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コロナ禍と教育のICT化と電子出版と:雑感

 新型コロナに翻弄された3年余。小社のここ数年の歩みとともに、思うところを記しておきたい。

 電子書籍元年と言われたのは2010年、それから十数年経ち、コミック、雑誌以外の書籍にも電子化は拡大している。
 小社は大学等高等教育機関向けの教科書を主体とした専門書、学術書を刊行している。自身がアナログ人間のこともあるのだろうが、じっくりと読んで咀嚼して自分の知識とするには、電子より紙のほうが記憶にも残りやすい。そうした実感もあり、電子化は様子見、初めて電子化に向けて動いたのは「コンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)」(2012年)への参加によってである。しかし、この時は、試しに電子書籍をつくってみる、電子書籍編集作業を学ぶためといった意味合いが強かった。そして、実際に電子書籍をつくったものの、紙と電子の料率の違いもあり売上げも微々たるもの、積極的に電子化するメリットを感じず、著者からの要望がない限り一般読者販売向けの電子化は基本的に見合わせていた。ただし、この頃より執筆時に電子化の許諾はとっておくようにしている。――と、ここまでは雑感まえおき。

 さてさて、コロナ禍である。2020年春は、外出自粛、一斉休校の措置がとられ、大学等でもオンライン講義が主流となる。例年行われていたキャンパス内の特設会場等での教科書一斉販売も困難となり、個別発送などの対応をとったところも多かったようだ。通信教育と似たような状況で、学習の要となるのは教科書である。コロナ不況となることを覚悟していたものの、予想に反して教科書の購入率が上がったのはありがたいことであった。しかし、例年通りの出荷見込みと異なり、中には在庫が不足する書籍も出てきて焦ったことも。この時にはPOD(プリント・オン・デマンド)を活用した。PODにより少部数増刷をしたものを引き取り、通常出荷する書籍と、Amazon、楽天ブックス等のネット書店でPOD展開をして個人購入してもらう書籍と、ニーズにあわせて使い分け、何とか乗り切る。

 小中高校の教育政策では、コロナ禍前の2018年「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」、2019年「GIGA スクール構想」が打ち出され、「デジタル教科書」の制度化も図られている。小中高校のこうした動向は、もちろん大学教育にも波及してくる。

 小社に「電子教科書リクエスト」が入ってきたのは2021年2月が最初であった。何の前触れもなく「電子教科書リクエスト」が入ってきたのには少々驚きを感じたものである。しかも、電子教科書を採用しようとする大学は、「電子教科書の全学導入」を進めているということではないか。いずれ電子教科書の話は出てくるものと推測はしていたものの、まだ教科書として電子化されていないものが多いなかで「全学導入」の決定を下す大学があることに、少なからず衝撃を受けたものである。急ぎこの大学での採用者に連絡をとったところ、この話は採用者にも大学から連絡が入ってもおらず驚かれていた。この時は紙の本で講義をされたいという意向を受け、電子化はしなかった。しかし、これからこうした選択が増えていくことは容易に推測できる。2021年度の教科書採用で電子教科書リクエストを受けたのは小社では1校に留まったが、2022年度はリクエスト書籍も複数あり、電子教科書のシステム導入をした教育機関も一定数増えたようである。

 大学生協、丸善雄松堂、紀伊國屋書店ほか大学書店と版元をつなぐ電子教科書取次(NTT EDX)も設立され、流通の仕組みも整いつつある。先にも記したが、大学教科書、専門書の電子版については、既存の一般読者向けの流通組織下では立ち行かない。多くの版元、大学書店にも利便性のある独自のシステムが整ったことはありがたい。電子教科書の需要も今後高まっていくことを考えると、リッチコンテンツの制作等も提案していかれるよう社内スキルも上げていかねばと思うところである。

 もう一点、教科書選定DB(データベース)のことも記しておきたい。「出版社と大学と書店をネットワークで結び、大学や専門学校の教科書・教材の選定において、教員が情報検索・閲覧・選書やシラバス登録などを容易に行えるサービス」(2021年4月のJEPA主催「DNP:電子書籍を活用した学術専門書選定サービス開始」セミナー概要文より)というもの。このセミナー参加の後、トライアル期間を経て参加契約をしている。

 この日誌を書いている2023年2月現在、すでに来年度の教科書選定はすでに終わっているのだが、書誌情報の登録でいっぱいいっぱいで、うまく活用できていなかったことが悔やまれる。というのも、この教科書選定DBは、システムを導入している大学等教育機関に所属している教員のみが見られる仕組みと思い込んでいたのである。聞けば、出版社ゲストアカウントを登録して、教科書選定DBのURLとアカウント情報をお知らせすれば、アカウント内にある自社の書誌情報は、システムを導入していない大学等の教員でも見られるとのこと。そこでためし読みのページなども入れておけば、内容もわかる。知らなかった……。

 版元ドットコムの「ためし読み」機能も活用できていない。もっと情報発信に努めないと!!

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