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どこでもできる、なら、自然と暮らせるところにしよう、で、京都から宮崎へ。

はじめまして、ヴィッセン出版の前田朋と申します。
ヴィッセン出版は京都北区に事務所を構え、小さくまとまって仕事を続けてきました。「大自然への扉となる本を届けたい」と思って、京都にある出版社を退社した後、立ち上げました。

立ち上げたときの「思い」通りではないにしろ、いろいろな著者と出会い、人と知り合い、編集という仕事を楽しんできました。もちろん今も。
このままずっと生まれ育った京都で、と漠然と思っていたのですが、家族が宮崎の大学に進学をしたことで、いままで「遠い地方の町」程度の場所が一気に魅力的な場所にかわりました。
ウミガメが産卵にやってくるし、野生馬が暮らす岬があるし、昆虫は当たり前のように居るし、鳥もそのせいで多い(気がする)し、なんといっても果物が年中実っているし。ここなら、創りたい本がつくっていけるのではないか。創りたいモノを感じながら、テーマが探せるのではないか。訪れるたびにその気持ちが大きくなり、出版社を立ち上げた当初の気持ちがムクムクと、しっかりと形になってきたのは、「もうこのまま京都でなら、小さくなら、続けていけるかな」、と思い始めたころでした。
で、宮崎か。やっていけるのだろうか。と心配したことはありません。
いきなり京都の家と事務所に使っていたところを売り払って、宮崎へ、というわけには行かず、まずは住む家を借りよう、在庫を置けるマンションを借りようと動き始めました。諸々、移住をして1ヶ月程度は環境を整える時間も必要になるだろうし、と、銀行に「宮崎に移転するので、まずは家を借りたい、なんだかんだの資金が」と相談したときにはじめて「宮崎? 大丈夫ですか。仕事つづけられます?」と言われ、「続けられる? 続けられるだろう、私は辞めないんだから」と。ここにきて、やっとやっていけるのだろうか、と一瞬、思ったのです。

移住にともなう変化は、京都で「普通」になっていた私の本をつくる環境や姿勢をみなおす大きなきっかけになりました。
もっとも大きいと気がついたのは人とのつながり、でした。当たり前のことなのですが、企画であれ、出版補助であれ、個人の自費出版であれ、編集者ひとりで成り立つものではなく、「本の素」が発生しなくてはならない、ということです。そこには必ず相手が居る。研究者から「こんなことを考えている。論文にもするけれど、多くの読者に目にしてもらえる冊子にできるだろうか」とか、「本のスタイルとして、答えはこの本を読んだ後に自分で動いて探してね、になるような形で編集してはどうだろうか」とか。多くのアイデアや素材を提供してもられる人とのつながりがあることで、成立していた仕事であったということを、改めて意識しました。普通である環境を一から造ることを、いまさらながら大変なことかもしれない、と意識するようになりました。
「続けられるのだろうか」移住して半年くらいは、本気でそう感じることがありました。
今、2年前を振り返って言えるのは、不安の解決策はただひとつ。動き回ることだと分かったことです。
で、まだ旅行者気分のままに、さまざまなプロジェクトやフォーラム、県・市が開催している市民参加型の企画にはなるべく参加し、いろんな人に出会い、知り合いになることを始めました。「宮崎野生動物医学会」とか、「宮崎昆虫研究学会」とか「宮崎植物研究会」とか「大淀川水辺の活用を考える会」とか「照る葉の森を守る会」とか、もろもろ。動くと自分が不安にとらわれることもなく、「動いた分しか進まないな」と、これもいまさらながら感じられるようにもなり、なんとなく宮崎でのスピード感や編集者としての動き方が分かってきたように思います。

一方で、宮崎は市内に空港のある町なので、考えようによっては日本各地に行きやすい。京都よりはるかに開かれている町だとも言えます。陸路については自然の要塞に囲まれているので、どこに行くにも時間がかかります。宅配便も翌日配送はできないですし、Amazonだからといって明日には届きません。ただ陸路の不便さを除けば、宮崎にいても今までと同じような活動ができることにも気がつきました。もちろん、時間と経費がかかりますから、参加していた研究会によっては近畿圏で活動をしている別の編集者を紹介してほしい、と言われるところもありましたけれど。

いま、編集も打ち合わせもインターネット環境が整っていれば地域にとらわれることなく行う事ができます。2020年のはじまりとともに全世界をパニックに陥れた感染症流行拡大によって、あるいみそのコトは証明されたと感じています。政府が推奨しながらなかなか企業が対応できなかったテレワークが一気に進んだことでも、自分が発信したいコンセプトが明確であるなら場所にとらわれる必要はない、と証明されたと感じています。ただ同時に、やはり人と会うこと、直接人の声を目の前で聞き、その場の雰囲気で察し、思い違いをぶつけ合い、相手の熱を感じることは、編集者にとって大事にしていくべき要素だとも実感しました。

宮崎での暮らしが3年目に入りました。宮崎はもちろん地域によりますが、私の事務所のある地域は、道を尋ねたくても尋ねる人を探せない、ムクドリやキジや烏の数の方が圧倒的に多いのではないか? と思える地域なので、静かです。この静かさのいかの大きいことか。夜は真っ暗です。この暗い夜のいかに重要なことか。
京都で「小さくなら続けていけるのではないか」と思っていたよりも、規模は小さくなりました。だから「小さな出版社」どころの話ではなくなりました。でも、かなり自由に考えられる様にもなりました。自分が作りたいモノを時間をかけて見つけ、それに携わる人に歩き回って出会う。たぶん、かなり小さな世界のなかで、ずっと続けて行くだろうと思います。

どうぞ、見えなくならないように活動してまいりますので、みなさまの参加型の活動にお声掛け頂けますようお願いいたします。

ヴィッセン出版の本の一覧

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