絵本という種を播き続けた絵本プロジェクトの10年
2011年3月11日の東日本大震災から10年という節目を迎える年になりました。
現代企画室は東京の出版社ですが、末盛千枝子さんを通して被災地とかかわる仕事をさせていただきました。
出版社すえもりブックスを主宰し、すばらしい絵本を数々手がけてきた末盛千枝子さんの著書『人生に大切なことはすべて絵本から教わった』を出版したのが2010年。そのご縁は末盛さんが岩手に移住されてからも続き、末盛さんがかつて編集した絵本などを復刊する「末盛千枝子ブックス」の立ち上げ準備を進めていた頃、2011年の東日本大震災が起こりました。故郷である岩手に移られてまもなく、あの大震災を体験した末盛さんは「被災地の子どもたちに絵本を届けられないか」と呼びかける手紙を知人、友人に送りました。
末盛さんの声を受け止めた盛岡市中央公民館が、絵本を受け入れる場所を提供し、「3.11絵本プロジェクトいわて」が立ち上がります。末盛さんからの相談を受けて、『人生に大切なことをすべて絵本から教わった』の元となった連続セミナーの参加者たちを中心とするネットワークに絵本の提供を呼びかけたところ、多くの協力者が名乗りを上げてくれました。多くの人が「自分にもできることがある」という想いで喜んで協力してくれました。そして、末盛さんが絵本を集めていることを報じる小さな記事が日経新聞に載ったことで、さらに大きな反響が起こり、やがて全国各地から23万冊という膨大な数の絵本が届けられることになります。
さて、届いた絵本をどうやって被災地に届けるか。本を並べる場所もないような地域にも絵本を届けられるよう、本棚を備えた車「えほんカー」が考案されました。私たちも「3.11えほんプロジェクトいわて」の活動支援を検討し、絵本プロジェクトの様子を報告するパネル展を開催して岩手から「えほんカー」をお招きしたり、末盛さんのトークイベントを開催して活動の様子をお話しいただいたり、岩手にお邪魔して絵本の仕分け作業に参加させていただいたこともありました。
その過程で、えほんプロジェクトで活動する方々と交流する機会が増えていったのですが、主婦層を中心とした女性たちの強力なネットワークとチームワークの良さには驚かされました。広い室内に積みあげられた段ボールの山にぎっしり入った本。それをキビキビと開封しては送り主を記録し、本を分類していく地道な作業を、ボランティアの手で迅速に進めていくために、メンバーのみなさんはさまざまな工夫を凝らしていました。意識高く活動しつつも生活を犠牲にしない活動スタイルなど、学ばせていただくことがたくさんありました。
そして、全国から23万冊を集め、「えほんカー」で被災地に絵本を届け続けたこの稀有な活動をぜひ記録に残さなくては、と2年後の2013年3月『一冊の本をあなたに』を出版しました。
「3.11絵本プロジェクトいわて」は、被災地の子どもたちに絵本を届ける活動を10年間継続すると宣言し、この10年の間、被災地への絵本の寄贈や出張読み聞かせ、「絵本サロン」など絵本を通して被災地支援の活動を続けてきましたが、ついに2020年12月のクリスマスイベントを最後に、絵本の寄贈活動を終了することになりました。これまでに374箇所を訪問し、12万4500冊もの本が子どもたちに届けられました。2021年の3月には、盛岡市中央公民館で活動報告展が開催され、10年間の活動がついに締めくくられることになります。
子どもたちに絵本を届け、「あなたのことを思っている人がいますよ」というメッセージを伝え続けた絵本プロジェクト。彼らが子どもたちの心に播いた種は、絵本を読んで育った子どもたちの中にどんな風に芽を出していくのか、これからが楽しみです。