『テロ死/戦争死』は死なず
2006-1-11 水曜日
小社第三書館でイラク戦争の戦場と死者を中心としたビビッドな写真ばかりを集めた本を先月発行した。A5判128ページの大半を、いわゆる自爆テロによる死者と、それに対する米軍側の攻撃による死者の写真で埋めつくした。コメンテーターとして中東研究者の板垣雄三(東大名誉教授)ら5氏の文章もおさめた『テロ死/戦争死』(定価1500円+税)である。
トーハン仕入担当者の思いがけない一言を耳にするまで、私は極めて楽観的だった。収録された写真はいずれも生々しい死の現場ばかりだが、イラク戦争の、あるいは「テロとの戦い」の現場のありさまをストレートに伝える写真ばかりだ。一方から他方への攻撃による「テロ死」とその逆方向への攻撃による「戦争死」。ふたつを重ねあわすことによって、21世紀初頭の戦争の実態が世に問われるのだ。サマーワの自衛隊の撤退も含めて、全国の書店の棚で話題をさらうのではないか……。
「これはうちでは委託で扱えませんね」 このひとことですべてがふっとんだ。
午後になって担当者から正式に断りのTELが入った。「残酷すぎて書店がいやがる」「子供が見たら教育上よろしくない」の二点が理由だ。書店がいやなら返品すればいい、子供に見せたくないから即書店に置かないなんてナンセンス、と反論したが、全く無理。
日販も全く同じ理由でダメ。紀伊國屋が断るハズがないから入れてくれと言ってもダメ。それでも事前に予約タンザクの入った日販帖合の30書店分はいいだろう、とねじこんで、やっと委託30部。
栗田も中央社もゼロ回答。TRCも予約キャンセルしてきた。大阪屋がやっと100部、太洋社が20部の委託。初版3000部で委託合計150部ではキツすぎる。
事態は明らかだ。版元がいくら出版の自由を主張しても、取次の判断だけで書店ルートは閉ざされてしまうというのが日本出版界の2005年状況というわけだ。新聞広告代理店からも思いがけない反応があった。一面三八ツに出稿しようとしたら、取次が委託しない本の広告は本ではなくて一般物販扱いだから何倍か高い別料金だというのだ。
このまま新刊書を横死させるわけにはいかない。
中央突破あるのみ。全国書店にFAXチラシを入れて、トーハンが委託拒否しているけれども貴書店ではホントに置きたくないのか。置いてみようという書店さんはぜひ売ってみてほしいと訴えた。
結果は上首尾。たちまち1000冊以上の注文タンザクが来た。やっと全国の店頭に並びはじめた。
「これなら、フツーに配本したらよかったですね」と日販の担当者に言うと、実にフクザツな表情を見せた。
トーハンの担当者は書店FAXチラシに彼の名が記載されていたので、社内で大きな話題になったという。
「出世のさまたげになりましたかね」と半分茶々を入れてみたら、
「あたりまえですよ」とマジに反応されて、かえってびっくり。広告もやっと書籍広告として掲載された。売り上げの数字も伸び出した。
『テロ死/戦争死』は死なず、生きている。
書店店頭で見かけたら、よろしくお願いします。


「自主規制」とやらのいい加減さが個別・具体的に露呈・暴露されて不愉快で
あると同時に、「一転突破」した事態の展開には快哉、です。
>「あたりまえですよ」とマジに反応されて、かえってびっくり。
私もビックリ。彼らに「言論の自由」云々という意識など、これっぽっちもない
んですね。ま、しょうがないか。
コメント by 輪外 — 2006/01/12 木曜日 @ 08:46:49
流通業者がしたり顔で口挟むことじゃあないだろう、下劣なエロ漫画なんかを撒き散らしてるくせにね。
>全国書店にFAXチラシを入れて・・・気持ちいいですねえ、早速注文。
コメント by 豊島 — 2006/01/13 金曜日 @ 15:08:19
第三書館VSトーハン
版元69社の連携団体「版元ドットコム」さんの「版元日誌」、皆さんは読んでいらっしゃいますよね。同団体に参加している各版元の社員さんが順番に寄稿している連載で、中小出版社の内側やそこで働いている人々の日常が窺えて、私は毎回楽しみにしています。
今週更新さ…
トラックバック by ウラゲツ☆ブログ — 2006/01/13 金曜日 @ 23:19:53
取次さんはエライ気がする
たとえば、こんな会話があるわけですよ。 わたし「タイトルに番号つかないんですか?」 編集「ああ、番号つけるのは営業が嫌がるので、申しわけありません」 わたし「営業さんが? なぜ?」 編集「番号ついてると、取次さんがなかなか取ってくれないそうで」 ..
トラックバック by 積読山脈造山中 — 2006/01/14 土曜日 @ 23:26:42
最終的に本を「裁く」権利は、読者にある。
仕事に追われて、これらの記事をスルーするところでした。
編集者の端くれとして、まことにお恥ずかしい。
・『テロ死/戦争死』は死なず(版元ドットコム)
トーハン仕入担当者の思いがけない一言を耳にするまで、私は極めて楽観的だった。(注 『テロ死/戦争死』…
トラックバック by ある編集者の気になるノート — 2006/01/15 日曜日 @ 16:24:25
語研の高島です。
あえて取次の担当者を弁護する方向から入りますが、ISBNコードのついた書籍を全取次が同様に扱わなければいけないという義務はないわけで、そういう意味では窓口担当者が「扱わない」という判断自体は有り得ると考えています。
ただ、これはこの本を見たうえで言っているのですが、そんなにグロでもドギツイものでもないですよ、この本は。淡々として、だからこそ死の理由に対して「戦争」と「テロ」という意味付けの無意味さを伝えているような内容です。死や戦争が身近なものとして取り上げられない世の中にとってみればむしろ教育上よろしいように私には思えますがどうでしょうか。
本の内容に関する規制は多々ありますが、死体写真が法的に規制されているということは全くありません。それを取次の仕入窓口担当者があえて「配本拒否」したのはなぜかが不思議です。昨今の個人情報保護法に関する反応と同様の無意味な過剰反応のように思えてなりません。いわゆる「放送禁止用語」などについても、それを喋ったり出版物に記載したからと言って罪に問われるようなものではないはずですが。
中小零細出版元にとって取次との付き合いは非常に重要です。だからこそ取次に対する期待も大きい。過剰過ぎるぐらいの期待を抱いている版元からは期待に応えてくれない取次に対してグチの一つも出るはずです。取次に過剰な期待を抱かず自ら動くトランスビューのような版元もありますが、それがあくまで少数なのは、取次というシステムは一部で言われるほど悪いものではないからです。日本の書籍流通は海外の手本になるぐらいの精度と速度です。「本」という商品が物理的なモノである以上、流通は必須であると同時に非常に重要です。取次も版元もその点についてはお互いにもっと理解が必要だろうと考えています。
さて、以上とは別に今回のこの版元日誌については別の感想も持っています。自分がもしこういう事態に遭遇したとしたらやはりこれを最大に利用しますね。吹けば飛ぶような零細出版社が存在し続けるためにはそれぐらいのしたたかさが必要なんじゃないでしょうか。いや、別に北川さんが「この機会を宣伝にうまく利用した」という意味ではないですが。ちなみに講談社が関東大震災直後の大正12年10月1日に刊行した『大正大震災大火災』は震災の惨状を伝える写真が多数掲載され40万部も売れたそうです。
北川さんが過去に書かれた版元日誌の一覧を作りました。なかなか興味深いです。
版元は割を食ってばかりいる
http://www.hanmoto.com/diary/2005/04/06/217/
本の売上を知りたい、確認したい、増やしたい———PUBLINEで出来ること、出来そうなこと
http://www.hanmoto.com/diary/2004/06/30/177/
奥付定価表示の重さ
http://www.hanmoto.com/diary/2004/03/24/165/
それはないと思いますよ、平河工業社さん
http://www.hanmoto.com/diary/2002/04/03/66/
誰かがまだ本を読んでいるに違いない
http://www.hanmoto.com/diary/2001/08/08/34/
「再販原理主義」のゆくえ
http://www.hanmoto.com/diary/2001/04/06/13/
デフレ時代は再販制にプラスかマイナスか
http://www.hanmoto.com/diary/2001/02/14/6/
コメント by 語研:高島利行 — 2006/01/15 日曜日 @ 22:32:14
第三書館編集部
た 第三書館編集部 † ↑『テロ死/戦争死 フォト・ドキュメント』 † (第三書館)2005年11月 amazon トーハンが委託配本を拒否 北川明 1
トラックバック by PukiWiki/TrackBack 0.1 — 2006/01/27 金曜日 @ 10:23:43