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医書ビブリオバトル:学術書と一般書の架橋のあり方

 弊社は、「医書ビブリオバトル on POP」というフェアに参加している。このフェアでは医書出版社24社がムネアツの他社本(ジャンル不問)とイチオシの自社本(医書に限る)各1冊を選書、それぞれにPOPを作成し、POP上で推し合戦を繰り広げる。

フェアの背景には、「#SNS医療のカタチTV やさしい医療の世界」というネット番組との連動がある。この番組は患者・医療従事者間、患者・家族間、医師・看護師間など医療を取り巻くすべてのコミュニケーション・エラーを解消することを志して制作された。
 そうした事情もあり、選書方針として、
1.医療現場のコミュニケーションエラーに示唆を与える本
2.医療従事者だけでなく一般の方にも興味を持っていただけそうな本
3.“文学が大好きで文学の力を信じてやまない私”の個性を出せる本
という3つの方針を立てた。
 そうして選書したのが、他社本『美しい距離』と自社本『ナラティブ・メディスンの原理と実践

である。
 率直に書くと私は母を癌で亡くしているため、医療にかかわる小説やドラマは辛くて最後まで見れない、読めないことが多い。『美しい距離』は末期がん患者を描いた小説であるにもかかわらず、非常に読後感が爽やかで、救われた気持ちになる私にとって特別な一冊だ。この小説の登場人物たちは他者から「末期癌患者はきっとこう思うべき、こう過ごすべき」「死にゆく人の家族はこうあるべき」と様々な物語や役割を与えられがらも、「自身の人生を生きたい」「大切な人が最後まで自分らしくあれるように」と思うことをやめない。自分の母が「若くして家族を残して死ぬ人」という型にはめられ、彼女が歩んできた人生がどんどん書き換えられていく感覚や、いろんな人が私に対して様々なかたちで押し付けてくる「もうすぐ死ぬ人の娘さん」という役割に対して、他人が思うようにふるまわねばならないのか、こんなふうに思うなんて私は家族としておかしいのかともやもやした感覚すべてが代弁されており、だからこそいろんな人に読んでいただきたかった。
 「物語能力」というのは、勝手に自分の好きな解釈や意味づけをすることでは決してない。いかに当事者によりそい、こころを読み解き、自分が受け取ったものを適切にアウトプットできるのかが重要になる。それをとことん突き詰めて考え、文学や芸術が医療のかたちを変えることに寄与できると示したのが自社本である。英文学科出身で、入社当時自社の刊行物について右も左もわからなかった私にとって、「ナラティブ・メディスン」関係の一連の書籍は、学術書を身近に感じるきっかけとうれしい驚きを与えてくれた。文学や人文知が医学という実学に対して貢献できると信じる人々がいて、ひとつの分野となっていることにワクワクし、学問や専門書が自分の想像以上に日常と地続きであることを知った。そのおかげで企画や販促時に過度に身構えることがなくなったように思う。
 最初にフェアが開催された大垣書店京都本店さまでは数千円から数万円する医書がどれも1冊以上売れるだけでなく、小説やマンガ、エッセイなど多種多様な他社推し本もすべてが1冊以上売れたそうだ。約1か月間のフェアで、普段医書を取り扱っていない店舗さまで自社本他社推し本計48点がまんべんなく売れたということは、学術書出版社が思う以上に人々は専門書に関心があるものの、手に取るきっかけと出会っていないということであろう。逆に言えばきっかけさえ作れれば興味をもって近づいてきてくれる読者はたくさんいらっしゃるのだ。
 自社を見ても他社を見ても、専門書の出版社はその分野で修士号以上を取得されている方が多く、学卒かつ異分野出身の私が出版とどのように向き合い、何をつくり、どう売っていくのかについてしばしば悩んできた。今回のフェアはそんな私に対して「学術書と一般書を架橋したいという気持ちを持ち続けて模索すればよい。本と人の出会い方にはまだまだいろいろな可能性がある」とエールを送ってくれたように思う。

図 医書ビブリオバトルで掲載した実際のPOP

★関連情報
SNS医療のカタチTVウラ話:全24社すべてのPOPと病理医ヤンデル先生によるコメントが閲覧できる。
これまでのフェア開催地(2020年10月時点):大垣書店京都本店、紀伊國屋書店新宿医書センター、高陽堂書店、三省堂書店名古屋本店、ジュンク堂書店大阪本店、ジュンク堂書店広島駅前店、ジュンク堂書店&丸善/岡島甲府店、福岡徳洲会病院、山形県公立置賜総合病院病院図書室

投稿者:北大路書房編集部 大出ひすい
私立大英文学科卒、IT企業での勤務を経て2018年に北大路書房入社。
入社時より編集制作だけでなく、書店フェアの企画運営やtwitterでの広報など営業・販促活動を担当。

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