書評:『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』

2011-6-29 水曜日

SCICUS 小林詳司 :http://www.scicus.jp/

★第一印象は「先を越された」

 今やラー油からドラッカーまで広く認知されている、文章チックな商品名を付ける手法。
 この手法を、世間的にお堅いイメージでまとまっていて、書棚を見ても今ひとつ大人しく、センスで勝負しているような気配があまりない「医学書」というジャンルで試みるのは新しいし、面白いんじゃないか――。

 そんな風に思っていた時期が、私にもありました。

 正確に言えば、今やってもまだまだ新しいし、面白いと思います。
 しかし、少なくとも私はこの本に勝てる気がしません。
 もしかするとタイトルだけなら目新しいものを付けられるかも知れませんが、装丁から中身に至るまでの一体感を、果たしてこの本のレベルまで高めることができるか、と自問自答すると到底想像しえないのです。

★恐るべき一体感

 このタイトルから、いったい本書がどんな本だと想像できるでしょうか?
 まず一目瞭然なのは医療英単語の学習本であるということ。
 そこに「1週間」で「100倍」という明確な数字が記されていて、ああ、計画的に効率的に語彙を増やしていく本なのだな、と想像できます。
 さらに「トシ」と「できなければ解雇よ」という脅迫的な呼びかけの言葉が交えられることで、決して楽ではない、しかし達成しなければならないという覚悟が求められる様子もうかがえます。
 同時に、この本には少なくとも「トシ」と、この言葉を告げるキャラクターがいて、ある種の物語性を持っているのではないかという雰囲気も漂います。
 そして、驚くべきことにそれらはすべて正解なのです!
 いや、むしろ想像を超えると言っていいでしょう。「ある種の物語性」と聞くと、よくあるキャラクター同士の特に面白くも波乱もない掛け合いで学習が進んでいくような印象を受けますが、本書は、ポスドクのトシが美女ソフィーとともに医療英単語学習を進めていくという軸に並んで、トシを追い詰める「真犯人」とその「狙い」は? という本格ミステリ的要素が太い柱として成り立っており、読者に骨太かつ洒脱な物語体験を味あわせるに足る一冊ともなっているのです。

 物語の印象に合わせた、外国のペーパーバックを意識した装丁はセンスを前面に出すことに一切の躊躇いを感じさせず、使用している紙も一般読者には「安い」と思われかねないリスクを冒しつつ「あえて」の選択をしています。

 医薬品のそれを意識したような折り込みの「説明文書」には逐一ニヤリとさせられますし(学習用の青いセロファンがうっすら透けて見えることを逆手に取ったジョークは最高!)、ソフィーが紹介するハーブティーのレシピはなぜそこまで、と言いたくなるくらいに本格的です。

 で、結局何が言いたいのかというと、この本は手抜きがないのはもちろん、サービス精神にあふれ、かつ挑戦的、ということです。センスも含めて、全力で医学書の棚に目に物見せてやろうという気概に満ちています。
 しかも、それは成功を収めている。

 事実、書店に並んだ派手な帯にはこの手の本では異例らしい「1万部突破」の文字が踊り、タイトルを検索にかけてみると、さまざまな書店員の方も含めた書評やブログで高い評価をうけています。(福井県立図書館の「覚え違いタイトル集」で「年だから解雇よ」で紹介されて広く知れ渡っている様子なのも面白いですが……)

★この版元はいったい?

 こうなると気になってくるのは、ややもするとリスキーとも言える本書を企画し出版に挑んだ版元の正体です。
 会社案内を見ると設立は2003年とまだ新しく、人数も9人といかにも少数精鋭の雰囲気。
 コンテンツはどれも既存の医学書の概念にとらわれず、伝えるべきことを伝えるために自由な発想をしていこうという気概にあふれています。
 何より奮っているのは経営理念です。「起承転結」という物語の発想を堂々と根本に据えるその姿勢。その中身は決して突飛なものでないのにもかかわらず、ほのかに香る洒落と反骨の精神は、やはり本書の源泉ここにありと思わずにはいられません。
 徹底的なチームワークと自由な社風、そして社長の強烈な遊び心とリーダーシップ。
 果たしてこの版元の正体や、いかに――?

★ごめんなさい

 白々しくも居丈高な物言い、大変申し訳ございませんでした。
 私、株式会社SCICUS(サイカス)の出版営業を担当しております、小林と申します。何卒よろしくお願い申し上げます。
 果たせるかな、『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』は弊社書籍でございます。
 代表的な書籍と会社の紹介をと思いまして色々と文章を弄んでみたものの、内部の人間として書けば書くほど恥ずかしさが募るばかり、ついに外部の人間を装って書くと言う形に至った次第です。
 しかし書いた内容には一片の嘘もございません。
 何しろ社長のリーダーシップと自由闊達さが同居するあまり、毎日昼時になると、社長が自ら研いでセットした炊飯ジャーから、炊きたての白米の香りが社内に充満するくらいです。

 西荻窪にお立ち寄りの際は、是非ご来社の上真実をお確かめの上、同じ釜の飯をお召し上がりくださいませ。
 それでは、お目汚し失礼いたしました。

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