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まちライブラリーから見えてきた「本と人とまち」  

■「まちライブラリー」とは何?
「まちライブラリー」という活動をご存知でしょうか? 「まち」+「ライブラリー」、わかったような、わからない名前だなと感じられる方も「ライブラリー」は本屋と違うので縁がないなと思う方も少しお時間をください。2011年、私が「本をとおして人とつながろう」ということをテーマに小さなまちの図書館づくりを提唱して早くも6年の歳月が経ちました。今では全国で500カ所以上に広がった活動です。

まちの中にあるカフェ、お寺、病院、自宅、オフィス、銭湯や農場、駅や市役所まで幅広い場所に広がりつつあります。仕組みは、簡単で各自本を持ち寄り、まちの特定の場所に本棚を設置して、その本を思い思いの方法で貸出したり閲覧してもらったりするのです。場所も運営方法もそれぞれの本棚を設置する人達の想いのままのゆるい活動です。本を寄贈したり閲覧したりする折に、本の中にメッセージカードを添付
して「なぜこの本を読んでほしいか」「こんなところに感動した」「本を提供してくれてありがとう!」など様々なメッセージを交換しながら運営しているところもあります。

【「メッセージカード」読んだ人が感想を書き連ねます。】

■気軽なまちの広場

【「まちライブラリー@もりのみやキューズモール」内観】
2017年11月11日、2年半前に大阪市内の商業施設に開設された「まちライブラリー@もりのみやキューズモール」で、来館者が40万人を超えることになりました。たまたまその場に居合わせた私が、3歳くらいの女の子をつれたお母さまに証明書と記念品を贈呈することになりました。「どうしてここに来られるのですか?」と聞くと、「娘の幼稚園が近くで、ここでお友達と待ち合わせるので便利です。ここでは、子どもが泣いたりしても図書館のように気疲れしなくて、本を読めるからこれからも使います!」と答えておられました。ここのまちライブラリーは、入口近くに子どもたちが靴を脱いで絵本や児童書を楽しむ場所があり、奥にはピザ釜が設置されたカフェカウンターがあります。館内では、本を片手にコーヒーやビールを楽しんでいる人がいると思えば、友人や家族と楽しそうにピザを食べながら話している人達もいます。土曜日の午後は、FM局の生放送会場にもなってDJやゲストの明るいトークと音楽が賑やかな場にしています。また利用者が、思い思いにやりたいことを発表したり、ワークショップしたりできる場でもあるのです。このような玉手箱のような場所を子どもからシニアまで幅広い層が利用しています。「気軽さ」、「居心地の良さ」、「思いもよらない本や人との出会い」などこの場に集う人たちの気軽なまちの「広場」になっているといえます。

■想いの詰まった小さな「まちライブラリー」
 さてこのように大きなまちライブラリーがある一方、まちの中にひっそりとたたずむ小さくても素敵なまちライブラリーもたくさんあります。そのような場所は、本が好き、人が好き、何かやってみたいと思っている個人の方が、それぞれの想いを持って運営していています。私は、そのようなまちライブラリーに時たまお邪魔してお話を伺ったりしています。例えば、奈良県東吉野村には、人文系の本を集めているご夫婦が、山の中の川辺に佇むまちライブラリーをやっておられます。カフェにもなっており、遠くから車で来られる方もおられます。また同じく奈良県大和高田市には、亡くなられた奥様の本を大切にしたいという思いから自宅をまちライブラリーにされている方もいます。

【「まちライブラリー@大和高田はるえ文庫」仲間が集まり開所を祝いました。】
本好きの奥様が集めた本は、2000冊を越え、ご自宅のリビングの壁にびっしり埋まっていました。この本を整理すると500冊を越える動物の本と同じくらいの冊数の植物の本があり、奥様が自然を愛していたのがしのばれるまちライブラリーです。ご主人は、本好きではなく、むしろ奥様への想いから活動を開始されたのですが、日々お元気になっているように思います。「妻が亡くなった時は、早く妻のところに行きたかったが、今ではこのまちライブラリーを一日でも長生きさせて多くの人に見てもらいたい」と言っておられるその目に力がこもってきたように感じられるのです。

さらには、自宅の玄関先など屋外に巣箱のような本棚をつくって自由に本を貸し借りできる方式のまちライブラリーもあります。

【巣箱型の「ホンノワまちライブラリー」】
本箱の中に貸出ノートがあり、それに本のタイトルと名前を記入したら借りられる方式です。私の自宅前でもやっていますが、時には袋に入れた本が寄贈されています。「赤川次郎作品が好きなので」とか「子ども達が大きくなったので」といったメモが付いている時もあります。普段、お会いしたこともない人から思わないプレゼントです。さらには、場所も本棚もなくて公園の一角でピクニックシートとお弁当と本を持ち寄り、毎月本を紹介しながら本の交換をしている主婦もいます。これでもりっぱなまちライブラリーです。「まちの人とつながるのがとても大変だと思ったが、今では役所の人も声をかけてくれて行政やまちがこんなに身近だと思わなかった。」という彼女の発言は、小さな一歩が確かな手ごたえになった自信のあらわれだと思います。このように今、全国でじわじわと広がるまちライブラリーには、それぞれの想いと夢があり、お話を伺うだけでも楽しく、勇気が湧いてきます。

■まちライブラリーが広がる理由?
 でもなぜこんなに多くの方がまちライブラリーをわがことのようにやっていこうとするのでしょうか? 現代社会はますます複雑にそして巨大な構造で動いているように感じます。グローバルだ、多様性だ、システム化だと各方面から新しいうねりにのみこまれる日々の中、個々の人々の役割はとても小さく、はかないものに見えてきます。AIを使えばもう人なんかいらないのではないかという空気さえ感じられる中で「私なんかどうせ何もできない」「一人でやったところでしょせん意味がない」と思っている人もたくさんいるでしょう。そんな人でも「ひょっとすると何か地域に役立つことができるかも」、「自分の夢や課題が解決するかも」と考えて一人、また一人とまちライブラリーをやり始めているというのが実態だと思います。そしてやってみたら近所の子どもが本を借りてくれた、貸した本にメッセージを付けてくれた人がいるというようにほんの少しの反応でも万人の応援を得たような気持がさらに自信をつけていくのを何度も目のあたりにしています。

■「人」の大きさを感じさせるまちライブラリー
人の想いやエネルギーは、大変貴重で人を動かす原動力だと思います。まちのコミュニティが失われた、人口がどんどん減少するといったニュースがあふれ多くの人が悲嘆にくれる中で、一人でもやれることを見つけ、やれることをやっていこうとする人を見ていると自分も何かしなければという思いに駆られるのも人です。「本」は、作者の想いが詰また作品です。その作品を受け取った人が、1人で受け取るのではなく、想いを共有できる人と共有し、人とつながるだけでなく、本の製作に携わった人の想いを浮き上がらせるように思います。人の心は、複雑で変化します。その心の襞に合った一冊を見つけていく楽しみとそれを分かち合う喜びが、本の価値をさらに高めているように感じるのです。「公共図書館」でもない「本屋」でもないまちライブラリーが、「本」を再発見し、「人」に勇気を与え、「まち」に素敵なたまり場をつくりつつあるように思っています。このような流れが生まれてくるともっと多くの人が、「本と人とまち」を愛おしいものだと思ってくれるではないでしょうか。人口が減って、本が売れない、本屋も減少しても、人が誰かに想いを伝える気持ちが減るとは思えません。小さくても想いを持った人の声に耳を傾けると聞こえない声が聞こえてくるかもしれません。過疎の村にビジネスチャンスはないと思っていても、その村に入るとシゴトや生きがいの宝庫だったということもあります。もしよければ皆様もまちライブラリーをやっていただければ、きっと今まで見えていた世界と違った世界がそこに見えてくるように思います。ワクワクする「本と人とまち」の世界へお待ち申し上げております。
まちライブラリーの本の一覧
 

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