるのですが、9ページものマンガ(10号)、それも身辺雑記タイプではなくストーリーマンガを掲載している本屋フリペはめずらしいのではないかと思います。

フリペの名前や発行人名で検索しても、当方がツイッターで紹介したのが引っかかってくるだけで(苦笑)、公式サイトやツイッターアカウントなどはないようですので、BOOKSルーエ以外にどこで配布されているのか、そもそもよそで配布されているのかもよくわかりません。エリア外の方が簡単に入手できるものなのかどうかちょっと微妙ですので、気になる方は、東京・吉祥寺のBOOKSルーエの店頭をチェックするか、同店に問い合わせてみてください。

配布店:BOOKSルーエ
発行頻度:月刊

第13回 「ダイワレター」と「BOOKMARK」

新刊書店で独自に発行されているフリーペーパー(=本屋フリペ)を取り上げて紹介するという本連載の趣旨からはちょっとはずれるのですが、連載が延長となったこともありますので、今回は番外編ということで、書店発ではない書店関連無料誌を2つ紹介したいと思います。

まずは、「ダイワレター」。コミックのシュリンク機(コミックは新刊書店では通常、ビニールをかけた状態で売られていますが、あのビニールをシュリンクと呼びます)を手がけるダイワハイテックスが発行している書店情報誌です。

無料の情報誌ですが、A4判12ページでオールカラーと、ぜいたくなつくり。年4回発行で、最新号に記された発行部数は5,000とありました。

新しくオープンとなった店や店頭でユニークな取り組みをしている店を紹介する書店レポートや、書店員インタビューなどの記事が毎号掲載されるなど、まさに書店情報誌としかいいようのない中身になっています。テーマに工夫をこらした特集が掲載されることもあります。過去には、全国の書店員の会や、本屋フリペの特集号もありました。

本稿執筆時点での最新号は50号。祝通巻50号ということで、表紙も赤字に金の水引をあしらった、お祝いモードになっています。過去の号に登場した関西の書店員が集まったトークイベントのレポート、昨年話題を呼んだ文庫Xと覆面BOOKSの特集記事を収録。そのほか、昨年リニューアルオープンとなったTSUTAYA LALAガーデンつくばの紹介記事、広島の中央書店の代表取締役、内藤剛さんのインタビューが掲載されています。

シュリンク機の会社が発行しているフリーペーパーではありますが、話題がコミックに偏ることもなく、シュリンクにまつわる専門的な記事が掲載されるわけでもありません。本屋さんに関心のある人なら誰でも楽しめそうな、新刊書店にまつわる話題が広くカバーされているのが、こうして50号の中身を列記してみるだけでもおわかりいただけるかと思います。

本屋好きには読みでのある内容になっていますので、ぜひ手にとってみてください。ただ、この「ダイワレター」、残念ながら書店店頭では入手はできません。同社のサイトに最新号+全バックナンバーのPDFがアップされていますので、そちらからダウンロードしてご覧ください。

もう1つは、「BOOKMARK(ブックマーク)」。海外文学の紹介に特化した無料小冊子です。本稿執筆時点で、7号まで出ています。発行は、翻訳家の金原瑞人さん。編集に同じく翻訳家の三辺律子さん、イラスト・ブックデザインにイラストレーターのオザワミカさんの名前もあがっています。

CD(のジャケット)と同じサイズの正方形で、24ページ、オールカラー。毎号特集が組まれ、特集テーマに沿った本が1ページに1点、合計で十数点紹介されています。

特徴的なのは、取り上げられているのがすべて翻訳文学であること、さらに、それぞれの本の紹介を、その本を翻訳した翻訳家が担当していること。端正で読みやすいデザインといい、一線の翻訳家がたくさん登場して自らの翻訳作品を紹介する中身といい、とにかく、豪華なつくりになっていて、毎号、手にするだけでうれしくなってしまいます。

毎号のテーマ選定にも工夫がこらされています。4号は「えっ、英語圏の本が1冊もない!?」というタイトルの通り、海外文学の特集で入れずに選ぶのが難しいはずの英語圏のものが1冊もないという特集になっています。最新7号は「眠れない夜へ、ようこそ」。「ホラーの味つけのあるミステリー特集」になっています。

「BOOKMARK(ブックマーク)」は、全国の書店、公共図書館などで配布されているようです。こちらに配布リストがありますので、入手を希望される方は、お近くで入手できるところがあるかどうかを確認する際の参考にしてください。

以上、いずれも厳密には本屋フリペではないのですが、書店愛にあふれる書店情報誌、書店で配布されている本関連の小冊子ということで、紹介しました。次回からは、また通常の本屋フリペ紹介に戻ります。

「ダイワレター」
発行:ダイワハイテックス
頻度:年4回

「BOOKMARK(ブックマーク)」
発行:金原瑞人
頻度:年4回

第12回 元紀伊國屋書店本町店「青衣茗荷の文芸通信」(「文芸と文庫通信」)

青衣茗荷(「あおいみょうが」と読みます)さんは書店員ですが、この「青衣茗荷の文芸通信」は、これまで主に紹介してきた書店員が所属店の発行物として手がけているフリペとは違い、青衣茗荷さんが個人で制作・発行しているものです。

青衣茗荷さんは、かつて紀伊國屋書店本町店の文芸担当として腕をふるっていたことがあるのですが、そのころ同店で発行していたのが前身の「文芸と文庫通信」でした。その後、青衣茗荷さんの立場の変化やお店の事情などもあって、現在は改称、青衣茗荷さんが個人で製作・発行するかたちで継続されています。

A3の用紙を4つ折にしたつくりで、文字も含めてすべて手描き。中を開くと、独特のイラストと描き文字がA3の紙面いっぱいに広がっています。書影と書誌情報に簡単な紹介文を添えるという一般的な作品紹介を大きくはみ出したスタイルで、しかも、毎号、とりあげる作家・作品によって、イラストの感じも文章量もデザインも変わります。

ぼくが初めて青衣茗荷さんのフリペにふれたのは「文芸と文庫通信」時代のことですが、一読すっかりほれこんでしまい、以来、本人からフリペをもらい受けては、書店員や出版関係者に直接手渡したり、イベントや集まりで配ったりと、機会を見つけては、すごい本屋フリペがあるよと、勝手に宣伝をしてきました(「まるでマネージャーみたい」だと青衣茗荷さんご本人から言われたこともあります;笑)。

そのようにして多くの人に届けてきたんですが、このフリペを目にしたほとんどの人が、これはすごい!と驚いていました。とにかく、その独特の描き文字と、細部まで丁寧に描き込まれたイラストは、見る者、読む者に強烈な印象を残す出来で、完成度の高さに圧倒されること必至の一枚になっているのです。

青衣茗荷さんは文芸担当だったこともあって、ご本人も熱心な小説読みで、幅広くいろいろなタイプの小説を読んでいますが、どちらかというと一癖も二癖もある作家・作品が好みのようで、フリペで取り上げる本のセレクトにも、そんなフリペ作者の好みが強く出ています。

玄人はだしのイラストや描き文字の腕をフリペ作成に発揮している「美術系書店員」(空犬の造語です)は、本連載でも紹介済みのねこ村さんでんすけさんら、この業界には数多くいますが、そんなフリペ職人のなかでも、最高峰の一人、最高峰の一枚と言っていいかと思います。

なにしろこの紙面ですから、当然ひとつの号をつくるのにもずいぶん時間がかけられているはず。発行頻度は不定期で、けっこう待たされてしまうこともしばしばですが、新しい号が届くと、時間がかかったのも当然としかいいようのないその出来映えに、ふたたび、はぁーっと感嘆のため息をもらすことになるのでした。

この版元ドットコムで紙面を見ることができますが(こちらからPDFをダウンロードできます)、この質感は写真やファイルでは伝わりにくいので、本屋フリペに興味のあるみなさんには、ぜひ実物を手にとってみてほしいと思います。青衣茗荷さんの個人紙ですので、勤務店(紀伊國屋書店本町店)のほか、東京・吉祥寺のBOOKSルーエなど、青衣茗荷さんが個人的にやりとりをしている複数のお店で配布されているようです。

ちなみに、当方は東京での配布係の一人を自認しているもので、毎号、ご本人から直接送ってもらっているのですが、その封筒がこれまたすごい。下に写真をあげておきますが、模様・柄を描き込んだクラフト紙を折ったり切ったり貼ったりした自作の封筒で、これ自体がすでに「作品」になっています。ほかのお店に送られた封筒を見せてもらったことがあるのですが、同じ号なのに、送る相手によって、デザインなどが使い分けられていて、驚いたことがあります。こうなるともう「職人」の域ですね。

    

 
発行店:紀伊國屋書店本町店
頻度:不定期

 
 
本連載は、もともと1年ということで依頼をいただいて始めたものでした。取り上げたい本屋フリペはたくさんありますし、「パーマネント」「SF大作戦」のように、連載途中で新たに発見したものもありましたから、12回しかない紹介のチャンスにどれを取り上げるかは、これまで、常に悩みのタネでした。

本来なら今回が最後になるはずの連載でしたが、版元ドットコムのご厚意で、さらに1年、連載を延長することになりました。これで、限られた回数のために泣く泣く取り上げるのをあきらめていたいくつかを紹介できるチャンスができました。

引き続き、各地の本屋さんで出会ったおもしろい本屋フリペをご紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

なお、こんな本屋フリペがあるよ、とか、この本屋フリペを紹介してほしい、とか、本屋フリペについて情報やリクエストなどございましたら、ぜひ版元ドットコムまでお寄せいただければと思います。

第11回 蔦屋書店熊本三年坂「SF大作戦」

旅先で寄った本屋さんで、知らなかったフリーペーパーに出会えるとそれだけでうれしくなってしまう本屋&本屋フリペ好きの空犬です。今回紹介する「SF大作戦」は、昨年(2016年)の秋に訪れた熊本の本屋さん、蔦屋書店熊本三年坂で出会ったものです。

熊本市の中心街にある蔦屋書店熊本三年坂は、熊本に行く機会があると必ず訪問するお店の1つです。もともと昨年4月末に予定されていたリニューアルオープンが震災でいったん延期になりましたが、無事に6月10日にリニューアルオープン。お店がどんなふうに変わったのか、訪問前から楽しみにしていました。

前回訪問時とは様子の変わった店内の棚配置を確認がてら、端から棚を眺めていると、文芸の棚の上に、見慣れないフリペが並んでいるのが目に入りました。「SF大作戦」。創刊号から訪問時の最新号8号までが、ずらりと並んでいたのです。

タイトルに「SF大作戦」とある通り、本屋フリペとしてはめずらしい、SFに特化した専門フリペです。本屋さんの売り場や棚はジャンルごとに分かれていて、お店のスタッフもジャンルごとに担当が分かれているのがふつうです。それを思えば、各ジャンル担当が、自分の担当ジャンルに特化しつくったフリペがもっとあってもおかしくなさそうですが、実際には、ジャンル限定のフリペはあまり多くはありません。ジャンルを限定してしまうと、つくる側にも読む側にも、いろいろと難しいことも出てくるからです。

ジャンルを特定しないフリペなら、お店で扱う本はどんなものでも取り上げることができますし、特集なども組みやすくなりますが、ジャンルを限定してしまうと取り上げることのできる本自体の幅も狭まります。また、当然のことながらお客さんも選ぶことになり、本来、多くの人に手にとってもらうのが目的の無料配布物なのに、数が出にくくなってしまうという問題もあります。

過去に紹介しました通り、児童書に限定したものや、コミックに限定したものなど、ジャンル特化型のフリペがないわけではありませんが、数として少ないのは、やはりそのような事情もあるのだろうと思います。

「SF大作戦」(このタイトルにぴんときた人は、それぞれの号の副題にもご注目を)の話に戻ります。A4判用紙を四つ折りにした8ページ(初期のものには片面4ページも)に手書きでぎっしりとSFの関連情報が詰まっています。本の紹介はもちろんですが、SF本のタイトルをめぐるコラムなど読み物も充実しています。紹介されている本の洋邦・新旧のバランスもいいし、映画など隣接ジャンルへの目配りもきいています。全編にこんなにもSF愛があふれているのに、マニア向けの独りよがりな内容にはまったくなっていなくて、とても読みやすい。これは、いいフリペだなあ、おもしろいなあ、と、入手したその晩に旅先の宿で8枚を一気読みしてしまいましたよ。

SF好きのみなさんは、同店を訪問する機会がありましたら、文芸の棚周辺のチェックをお忘れなく。

このSF情報満載のフリペを手がけているのは、同店のスタッフで「SF部長」を名乗る三瀬さん。ツイッター(@3nen-sf)でも熱心に情報発信ををされているようなので、フリペを手にするチャンスがない遠方の方は、まずはそちらをのぞいてみるのもいいかもしれません。
 
 

発行店:蔦屋書店熊本三年坂
頻度:?

第10回 TSUTAYA寝屋川駅前店「ぶんこでいず」

大阪市の中心部から北東に伸びる京阪本線。大阪環状線の京橋から準急で十数分ほどの寝屋川市駅の駅前にあるのが、今回紹介する「ぶんこでいず」の発行店、TSUTAYA寝屋川駅前店です。(ちなみに、寝屋川市のお隣は蔦屋書店発祥の地である枚方市で、枚方T-SITEは、駅でいうと寝屋川市から数駅ほど先の枚方市駅の駅前にあります。)
 

さて、この「ぶんこでいず」、手にした人は、まずその情報量の多さに驚くことになるでしょう。A4判の用紙、裏表両面に、文庫を中心とした新刊情報が、隅から隅まで、一分の隙もなくあふれんばかりに、というかあふれ気味に、手描きでぎっしりと詰め込まれています。絵も文章も、その描き込みぶりとかけられた熱量が、とにかくすごい。目を通し終わるころには、すっかり圧倒されているはずです。現在流通している新刊書店フリペのうち、筆者が知るもののなかでは、もっとも「熱い」1枚ではないかと、「ぶんこでいず」を手にするたびにそんなふうに思います。

版元ドットコムでは、いくつかの本屋フリペについては、PDFデータが公開され、全文が読めるようになっています。「ぶんこでいず」もこちらにデータがあがっています。何度も書いていることですが、本来、本屋フリペはその発行店で入手していただき、フリペだけでなく、お店の棚や平台も一緒に楽しんでいただくのがいちばんなんですが、それがかなわない方もいらっしゃるでしょうから、そのような方はぜひこちらで、どんなフリペかを体感いただければと思います。

さて、そんな現在の本屋フリペを代表する1つといっていい「ぶんこでいず」ですが、大変残念なことに、2017年1月に発行された号が最終号となってしまいました。通算67号。同紙は月刊ですから、5年超にわたって発行されたことになります。棚担当をふつうにこなすだけでも忙しいはずなのに、本業の合間をぬって、自分の時間もフル活用しながら、「ぶんこでいず」を作り続けてきたのは、同店の文庫・文芸担当、ねこ村さん。この情報量のフリペを5年超もの間一度も欠けることなく、定期的に発行し続けるというのは並大抵のことではありません。ねこ村さんの熱意には、あらためて驚かされるとともに、頭が下がる思いです。

通常号は先に書きました通りA4の両面でしたが、最終号はA3の裏表を使った特大号になっています。ねこ村さんによれば、もともと、A3で4ページのつもりで作成していたのが、経費削減のためにA3両面1枚に収めることになってしまったため、字が大変に小さく、こまかくなってしまったとのこと。たしかに当方のような小さな字がつらくなってきた身には読むが大変な感じがしないではありませんが、「ぶんこでいず」のファンならば、これぐらいはなんでもありませんよね。この1枚で、これまでの同紙の歴史もわかるものになっています。

ねこ村さん、長らくおつかれさまでした。そして、これまで、すてきな本屋フリペをありがとうございました。ねこ村さんが、将来、ふたたび本屋さんの仕事に復帰される日を心待ちにしたいと思います。また、「ぶんこでいず」に刺激を受けた、第2、第3のねこ村さんが、本屋フリペの世界に登場してくれることを願ってやみません。
 

なお、フリペだけでなく、お店の様子もぜひご覧いただきたいので、昨年11月にTSUTAYA寝屋川駅前店を訪問したときの店内の様子を、当方のブログ「空犬通信」で写真入りで紹介しています。こちら

店内の文庫棚には、最新号だけでなくバックナンバーも並べられるよう、フリペの陳列スペースが設けられています。棚には、フリペで紹介した本が並べられていたり、フリペと同じテイストの(手がけている担当者が同じですから当たり前なんですが)イラストや描き文字が踊るPOPやチラシがところ狭しと貼られていたりします。売り場とフリペが見事に連動、連携しているのです。

ねこ村さんが棚を担当していた時代に同店を訪問することができなかったという方は、「ぶんこでいず」をつくっていた人が手がけた棚がどのようなものであったのか、こちらの記事で雰囲気を感じ取っていただければと思います。
 

発行店:TSUTAYA寝屋川駅前店
発行頻度:月刊

第9回 リブロecute日暮里店+Carlova360 NAGOYA(カルロバ名古屋)「パーマネント」

エリアやチェーンを横断した複数の店舗で発行されているフリペについては、第6回の「晴れ読」第8回の「ブックトラック」などで紹介済みですが、今回取り上げる「パーマネント」は、同じチェーンの複数店舗で発行されているもの。

店名だけではわからないかもしれませんが、Carlova360(カルロバ)はリブロのショップブランドの1つで、現在はパルコ名古屋内の店舗だけで使われています。「パーマネント」はカルロバとecute日暮里店、2店の担当者が共同でつくっているもので、リブロと系列のお店全店で発行されているものではなく、担当者のお店、2店のみで配布されているようです。

サイズはA4の用紙を四つ折りにした文庫判で、クラフト紙のような色味と質感のある紙に刷られています。紙名は内容から読み取るに、担当者二人の天然パーマ(?)からとられたものなんでしょうか。

2016年10月に発行された創刊号、12月に発行された第2号を見ると、両面にぎっしりと情報が詰まっていて、その分、やや文字は小さめ。当方のような老眼に悩まされている身にはいささか小さすぎる感じもしますが(苦笑)、そこは伝えたいこと、書きたいことがたくさんあるということなのでしょう。

創刊号の表紙に「本屋「パーマネント」開店。」とあるように、2016年11月に刊行されたばかりの『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)に登場する書店同様、フリペ自体が架空の本屋さんに見立てたものになっているようです。中身のほうも、棚やフェアを意識したものになっています。本の紹介が中心ですが、新刊に偏ることなく、既刊もとりまぜて新旧もジャンルもばらばらの本がたくさん紹介されています。担当のお二人が音楽好きなのか、音楽ネタが多いのも特徴で、読んでいて印象に残ります。

フリペのつくり手が楽しんでつくっていることが、全体から伝わってくる内容になっています。リブロecute日暮里店Carlova360 NAGOYA(カルロバ名古屋)の店頭で、実物をチェックしてみてください。

 

リブロは、こうしたフリペの扱いなども各店の裁量にまかされている部分が大きいのか、これまでも店舗独自のフリペが発行されていた例がありましたね。たとえば、池袋本店で数年前に発行されていた「池店別冊」。編集人には、当時はリブロに在籍、現在は東京・荻窪の本屋Titleの店主となっている、辻山良雄さんの名前がありました。

第4回の児童書関連フリペをまとめて取り上げた際に紹介した「わむぱむ通信」も、元は池袋本店の児童書売り場「わむぱむ」発のフリペで、後に別の店舗から発行されたものです。

「パーマネント」を見ていると、リブロに流れるフリペ文化のようなものは、店や担当者は違っても、実は脈々と継承されているのかもしれないなあ、などと、そんなふうにも思えてきます。
 
 
発行店:リブロecute日暮里店Carlova360 NAGOYA(カルロバ名古屋)
発行頻度:隔月刊

第8回 吉祥寺書店員の会「吉っ読(きっちょむ)」企画フリーペーパー「ブックトラック」

「吉っ読(きっちょむ)」は、吉祥寺の書店5店(BOOKSルーエ、パルコブックセンター、啓文堂書店、ジュンク堂書店、ブックファースト)の書店員有志の集まりです。現役の書店員が中心ですが、一部、元吉祥寺の書店員だったというメンバーもいますし、吉祥寺の出版社、夏葉社の島田潤一郎さんやわたくし空犬太郎のように、出版関係の参加者もいるなど、ゆるやかな集まりになっています。

「吉っ読」自体は、2006年の結成で、もう10年以上になる会ですが、合同でのフリペ創刊は2012年のこと。チェーンで発行しているものや、第6回で紹介した「「晴読雨読」(はれどく)」のような、複数の書店が参加するフリペは存在しますが、この「ブックトラック」のように、同じ商圏に共存する新刊書店が合同で発行している例はめずらしいのではないでしょうか。

「ブックトラック」とは、書店や図書館で使われている、本を運ぶための移動棚(キャスター付きワゴン)です。それに、Book to Luckという英語(のようなもの)を引っかけています。

サイズは、A4判用紙を四つ折りにしたA6判8ページ。天の袋を、背のぎりぎりのところまで切り、ホッチキスで綴じなくても紙がばらばらにならないようにするなど、造りにも工夫をしています。

内容は、本の紹介、自店の紹介、身辺雑記、吉祥寺に縁のある本関係者へのインタビューなど、バラエティに富んだものになっています。執筆は参加店の書店員が中心で、表紙の詩とイラストも参加メンバーの手になるものです。企画・編集は筆者(空犬)が担当しています。

「吉っ読」参加各店のほか、西荻窪のブックカフェ、beco cafe(店主が元吉祥寺書店員でした)でも配布していましたが、同店は残念ながら2016年に閉店となってしまい、一時期参加してくれていた啓文堂書店三鷹店もメンバーが異動になってしまったため、現在は吉祥寺の書店のみでの配布となっています。
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参加店のなかでも、BOOKSルーエはとくに本屋フリペに熱心なお店です。ルーエの花本武さんはPOPを書く感覚で、業務の空き時間、それこそ5分あれば1枚フリペを仕上げてしまうというくらい気軽にフリペをつくってしまうフリペ職人。これまで同店では「ルーエの伝言」「徳政令」などのフリペが発行されていたほか、他店とのコラボフリペをつくったり、「月刊花本武」なる俺様全開のフリペをつくったりしたかと思えば、「SKYDOG JOURNAL」という、空犬(当方のことです)を特集したという、もはや誰が誰に向けて何のためにつくっているのかもよくわからないフリペをつくったりまでしています。日本でもっとも本屋フリペを楽しんでいる書店員の一人と言っていいかもしれません。

「吉っ読」の他の参加店では、現在は独自の本屋フリペは発行されていませんが、BOOKSルーエでは「新ルーエの伝言」が発行されています。同店2階にあるフリペコーナーには本屋発でないもの、個人のものも含めて、おもしろフリペが複数並んでいますので、そちらもぜひチェックしてみてください。
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※発行店はBOOKSルーエ、パルコブックセンター吉祥寺店、啓文堂書店吉祥寺店、ジュンク堂書店吉祥寺店、ブックファーストアトレ吉祥寺店です。
※発行頻度は季刊(目標)です。

第7回 セントポールプラザ書籍店「本屋でんすけ にゃわら版」

本連載で紹介している本屋さんのフリーペーパーは、文字だけのものもあれば、イラストやマンガの入ったもの、プロ並みのデザインセンスでつくりこまれたものから、ゆるゆるのつくりのものまで、さまざまなタイプのものがあります。

そんなバラエティ豊かな本屋フリペの世界には、筆者が勝手に「美術系書店員」と呼んでいる、素人の余技とは思えないレベルの描き文字やイラストの腕を存分にふるい、完成度の高いフリペをつくっている書店員さんたちがいます。今回紹介する「でんすけ」氏もそんな美術系書店員の一人です。

でんすけ氏の手になるフリペは、その名も「本屋でんすけ にゃわら版」。本稿に添えた写真だけでも、そのイラストや描き文字のクオリティの高さは充分に伝わるかと思いますが、実物を手にするとさらに驚かされることになります(実物はこちらからどうぞ)。フリペは、オール手書き。描き文字もイラストも文章も本のセレクトも、すべてでんすけ氏の手になるものです。

A4横置き両面に印刷されていて、片面に6点分の本の情報が配置されています。それぞれのブロックは、切り取ればそのままPOPに使えるようになっているなど、バランス感覚にすぐれたデザインの紙面は、一度目にしたら忘れられません。

ネーミングにもそのセンスはあらわれていて、読み上げるとわかる語呂のいいタイトルも秀逸。こんなすてきなフリペを忙しい書店員業の合間につくりあげてしまうでんすけ氏には、あちこちの版元や本関連のイベントから、イラストやペーパー、ポスターなどを求める声が集中しているといいます。それも当然と思えてしまうような、まさにフリペ界に現れた新星といっていいでしょう。

実物をご覧の方はお気づきかと思いますが、この「本屋でんすけ にゃわら版」には、発行店の情報が記載されていません。でんすけ氏の勤務店で配布されているのはもちろんですが、全国のいろいろなお店で配布されています。でんすけ氏自身もあちこちのお店で使ってもらえるのは大歓迎というスタンスで、お店のサイトでデータを公開、自由にダウンロードできるようにしています(こちら)。印刷・配布にあたって、とくに断る必要もないとしているそうで、となれば、こんなおもしろいフリペを周りが放っておくわけはありませんよね。でんすけ氏自身、自分でも、いまどの店で、どれだけの店で配布されているのかよくわかっていないのだそうです。

こんなユニークなフリペをつくり続けているでんすけ氏こと「でんすけのかいぬし」さんは、東京・池袋の立教大学内にあるセントポールプラザ書籍店に勤務する覆面スタッフ。お店は、池袋駅を西口側に出て徒歩数分、立教大学の正門の向かいあたりにあるセントポールプラザの2階にあります。立教大学の敷地内ですが、一般の方も自由に入れるようになっていますし、利用にも学生証などは要らないそうですから、「本屋でんすけ にゃわら版」に興味を持たれた方は、サイトからのデータダウンロードで済ませずに、ぜひお店も訪ねてみるといいでしょう。お店には最新号だけでなく、バックナンバーもずらりと並んでいますよ。
 
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発行店:セントポールプラザ2階 書籍店
発行頻度:月刊