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直接本を届ける

心理学分野で専門書・一般書を刊行しているちとせプレスも4年目。刊行点数が14点と,まだまだ「よちよち段階」ではありますが,なんとか生き延びています。

◆直接取引という手法
本の流通に関しては,直接取引で話題(?)のトランスビューと協業していて,そちらから全国の書店に本を届けてもらっています。ナショナルチェーンや地域の大手書店,こだわりのお店などには直接本を届けていて,取次経由を希望される書店には「買い切り」として本を届けています。出版社を創業するにあたり,本の流通が一番の懸案でした。いまのところ,大きな問題は生じていないように感じていますので,よい判断だったのかなと思っています(別の選択肢も限られてはいましたが)。どういうところから注文が入っているのかがすぐにわかります。学術的な書籍を扱っているため,自治体や大学の図書館に購入いただくこともけっこうあります。
今回はその直接取引を委託している側の舞台裏を赤裸々に語る……わけではなく,「出版社→書店→読者」を超えて,直接本を届ける「出版社→読者」というルート,いわゆる直販について少し書いてみようかと思います。ちなみに,トランスビュー方式については,石橋毅史『まっ直ぐに本を売る―ラディカルな出版「直取引」の方法』(2016年,苦楽堂)に書かれてありますので,関心のある方はご一読いただければと思います。

◆直販サイト
さて,直販というと,読者の方に直接本を届ける(販売する)ということですが,出版社宛に「○○の本がほしいので売ってほしい」という電話がかかってくることもたまにあると思います。その場合に,みなさまはどう対応されていますか。近くの書店で注文してほしいとお答えするとか,あるいは配達・集金等をしてくれる業者につなぐとか,あるいは振込用紙を同封して送る場合もあるかもしれません。最後の「振込用紙を同封して本を送る」というのは集金のリスクがどうしても生じてしまう。代引きで送るという手もありますが,割高にもなるので,あまりお勧めしにくい印象です。事前入金してもらったうえで本を送ることもよくあることでしょうか。
最近では,自社に販売サイトを設けていて,そこで購入・課金してもらうということもあると思います。ちとせプレスも販売サイトを設けています。
こちらはネットショップを無料で開けるBASE のサービスを利用したものです。クレジットカードやコンビニ決済等に対応しているので,Eコマースに慣れている方であれば問題なく購入していただけると思います。ただ,やはりある程度のネットリテラシーは必要かと思いますので,そこは課題だろうとは思います。実際に,うまく購入できなかったという方から問い合わせがあったこともあります。
ほかに似たようなサービスとしてSTORES もあります。こちらは5点までは無料,それより多い場合は有料です(2019年3月現在)。じつはこちらでも1点だけ販売しています。Collected Papers on Trajectory Equifinality Approachという英語の書籍を1冊刊行しており,ほかの書籍と同様に日本で流通させているのですが,海外の方が購入したい場合に日本の(ネット)書店で探したり,購入したりすることは難しい。また,BASEだと海外への送料の設定がうまくできないのですが,STOREだとある程度対応できる,ということから,この1冊だけSTOREを利用した販売サイト(https://chitosepress.stores.jp/)で販売しています。
いずれももちろん手数料がかかるのですが,それほど気にならない程度だと思います。いまのところ国内への送料は無料にしていますが,有料にももちろんできます。ちなみに,この販売サイトで購入されたものは,私が1冊1冊梱包してラベルを貼って発送しています。だからなんだということではありますが……。
ただ,BASEにしてもSTOREにしても,どうしてもほかで入手しにくい場合のための「保険」として作っているので,あまり積極的に広報もしていません。実際,ネット書店で在庫がない場合に,出版社のサイトまで行って購入するということは購買行動としては少ないのではないかと思います(他の書店で注文するとか,あるいはあきらめることが多そう)。ちとせプレスの販売サイトでは年間に数点くらいしか販売実績はないのですが,それでも「保険」としてはあってもよいかなと思っています。
アイデアとしては,自社サイトの場合は特典付きにするということもありうると思います。サイン本にするとか,おまけをつけるとか,他のもの(著者のおすすめの紅茶とか。適当ですが)と一緒に売るとかできるので,やりようによってはいろいろとできそうです。

◆海外の読者に本を届ける
先ほど英語本のことを書きました。「直接本を販売」しているわけではないのですが,関連してユニークな販売をしていることがありますので紹介しておきます。英語の本ですから,日本というよりは海外で流通させたいと思ったわけですが,どうしたらそんなことができるのかよくわからない。英語に堪能であれば向こうの業者に相談して委託するということもできたのかもしれませんが,正直ハードルが高すぎる。どうしたものかと思って,たどり着いたのがLulu というサービスです。
海外では自費出版が非常に盛んと耳にしますが,このサービスではプリントオンデマンド(POD)の手法で,注文があれば印刷・製本して届けることができます(自分用に購入することもできる)。サイトを見てもらえばわかりますが,本のサイズから製本までいろいろなパターンを選べるので,わりと面白いサービスだと思います。そしてここで登録すると,海外のAmazonやBarnes & Noble,IngramでPODを受注してもらうことができます。データとしては,本のサイズに加工したPDFやカバー画像を送るだけです。PDFなので,日本語であってもおそらく印刷可能だと思います。実際の販売前に,1冊は自分で購入して「検品」する必要がありますので,そこで確認することが可能です。若干面倒なのは,租税関係の書類等々の手続きで,悪戦苦闘しながら何とか販売することができました。本体8000円の専門書なので販売実績は限られていますが,海外で本を購入したい人に本を直接届ける,ということは実現できたので,よかったかなと思っています。

◆手売り
神保町ブックフェスティバルなど,本に関するイベントで直接「手売り」する出版社もけっこうあるのではないかと思います。ちとせプレスとしてはそうしたイベントに出展することはこれまであまりないのですが,全国の研究者たちが集まる「学会」にブースを出し,そこで販売するということがあります。心理学分野の学会は非常にたくさんあるのですが,1000人規模,あるいは数千人規模の大きめの学会もいくつかあり,そうした学会に出展することがあります。この3月には日本発達心理学会が早稲田大学で開催され,そこにブースを出しました。

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まだ十数点しかないので,かなり「素朴なブース」になっていますが,社名入りテーブルクロスくらいは作ろうかと検討中です。今回は2日半で20冊ほど。売り上げとしては微妙なところです。学会にもよると思いますが,出展料を払う必要があったり,搬入や搬出の手配(送料がかかる)をしたり,販売員としてブースにいないといけなかったりと,小さい出版社としては悩ましいところはあります。編集も営業も含めて1人で行っているので,シンポジウムやワークショップを聞きに行って,その休憩時間にブースに立って,ということになります。ただ,新刊のPRの場にもなりますし,研究者の方々と直接話ができますし,「こういう本を出していますよ」という広報としても意味があると思うので,今後もたまには出そうと思っています。
著者の方が宣伝してくれたり,関連するワークショップを開催してくれたりすると,わりと反応があります。あと,あまり大きい声では言えないのですが,学会の際は割引で販売するということが慣例になっていて,学会の際にいろいろな版元ブースでたくさん買っていく方もおられます。期間が限定されていて,購入者も限定されている,ということからそうなっているのでしょうか(私も詳しくはよくわからない)。あと,研究者ということで,公費で購入される場合もけっこうあります。

◆著者による購入
最後ですが,「直接本を届ける」ということでいえば,じつは「著者による購入」の割合が一番大きい。版元や書籍の種類(専門書かどうか)にもよると思いますが,「買い上げを条件に出版を引き受ける」ということもあると思います。ちとせプレスの場合は,「条件」にすることはあまりないですが,少なくとも「お願い」や「期待」はしています。実際,著者もお世話になった方などに献本したいということが多いので,刊行時に数十冊,場合によっては100冊以上購入いただくこともあります。著者の知り合いの方から口コミで本の情報や評判が広がっていくことも多いと思いますので,そういう意味でもありがたいことです。

◆おわりに
書店で購入いただくことがメインなのはこれからも変わらない(変わらないでいてほしい)と思いますが,「直接本を届ける」ことで見えてくることもある気がします。事務所にこもっていると,なかなか「読者」と直接やりとりすることは少ない。また,日々書店の方が体感されている「本を売ることの大変さと楽しさ」の一端も感じます。何より自分が作った本を目の前で買っていただけるのは,単純に嬉しい。それは出版活動の原点でもある気がします。

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