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つくばの書店事情-その後

出版社は、本を出版することを業とする。
当たり前だ。
その当たり前がいかに難しいか、悩ましいか、思い知らされている。
でも、絶望はしていない。
その辺のことを少しばかり。

前回の「版元日誌」が、2016年7月20日だった。

このときは、つくばの友朋堂書店がこの年2月に閉店して、
8月にそのシャッターを開けるぞ!という決意表明のようなものだった。
実際にイベントは「友朋堂書店一箱古本市」として開催され、
夏休み8月第1日曜日にもかかわらず、
大盛況のうちに終わった。

一箱古本市の呼び掛け人で、広めている南陀楼綾繁さんご本人に
来場いただくなど関係方面からの応援もあったことが大きいが、
筑波研究学園都市で学生時代を過ごした方たちが、
友朋堂書店再生のためにとかけつけてくれた。
自己を確立する学生時代に出会う本の存在がいかに大きいか改めて思い知った。

このイベントは、私を中心とする実行委員が主催した。
とにかく友朋堂書店のシャッターをこじ開けるぞ! というやや手荒なものだった。
そのとき、実行委員の間で取り決めていたことがあった。
「次やるときは、実行委員会でなく友朋堂書店自らが主催で、
我々はあくまでサポートにまわろう」
ということ。
1回目が終わって、よく「次は?」と尋ねられた。
それは、友朋堂書店次第なので、「分かりません」と応えるしかなかった。
一番もどかしいのは私自身だったが、
でも「こういう声があった」と友朋堂書店には伝えた。
そして、暮れも押し詰まった2017年12月17日、
友朋堂書店が自ら主催して「本と『食べる』の贈りもの」が開かれた。


このイベント内で、一箱古本市も開かれた。
1年半ぶりに、店内がひとであふれ返った。
もちろん書店内の棚がすべて書籍で埋まったわけでない。
埋まらない書棚を埋めるのに、
弊社も、棚まるまるひとつをいただき、
ぜいたくな棚を作らせてもらった。
POPも、本だけでなく雑貨も並べるだけ並べた。

棚の前で本を手に取るお客様と、本を媒介に、話ができた。
出版社をやっていて良かったと思えた瞬間だった。
ちなみに友朋堂書店には、焼き芋屋さんがある。
カフェのある本屋なんて、もう当たり前!
これからは焼き芋屋の時代だね。
というのはともかく、焼き芋仙人の焼く珪藻土を使った壺焼き芋、
つくばエクスプレスを使って食べに来る価値ありだ!

新玉のめでたい新年早々に陰気くさい文章で恐縮だが、
例の「漢字で1年をふり返る」にちなんで
友朋堂イベントからの1年半をふり返ると、「崩」という漢字が頭に浮かぶ。
・2017年2月、日本地図共販が経営破綻
・2017年2月、西武百貨店筑波店が撤退

地図共販は、弊社の取次会社だった。
今だから書いても良いと思うが、経営破綻する2年ほど前から様子が変だった。
書店で私が取ってきた書籍が書店に納品されない。クレームを入れると、なんのかんのと言い訳ばかり。
どこに何冊出荷したのか、そのリストを求めても、もらえない。当然、支払わない。
詮方ないので、裁判を起こした。請求額が弁護士費用を払えるものでなかったので、自分で告発書類をしたためた。
ひとを喜ばせる文章は得意だけど、無味乾燥な文章は苦手だ。
簡易裁判所の書記官に教わりながら、書類を作った(書記官の優秀さを思い知った)。
公判は都合4回、2016年11月に結審。
和解にもちこみ、買掛金のうち一部をなんとか支払ってもらった。
その4か月後の経営破綻だったから「首の皮一枚」だった。

筑波西武は、つくば駅前のショッピングセンター「クレオ」のキーテナントのひとつ。
その5階にリブロつくば店が入っていた。
西武撤退とともにリブロも無くなるのでは? と心配されたが、
雑誌中心の売店のような形で、存続が決まった。
西武の閉じられたシャッターの前でいまもがんばって営業を続けているが、
2018年1月から2月にかけて「クレオ」のもうひとつのキーテナント、
クレオつくば駅前店をはじめ専門店が撤退する。
どうなる? と思われたリブロは、
クレオの目の前のテナントビル「キュート」に移転することが決まった。

個人的な話で恐縮だが、父を2017年2月に亡くした。
もうこの1年から2年にかけていろいろなものが崩壊していく。
駅前の衰退、出版不況などのキーワードをあげれば、
けっして特別なことでなく、
日本全国で起きていることだと思うが、
にしても「どうして自分ばかり」の気分だ。

でも、希望の芽がないかというとそうでもない。

友朋堂書店の復活もそうだが、あの一箱古本市をきっかけに、
えほんやなずな」という書店がオープンした。
研究者の奥さんで、子ども劇場を運営してきた藤田さんが、
「まちに書店を」と立ち上げた。
このほか、陶芸家のKさんが、「女子系古書部」というサロンのような場を
毎週木曜日に開催している。
Kさんも、友朋堂書店一箱古本市をきっかけにネットワークができて、
つくばで、古本市を開催したりし始めた。
本を巡る動きは、小さな点としてまちに広がっている。

「えほんやなずな」のつくばでの一連の動きは、
2017年9月20日に、yahooニュース
本屋をつくる人たち 「厳しい経営を承知で」のなぜ>で紹介された。

私も取材を受けたが、この記事の冒頭が
「これといった特徴もない住宅街の一角に」だった。
磯崎新をはじめ、都市を連なる遊歩道(ペデストリアン)など
それなりに、日本の都市を象徴するのがつくばだと思っていたので、
「これといった特徴もない住宅街」の一文にかなり落ち込んだ。

ただしばらく立って、そうかもしれないと思い直した。
いつまでもポストモダンなのなんだのといっても、
「井のなかの蛙」だ。
そんな黴の生えたプライドがかえって現実を見えなくしているのかもしれない。
さて、つくばの出版社としての弊社、結エディットはどうか?

書籍を出せていない。
2015年の『ストーム・チェイサー-嵐と夢を追い求めて』が最後だ。
これで版元ですなどと大きな顔をしていられない。

でも、ようやくここに来て新刊を出せることになった。

『戸建住宅地管理論-自律共生型社会による』
著者=温井達也(プレイスメイキング研究所 代表取締役社長)

2004年に創業した筑波大学発ベンチャーのプレイスメイキング研究所は、
つくばエクスプレスの研究学園駅を中心に開発が進むエリアで
新規に建てられる戸建住宅地の管理・運営を主にしている。
アメリカのHOA(Home Owners Association)がモデルだが、
日本の慣習にあわせ、計画的戸建住宅地でのコミュニティづくりに携わっている。
住宅ストック、空き家が問題となるなかで、
なぜ新築一戸建てなのか?
この辺も破壊と創造を繰り返すつくばらしい本といえば、いえなくもないが、
編集者としては、新たな都市論としても読めるようにと工夫したつもりだ。

小さな希望だが、はたして取次会社を失ったいま、
この書籍をどう売っていくか?
発売時期は2月。
再びゼロからのチャレンジだ。

結エディットの本の一覧

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