のろしをあげる
京都のひとり出版社、烽火書房(ほうかしょぼう)の嶋田翔伍です。大阪の出版社で編集者として5年ほど勤務した後、独立して今に至ります。
「必要な時に、必要な人に必ず届くのろしのような本作りを。」と掲げて、日々制作に勤しんでいます。
もともと出版社で働いていたと言っても、商業出版ではない部署にいたので、編集経験はあれど「出版」はいまもわからないことだらけです。それでも出版社や書店という「本を届ける仕事」に憧れがあり、見よう見まねで活動しています。
他の版元の方のように役に立ちそうな情報や面白い文章を書けるわけではないので、出版社を立ち上げて数年で感じたことをまとめてみます。
編集者として前職時代を過ごしたとはいえ、幼少期からものづくりに明け暮れていたという優秀な人間ではないので、そもそも自分に面白い本がつくれるのかという自信さえもないままの独立となりました。子どもの頃を振り返ってみても、100パーセントの全力投球で ものづくりをした記憶がとくに思い当たらない。小説を書こうと思っても仕上げることもできず、大学時代に在籍した映画制作サークルでも映像を完成させることで精一杯。
「ものづくりに憧れる人」として一生暮らしていくのだろうなと思っていました。けれどいざ会社をやめて独立してみると、自分にできることが本をつくることくらいしかないと気がつきました。だから本にこだわったのかもしれませんが、それまで以上に本のことが好きな自分がいました。
いろんな角度から本に携わりたいと思い、本屋で間借りをやってみたり、手製本教室に通ってみたり、シルクスクリーン印刷をやってみたり、それまでやってきた編集以外の立場を経験しました。
好きな作家だとか、よく読むシリーズだとか、あらすじが面白そうだとか、昔はそういうことが本を読む理由でしたが、「ドイツ装」という装丁が好きになり、それからは「特別感のある造本であること」に強い興味を持つようになりました。デザインも好きなんだと思います。そしてそれは制作の裏側への興味へと広がり、どんな人がつくっているのか、どういう特別な工夫をしているのかが気になるように変化していきました。
よく見かける製本形式だとか加工のものはなんとなく興味が湧かず、部数限定の特装本や、初めて見かけるコンセプトのもののほうが素晴らしいと思うように。そうこうして、烽火書房を立ち上げて制作をしていくうちに、色んなこだわりを詰め込んだ、全力投球のものづくりができるようになりました。もしかすると「ものづくりに憧れる人」から一歩抜け出せるかもしれない、そんな気がしました。
それから2年ほどが経ちました。いまも変わらず頑張って本を制作していますが、いまでは考えが変わったこともあります。それは、「商品」としての洗練度を高めたいという気持ちです。特別な造りにすればするほど、予算も嵩み定価もあがります。つくり方によっては流通にも過度な注意が必要となり、改装も難しくなります。
世の中に一冊しかないスペシャルな作品をつくるのであればそれでよいけれど、必要だと感じてくれる不特定多数に読んでもらうためには、「届きやすさ」も重要だと思うようになりました。
2021年の6月には、自分で小さな新刊書店hoka booksも始めました。ずらりと棚に並んだ本を見てみると、見たことのない特別な仕様の本ばかりが並んでいるわけではありません。カバーがあって、帯があって、並製だったり上製だったり。造本として特殊でなくても、一冊一冊につくり手の思いと、書店を経由させて読者のもとへ届けたいという意志を感じます。
もちろんこだわり抜いた造本のものを見かけると心がときめきます。けれど、それだけじゃない。いつ、どんな内容を誰に書いてもらって、どういう見せ方で、誰にどうやって届けるか。そういうことを自分なりに丁寧に考えたい。全力投球してバテてしまってすぐに降板するよりかは、ずっとマウンドに立っていたい。そのために、無理せず力まず、自分らしく活動するのが良いなと思うようになりました。
23年の3月で32歳になります。僕よりも若い人からは「まだそんなこともわかってなかったのか」と笑われるかもしれません。先輩方からは「まだまだ若いな」と思われるかもしれません。それでもいまの僕はそんなことを考えながら日々暮らしているということで、こうしてまとめてみることにしました。
右も左もわからないまま続ける出版活動は、煌めく星々を遠くに見つめる孤独な惑星暮らしのようで不安でいっぱいです。京都に来られる機会がある方にはぜひ遊びにきていただきたいですし、何かのご縁があってご相談したときには暖かく迎え入れていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。