「キャリア」を見つめる本
年齢がわかってしまうが、私の就職活動の年は男女雇用機会均等法施行元年にあたっていた。当時、専門職一本に絞っていた私はそうしたことを意識することなく就職したが、そういえば一般企業入社を目指していた友人たちは一般職と総合職どちらを希望するかで悩んでいた。また、短大で学んだ同期も多く、一足先に入社していた彼女たちは、後に希望をとられたということも聞いた。そして、大手企業に総合職として入社した先輩(女性)はバリバリ働いて残業も元気よくこなし、気付いたら手取り収入が増えて驚いたなんて話していた。と思えば、某大手有名企業で働いていた同級生は、女性は縁故でないと採らないと話していた。そして、縁故入社した身元が確かな(?)女性たちはほぼ社内結婚していくのだそうな(←当時でも驚いた話である)。
さて、男女雇用機会均等法施行から30年余り、自分は女性としてのカテゴリーのなかにいるので、ついキャリアにおける男女差にも目がいってしまうが、それらを意識しなくてもよい社会、また身体的精神的ハンディを持つ人たちもそれを個性としてとらえ、各々が生き生きと働いて輝いていける社会が望ましいとは誰しもが考えることではなかろうか。「キャリア」というと経歴や仕事の経験を一般的にはイメージすると思うが、いまや人生や生き方そのものを意味するようになっている。いきいきと働きいきいきと生きる。そうした視点で企画をたて、刊行した書籍を紹介したい。
●二神枝保・村木厚子編著『キャリア・マネジメントの未来図―ダイバーシティとインクルージョンの視点からの展望―』
人はなぜ働くのだろうか。お金を稼ぐため、自己実現のため、幸福感を得るためなど、いろいろな答えが返ってくると思われるが、仕事への誇りや働きがいを感じつつ働きたいと思っている人が多数いることは容易に推測できよう。個人が職業選択に対して発言権を増し、個人主導でキャリアをマネジメントするようになると、企業サイドにも、従業員が自分のキャリアを実現できるような、魅力あるキャリア・マネジメントのあり方が求められていくようになる。
ANA、サイボウズ、GAPといった人材育成に先進的な取り組みをしている企業のケースを読むと、こうした企業で働き、(あるかないかは不明であるが 笑)眠っているはずの自分の能力を呼び起こしたいと思ってくる。こうした人を活かす取り組みをしている企業を紹介しつつ、「働き方改革」が叫ばれる今日、キーワードとなるダイバーシティとインクルージョンの視点から、キャリア・マネジメントの未来図を予測し、展望しているのが本書なのである。
編著者の二神枝保氏はキャリア研究の第一人者、村木厚子氏は厚生労働事務次官を務めた方である。フィールドは異なっていても両氏に通じるのは、芯の通った強さとしなやかさ、それに裏打ちされた人を見つめる温かい視点ではなかろうかと、この本にかかわって感じているところである。人を活かすことにより、より住みやすい社会になっていく、そのための研究や実務に取り組まれている姿勢を拝見してこの一書を世に送り出せたことに改めて喜びを感じるのである。
●齊藤博・上本裕子編著『大学1年からのキャリアデザイン実践』
日々の生活を通して自分らしいキャリアをつくりあげていくのに役立つ考え方や方法を提供するにはどういった内容がよいか。著者と一緒に悩み、何度も書き換えをしつつ作製した一書である。
ワークシートを入れて、作業をしながら自分について理解を深めてもらおうという構想は当初から出ていた案である。しかし、さまざまな自己分析ツールによって、その結果にとらわれてしまう傾向も見受けられるようである。そうではなく、「キャリア」とは先にも記したように人生や生き方ととらえ、「キャリアデザイン」とはPlan(キャリアプランをつくる)→Do(プランを実行し記録する)→See(実行結果を評価する)を1回ではなく継続的に回していくことととらえる。
キャリア論研究には100年にも及ぶ蓄積がある。その恩恵の意思決定論のプロセスモデルを基本骨格にして、構造論的、心理学的なアプローチを肉付けしていったのである。人生には節目があり、自分の行動や進路について選ぶ機会、次の変化へのチャンスが巡ってくる。選んだ道を歩み続けていく先に広がる次の可能性、選択に備えるスキルを知っているのと知らないのとでは大きな違いが出てくる。
「大学1年からの」とネーミングをしたが、高校生、専門学校生、社会人でも、キャリアについて整理したいとき、迷ったとき、行き詰ったとき、開いてほしいのである。