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ガンダルヴァ●店主・深澤孝之 第一回平台 |
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《はじめに》 さて、インドというとわたしたち日本人にとっては、仏教発祥の地であり、また非暴力主義のマハトマ・ガンディーを生んだ国として、平和主義というイメージが強いのではないでしょうか。その一方で、カーストとよばれる古来からの差別制度をひきずった、貧富の差の大きな国というイメージもあります。また旅行案内などでは、あいかわらず悠久の国とか神秘の国という文字が踊っています。矛盾するようですが、このように依然インドは、限定的な情報にもとづいて個々によって固定化された、しかし全体としては漠然としたイメージで語られがちのような気がします。 かく言うわたしも、最近一部で注目を集めているインド映画を熱心にみること以外には、自分の中で形成された先入観だけでインドをながめてきた気がします。なので1998年5月にインド政府が核実験を強行したときも、「インドはいったい何を考えているのだ?」と訳が分かりませんでした。いま思うと、インドが核武装にふみきった原因について考えてみることよりも、自分が抱いていたインドに対するイメージがこわれたという衝撃のほうがより大きかったのだと思います。それで今回は、こうしたわたし自身の反省もこめて、現代インドの最新事情ををわかりやすく解説した本をいくつか紹介してみたいと思います。 |
| ●真の独立への道(M. K. ガーンディー著・田中敏雄訳) |
2001年9月発行/版元:岩波書店/定価 500円+税/文庫判・177ページ//ISBN4-00-332612-1 |
最初にこの本を紹介するのには訳があります。昨年9月11日のアメリカでの同時多発テロは、多くの人びとに深い衝撃をあたえましたが、事件そのものにもましてわたしが驚いたのは、アメリカ政府の「これは正義と悪との戦争だ」という声明です。首謀者とされるオサマ・ビンラディン氏がこの事件に関わった証拠は示されませんでしたが、日本政府もアフガニスタンのタリバン勢力を攻撃するというアメリカの姿勢に追随しました。テレビ報道の初期の段階で、くり返し流された航空機が激突するシーンや、世界貿易センタービルのふたつの建物が崩れ落ちるシーンは、たしかに思考をストップさせるだけの力をもっていました。しかし、だかといって暴力に対し暴力で応ずることは、はたして正しい道なのかという気がしました。ところが、テレビや新聞といったマスメディアからは、報復攻撃を正当化するかのような報道はあっても、反戦論や事件の歴史的背景についての報道はほとんどなされませんでした。(そんな中、ウェヴ上では事件の本質をみきわめようとする新しい動きがみられましたが、これはまた別の問題なので今回は置いておきます。) アメリカが報復攻撃を行なうと宣言したとき、わたしの頭の中に浮かんだのはインド独立の父であり、非暴力主義をつらぬいたガンディーの姿です。もちろん、ガンディーの思想がそのまま現代の状況に当てはまるとは考えていません。ただ深い絶望の中で、人びとを暴力に駆りたてる衝動というものは、いつの時代も基本的に同じだと思うのです。まして、ガンディーが生きた時代というのは、まさに暴力が幅をきかしていた時代でした。事実、同時代のふたりの革命家――毛沢東とホー・チミンは、剣の力で民族の自立を勝ちとったのです。そんな中で、なぜガンディーだけが非暴力をつらぬくことができたのか? いったいかれの運動の背景にはどんな思想があったのか? 今回の9月11日の事件とその後のマスメディアの報道を機に、こんな疑問がわいてきました。 偶然でしょうか、岩波文庫に入った『真の独立への道(ヒンド・スワラージ)』が出版されたのは昨年の9月、ちょうどあの事件のあった前後です。カバーには、この本の書かれた1909年にロンドンで撮影されたガンディーの写真が掲載されています。そこには、インド服をまとい丸い眼鏡をかけたいつものスタイルの彼とは異なる、髪を七三にしっかりと分け背広を着た若き日の姿があります。一般にはあまり知られていませんが、ガンディーはイギリス留学をへて弁護士の資格をとると、そのあと20年以上にもわたって南アフリカに滞在しています。現地では自らもひどい人種偏見に遭いながら、南アフリカでのインド人に対する差別待遇の闘争にたずさわります。この論文は、その長期滞在も終盤にさしかかった頃、権利請願のために訪れたイギリスからの帰路、船上で母語グジャラーティー語によって書かれました。読者と編集長との対話形式になっていますが、これはガンディー自身の自問自答といっていいでしょう。 この本を読むと、非暴力主義が決して理想主義でなかったことがはっきりします。ガンディーには近代文明に対する強い不信がありました。「物質的追求」と「身体的安楽」が決して人間を幸福に導くものでないことを見抜いていたからです。ですからインドは、統治国イギリスのようになることをきっぱりと拒否します。これは当時、日露戦争に勝利して西欧列強の仲間入りをはたした日本とは、まったく正反対のやり方でガンディーがインドの独立を目指していたことが分かります。では、そのための具体的な手段として、いったい何を想定していたのでしょうか? それがサッティヤーグラハ――のちの非暴力・不服従の運動に結集していくものです。この時点では、魂の力、慈悲の力とよばれて、比喩等をまじえて巧みな説明がなされています。(この箇所は本書の白眉でもありますので、ぜひともご自身でお読みになっていただきたい思います。) 一方、ガンディーには祖国の独立のほかにもうひとつ重大な使命がありました。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒との融和の問題です。本書でもこの点について触れられていますが、現実にはガンディーの夢はとうとう叶わず、インドとパキスタン分離独立という結果に終わりました。独立からおよそ半年後、ガンディーは急進的なヒンドゥー・ナショナリストの凶弾によって倒れます。そして、現在にいたるまでインド国内および印パ両国の宗教的対立は切実な問題として残っています。専門家によると、印パの敵対意識の原因をさぐるためには、両国独立後の50年の歴史のみならず、英国植民地下のインド独立運動150年の歴史を考える必要があるということです。この意味からも、本書は現代インドを理解するための基本文献といってよいかと思います。 |
| ●ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭(小川忠著) |
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2000年2月発行/版元:NTT出版/定価 1,900円+税/四六判・161ページ//ISBN4-7571-4012-6 【インド多様性大国の最新事情】
2001年10月発行/版元:角川書店/定価 1,300円+税/四六判・221ページ//ISBN4-04-703329-4 |
ヒンドゥー・ナショナリズムということばをご存知でしょうか? ところで、いまシーク教徒の話がでたけれども、そもそもインドってヒンドゥー教の国じゃないんですか? さて、本書はヒンドゥー・ナショナリズムというテーマに着目した初めての本。と同時に、現代インドを理解する入門書としてこれだけまとまったものは、同じ著者の最新刊『インド多様性大国の最新事情』のほか、ほとんど唯一のものといっていいでしょう。ヒンドゥー・ナショナリズムについて理解することは、そのまま現代インドの理解につながると思います。ところが、これまでわたしが知っている現代インドに関する本といえば、せいぜいガンディー、ネルー止まり。98年のインドの核実験のときも、ただただ感情的に戸惑うばかりで、「インドのいま」を知りたいというわたしの欲求に答えてくれる本はありませんでした。 その意味で本書と出会ったことは、わたしにとって目からウロコが落ちる思いでした。実際、この本を読むまでは想像もしなかったような「インドのいま」をいくつか知ることになります。ひとつは、現在のインドで国父ガンディーの批判が非常に高まってきているということ。宗教の融和を説いたガンディーは、狂信的なヒンドゥー教徒によって暗殺されています。暗殺者の名前は、ナトラム・ゴドセ。現在のヒンドゥー・ナショナリストたちの元祖のような存在です。ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭とそれに伴うガンディー批判の浸透は近年、暗殺者ゴドセの評価さえも変えつつあるといいます。 もうひとつは、日本とインド国民の核認識のギャップの大きさについてです。著者が国際交流の仕事でインドに赴任したのは、核実験が行なわれてからちょうど1週間後のこと。そのときの様子を次のように書き記しています。 赴任した(1998年)5月17日、滞在しているホテルには腰を抜かすようなポスターが張ってあった。 この報告は、日本人の想像をはるかに超えています。しかし、もっと重要な問題があります。日本国内での反核運動など、インドにはほとんど伝わっていないという事実です。唯一の被爆国として、日本にはいったい何ができるのでしょうか? そんな思いがふと過ぎります。さらに著者の声に耳を傾けてみましょう。 日本はインドとの対話をストップするべきではなく、むしろ対話を強化すべきだ。(中略)さらにどうやって相手を説得するのかを考えた時、相手の思考方法や行動の背景を知る必要がある。インドとパキスタンの歴史的関係、印中関係、カシミール問題、インドの核政策、インド人民党が内閣を組閣した意味。今回の核実験に関わる、これらの問題をどれくらい日本人は理解しているだろうか。ニューデリーで受信できる英国BBC放送に登場するコメンテイターの意見を聞いていて、英国の政策には植民地以来のインド研究の裏打ちがあることを痛感させられる。日本の現代インド研究は今後ますます重要になるだろう。(『インド多様性大国の最新事情』より) 最後に、この本全体を通していえることは、専門書にはめずらしく、著者の熱意がストレートに伝わってくるという点です。こうして著者の姿が見えることで、読者は遠くインドで起こっている問題が、実はわれわれ日本人の問題でもあることに絶えず気付かされるのです。本書はまた、インドに限らず国際文化交流やNGO活動に関心のある方にもたいへん参考になると思います。『ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭』と『インド多様性大国の最新事情』、2冊合わせてぜひお読みください。 |