印刷屋さんはエラい!

2005-3-30 水曜日

太郎次郎社エディタス 須田正晴 :http://www.tarojiro.co.jp/

3月の3連休、印刷屋の真似事をした。
手づくりの漢字教材を自社内の簡易デジタル印刷機で印刷したのだ。
A4判300部、全11巻総計1020ページ。大仕事とはおもっていたが、考えた以上にたいへんだった。

最初は、著者が40ページていどずつのものを自宅で刷って、教員に頒布していたのだが、小学校配当漢字全1006字のワークブックの印刷となると、ちょっとすごい作業量になってしまう。
話を聞いているうちに、スキャン→PDF化→面付け→自動製版・印刷という流れをつくれば、かなり省力化できるのでは? と考え、ソロバンをはじいたら、諸々の協力もあって、なんとかできそうだ、と浅はかにも考えてしまったのだ。

まずは、もとの手書き原稿のスキャニング。当初は1枚1枚フラットベッド・スキャナでスキャンして、補正をかけて、とやっていたが、さすがにラチがあかない。オートフィーダのあるビジネスコンビニに外注した。
そこからの面付けは、折よくAdobeのAcrobatが7.0にバージョンアップして、トリミングなどの機能が大幅強化されたので、かなりラクにできた。

問題は、印刷だった。

まず、速度の問題だ。小社で使っている簡易印刷機の説明書を見ると、「1分間最大120枚」と書いてある。つまり、1時間7200枚しか刷れない、ということだ。300部×1020ページは約30万ページ。それを2面付け両面印刷するので、予備を入れて8万枚16万通し。ぶっ通しで刷っても20時間以上かかるということだ。この速度はプロの印刷屋が使っているオフセット枚葉機でも大きくは違わないようだ(もちろんサイズが違うので生産量は4倍だ。両面機なら8倍。輪転機ならケタ違いに速い)。
印刷ドラムの加減速の時間や製版時間など考えると、物理的に30時間以上はかかる。しかし、3連休というのは72時間しかないのだ。機械を最大効率で働かせようとしないかぎり、完了はおぼつかない。

ちょうどこの3月は、印刷屋のスケジュールがとても混んだ。聞く話によると、中学の指導要領改訂がらみで、印刷需要が急増したらしい。そんななか、ふだん2週間足らずでできる重版がいくらたっても日程のメドがつかず、ずいぶん印刷屋の営業さんをせっついたものだ。
自分が刷る立場になればわかる。「物理的に機械の日程がどうしてもとれません」とは、こういうことか。彼らも、「そんなこと言ったって、ムリなもんはムリだよ!」とおもっていたことだろう。

印刷をはじめてみると、紙の補給が手間になる。印刷の助手を「フィーダー」というらしい。紙やらインキやらを印刷機さまに遅滞なくお渡し申しあげることが重要になる。紙を適量いい位置に用意しておき、版替えのあいまにすかさず投入しなければならない。かといって手荒く扱えばたちまち印刷曲がりや折れの原因になる。
最初は、「印刷のあいだにほかの仕事もこなそう」なんて思っていたけど、そんな時間はありゃしない。


今回、用紙はA判22連を4裁して用意した。つまり88,000枚。1割の通し予備に、さらに8000枚の予備をつけたが、まったく安心はできない。じっさい、用紙セットの前後を間違える、面付け処理前データを印刷する、下巻のウラに上巻を刷る、データ転送のエラーを見逃す、エラーで電源を再投入したとき位置調整を忘れる……考えられるあらゆる事故をおこした。
こうなると、予備の枚数をケチって、事故に備えた用紙を手元に確保しておきたくなる。ふだん自分では「予備は均等に刷ってよ。製本側にだって予備は要るし、発注数以上にできればそれに越したことはないんだから」とか要求しているくせに。

5万枚を越したあたりから、紙送りモーターに熱を持ったらしい印刷機がエラーを出しはじめ、また、ローラーの摩耗や調整ズレも起こりかけて、ヒヤヒヤしながらの印刷だった。ここで機械に故障が起これば、納期は絶対に守れない。

さんざん苦労してつくったこの刷り物だが、A4判30万枚というのは考えてみれば、A5判240ページ5000部という、ごく一般的な単行本1点の分量にすぎない。
注文された印刷物を毎回毎回、規定の枚数、納期通りに、きっちりキレイに仕上げていくというのはどんなにタイヘンなことか。印刷屋さんの苦労を垣間みた気がした。印刷屋さんはまったくエラい! ちょっと刷りが遅れたとか、用紙予備の要求が多いとか、そのくせ刷られた予備が少ないとか、そんなことで文句は言わないようにしよう。とりあえずこれから10日くらいは。

今回の話、刷り物を丁合いをとって製本するのは、はなからプロの製本屋さんにまかせる計画だった。シロウトのこんな無茶な印刷ができたのも、最後にプロのチェックがはいる安心感があったからだ。製本屋さんもエラい!


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論創社事情—ご挨拶代わりに

2005-3-23 水曜日

論創社 鈴木武道 :http://

はじめまして、論創社と申します。
今年から版元ドットコムに参加させていただきました。どうぞよろしくお願いします。
小社は人文・社会学系出版社として立ち上がり、現在では演劇を中心とした芸術、海外翻訳の文学・エンターテイメントの分野にも進出しております。
いってみれば「小さな」総合出版社なので、昨日は、「日本の戦後60年を考える」という本を印刷所に納品し、今日は「この連続殺人事件の犯人は誰だ」という本のゲラを校正して、明日は「クリエーター達の発想をさぐる」という本の構成を考えなくてはいけない……という毎日を送っております(個人的には楽しんでやってます)。
これは特別な例としても、急激に変化していくこの世の中では、商売のレベルとして、何事も柔軟に対応していくことが必要かと実感しております。本が売れないという事実を前にして、自分の出版人としての「企画・編集・制作・営業」に関する創造力不足を日々、痛感しております。
この度、版元ドットコムに参加することで、出版の「企画・編集・制作・営業」に関する新たなアイディアをいただければと過剰な(?)期待を寄せております。私は、まだ、目先の仕事をこなしきれていない半人前ですが、皆さんと一緒に楽しく、建設的に意見交換させていただけばと考えております。今後ともよろしくお願い申しあげます。


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第6回版元ドットコム入門「紀伊國屋書店PubLineWebの見方と使い方」レポート

2005-3-18 金曜日

語研 高島利行 :http://www.goken-net.co.jp/

3月16日(水)16時より、恵比寿の紀伊國屋書店本部にて第6回版元ドットコム入門「紀伊國屋書店PubLineWebの見方と使い方」が開催されました。

反響の大きさに少し戸惑いつつも準備を進めた結果、70名近くの方のご参加をいただきました。内容に自分自身としての反省点はあるものの、イベントとしては大成功であったと思います。

当日は下記の内容で進行いたしました。

● あいさつ(岡部さん:青弓社営業課長、版元ドットコム幹事社)

● PubLineWebの機能概略(四井さん:紀伊國屋書店 店売総本部 店売推進部 店舗システム課 係長)
オールベスト/各店ベスト/オール売上推移/店別売上推移/客層推移/商品指定在庫一覧/商品指定売上情報/出版社指定在庫/ダウンロード/売上ゼロ商品/在庫ゼロ商品

● 企画に生かすための見方と使い方
▼気になるジャンルの売筋企画を見る
▼自社や他社の類似企画との比較方法
▼想定読者層と実際の読者層を比べる(性別・年齢)、など。

● 営業(販促)に直接役立てるための見方と使い方
【市中在庫】商品の在庫状況をチェック
【重点商品】重点販促店舗・商品・冊数の見つけ方
【返品のタイミング】返品になるタイミングとそれを防ぐための販促方法
【増刷部数】ロングセラー商品の重版のタイミングと販促、など。
【広告効果測定】広告効果の測定。
【他社の動向】自社でのデータ分析のためのデータ取り込み方法

● 販促ケーススタディ
希望者の単品データを材料に、PubLineWebのデータで状況を判断し、具体的な販促方法を参加者全員で考えてみます。

PubLineWeb の機能説明ですが、ふだん使い慣れている方にとっても一つ一つの機能についてきちんと説明を聞く機会はあまりないかと思います。また、 PubLineWebを使っていない方にしてみると初めて見る画面であり、全部を通して把握するのは難しかったかもしれませんが、丁寧な説明で一通りの機能はご理解いただけたのではないかと思います。

企画に生かす、という点では、やはり自社ではなく他社の数字が全て分かってしまうということが重要でした。逆に言えば自社の数字も丸裸にされているわけです。出版物のマーケティングデータとしては非常に質が高く、まさに企画毎の成績表とも言えるPubLineWebのデータを活用するためには先入観を捨ててデータを見る必然があるのではないかと思います。決してこれが全てではありませんが、少なくとも企画立案の際の目安にはなるはずです。

営業の話では私の考えていることが上手く伝わったかどうか、ちょっと不安が残りました。データを眺めているだけでは売上が上がらないのは当然です。ですが、現状を把握せず、暗中模索のままで一体何ができるのか。編集も営業も店頭での実売を知りたいと願い続けていたはずです。少なくとも私はそうでした。実売が分かればもっと効果的な販促ができるかもしれない、実売が分かればもっと返品を減らすことができるかもしれない。そう思いながらデータを色々なやり方で見ていると、「勘」では見えなかった「事実」が見えてくる、そういう気持ちは上手く伝わったでしょうか。

ケーススタディでは扶桑社営業部の梶原さんから非常に興味深い事例を挙げていただきました。具体的な内容はあの場だからできた話だと思いますのであえて触れませんが、「流行りモノの興亡はトップセールス商品の推移で見るとよくわかる」という事に深く納得しました。つまり、増刷の判断においても他社の商品の売れ行きが参考になるわけです。同時に、商品供給の規模と売上が一直線に結びついていないという現実も勉強になりました。

その後、時間も押し迫ってきたあたりで質問も多数飛び出しましたが、それに応える形でPubLineWebの構想中の新機能としての「最終発注日の表示」や「リアルタイムの在庫表示」なども取り上げられました。

「PubLineWeb の画面そのものを初めて見た」という方々にはその場でご感想をいただきました。その中のお一方が、「PubLineWebの数字だけで判断して良いのか。また、実際の店舗を取り巻く環境の変化などはデータでは全く分からない。つまり、データだけでは具体的に何をすべきか見えてこない。」といった旨の発言をされました。

紀伊國屋書店さんのシェアは、出版社やジャンルによって違いますが、一般的に5%〜10%程度と言われています。確かにそれだけのデータで全体を判断してしまうのは危険です。が、今はPubLineWebの他にも実売データを活用することができます。例えばP- Netであれば約4000の店舗の月次データが取得可能です。シェアは70%以上のはずです。そうしたデータを活用するための下地として PubLineWebでのデータの理解は非常に重要になってきています。
「データを見ているだけでは売上の変化の原因が何なのかわからない」というご指摘ももっともだと思います。ですが、虚心にデータを見ていると今まで気がつかなかったような売上の変化が見えてくることも多々あります。変化の原因は多様です。例えば近所に競合店が進出してきた、鉄道などの路線に変化があった、お店の担当者が変わったなどなど。それを確認するのは営業の仕事です。変化の原因を探り、それへの対応策を見つけだし、実行する。データで売上が分かるからこそ、書店営業がますます重要になってきているのだと私は思っています。

最後に私からは、ノウハウを共有するための場を何らかの形で継続的に運営して頂きたい、という要望を紀伊國屋書店さんにお伝えしました。

「眠かった」「退屈だった」「また同じ話してたじゃねえか」などなど、終わった直後から多数の方から色々なご意見をいただきました。激励だと思って受けとめております。ありがとうございます。
厳しいご意見だけでなく、嬉しい感想もいただいています。「早く会社に戻ってデータを見たくなった」「まだまだPubLineWebの機能を使いこなしていなかったことが分かった」「わりに多くの人がデータというものにどういう勝手な期待と誤解を持っているのかがよく分かってかなり興味深かった」などなど。中でも個人的に嬉しかったのは「データの時代だからこそ書店営業がより重要だという主張に共感を感じた」という感想です。何かが伝わった気がします。

なお、翌日の版元ドットコムの幹事会では「大規模な会も良いけど、比較的売上規模が近いところの版元でこじんまりと、でもみっちりとやるのも良いかも」という話が出ました。確かに自分もそれは感じました。自社の実売数を曝け出すのは、例え相手が大手の版元でなくても恥ずかしいものです。ですので、版元ドットコムの会員社を中心とした小規模の勉強会の開催もあらためて計画しております。

今回は定員の関係で心ならずも随分多くの方々のお申込みをお断りさせていただきました。そういった方々のためにも、紀伊國屋書店さんでも別の機会を考えられているようです。その際は是非、ご参加ください。

実売データだけでなく、いわゆるIT(情報技術)によって出版業界の内部にも大きな変化が起きつつあります。例えば書誌及び在庫情報については、いよいよ業界全体を集約したデータベースの構築が現実味を帯びてきました。マーケティングだけでなく様々に活用できる基礎情報としての「共有書店マスター」の活用も本格化してきています。「書籍返品の無伝化」など、一昔前には夢物語でしたが現実にスケジュールが迫っています。

「出版業界は古い」とおっしゃる方も多いのですが、そろそろ自分で動かないと置いて行かれるかもしれませんよ、ご注意ください。


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書籍出版はいろいろ大変です

2005-3-16 水曜日

ロゼッタストーン 弘中百合子 :http://www.rosetta.jp/

会社創立以来5年間、「季刊ロゼッタストーン」を発行してきた弊社だが、今年1月に20号を発売したのを機に、雑誌はいったん休刊し、今度は書籍に力を入れることにした。

ロゼッタストーンが出した書籍はまだ2冊。慣れないので失敗も多い。

たとえば、雑誌の定価は、「定価880円(本体838円)」と税込価格で表示する。それに対して、書籍は「定価(本体1500円+税)」と税抜で表示されるのが慣例になっている。

昨年4月からすべての商品に消費税込の総額表示が義務付けられた。「今度からは書籍もやっぱり総額表示よねー。なんでみんな、ちゃんと法律を守らないの!?」と、真面目な私は、新刊本のカバーに、わざわざ「定価:1575円(本体1500円)」と印刷したのである。

ところが、取次でストップがかかった。書籍の場合、「本体○○円+税」の「+税」という部分がないと流通できないのだという。仕方がないので、急遽、定価の部分に訂正シールを貼って納品した。予定外の出費である。

雑誌で認められている表示が、なんで書籍だとダメなのよ…と思ったけど、一応理由があった。雑誌と違って書籍は販売期間が長い。将来消費税率が変わったときに、いちいちカバーを刷り直すのは大変だ。というわけで、書籍の場合は、中にはさみこむスリップに税込価格を表示し、カバーには税抜価格を表示する、というのが普通のやり方らしいのだ。なるほど。

2冊目に発行した『嫌われ者のすすめ』は、順調に売れ、初めての増刷になった。大急ぎで重版したのはよかったが、奥付の「第1刷」を「第2刷」に変更するのを忘れていた。実際には重版された本なのに、みかけは初版と同じなのである。とほほ。

ただいま、3冊目の書籍を編集中。今度こそ、ミスがないようにしなくっちゃ。


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〈暴露本出版社〉鹿砦社が4月よりスキャンダル誌を創刊します!

2005-3-9 水曜日

鹿砦社 中川志大 :http://www.rokusaisha.com/

 前回のこのコーナーに掲載していただいた拙稿について、業界関係者をはじめ予想以上の方々からリアクションをいただきました。読んでいただいた皆様、ありがとうございました。業界経験の浅い私の稚拙な考えを、戦々恐々ながら、あえてそのまま述べておりますので、至らないところがあれば、面と向かって「生意気言うな!」などと言っていただけると本望です。
 では、ここからが今回の版元日誌です。

 最近、芸能人の犯罪関連のニュースが多い。その度に目に付くのが、当の芸能人の呼称である。窃盗行為を告白したあびる優は「女性タレント」、島田紳介は「島田紳介司会者」、小泉今日子は「小泉今日子タレント」。遡れば、「稲垣吾郎メンバー」などが有名か。
 これらはつまり、各メディアが大手芸能プロダクションに配慮しているということだ。そうしなければ、今後の商売に関わる。つまるところ、メディアは(基本的に)「商売」だということだ。先に断っておくが、私はそのこと自体は批判しない。私も出版メディアで生計を立てている身である。
 でも同時に、メディアは「報道機関」であり「言論」である、ということも言わなければならない。それはただ単に、ニュースの「格」が落ち、それにより商売にも響くというだけの問題ではない。「報道機関」「言論」としてのメディアはどんな社会であれ必要だ。だから、その2つの間で板ばさみに遭うのは避けられないことである。そのときどきによってどちらかを無視するのではなく、ジレンマに真正面から向き合うべきなのではないか、ということが実は前回の拙稿のテーマで、無茶な理想論、極論を述べさせていただいた。
 そういえば、知り合いのアダルトビデオ関係者の話だが、某大手週刊誌にAV業界のエイズ問題についてインタビューを受けた際、そのことが原因で業界から総スカンをくらったそうだ。掲載された誌面は自身の意図するものではなかったのに、それが掲載されたのが大手誌だったということで、自分の無実を誰も信じてくれなかったと彼は嘆いていた。やはり、「格」の力は強い。
 いずれにしても、完璧な「報道機関」「言論」なんてありえない。実際はもっと泥臭い、人間の臭いが充満した業界だ。流通、製作の両面に関わりながら思うのは、出版業界の魅力とは、前述のジレンマの間にこそあるのではないかということだ。「売れて欲しい」と「読んで欲しい」の両者に対して真剣に向き合いつつ、活動を続けていこうと思う。

 というスタンスに立って(?)<暴露本出版社>鹿砦社は新雑誌を4月7日に創刊します。タイトルは『紙の爆弾』。「タブーなしのラジカル・スキャンダルマガジン」と銘打ち、政・官・財、大手企業や各種業界・芸能界裏事情など、ジャンル・フリーのスキャンダル雑誌です。われわれは地方の小出版社にすぎませんが、それだけにしがらみも少なく、まさに小社ならではの雑誌です。さらに、闘争の経験や、圧力に対しても闘うノウハウをある程度持っています。「要は売れればいい」などとは絶対に言いませんので、ご注目をよろしくお願いいたします。


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「私らしい生き方」を決めるのは私のはずだけど

2005-3-2 水曜日

やどかり出版 黒崎夢 :http://www.yadokarinosato.org/book/

とにかくめまぐるしい勢いを感じる.ここ数年で,矢継ぎ早に,日本という国のあり方の根本を問うような政策,施策の改変が打ち出されている.それは,障害者福祉の分野でも同じだ.
2004年6月には,経済財政諮問会議の「骨太方針2004」の中で,障害者福祉に関わる部分としては,「『人間力』の抜本的な強化(障害者の雇用・就業,自立を支援するための施策の充実強化)」が示された.10月には,社会保障審議会障害者部会にて厚生労働省から「今後の障害者保健福祉政策について(改革のグランドデザイン案)」が示された.今までの障害者福祉施策の大きな見直しで,障害者の今後の暮らしに大きく影響するものだ.
案の内容については,障害種別をこえた福祉事業に関する法(2005年2月国会提出の障害者自立支援法)が作られるなど「よい」と思われる部分もあるが,気がかりな点も多い.その気がかりな点の中のほんのいくつかを挙げると,利用者の費用負担を「定率負担」(応益負担)に切り替えることがあり,負担を求めるにも関わらず「所得保障」にまったく触れられていないことがある.
また,大規模な見直しにも関わらず,当事者のニーズや生活実態などの基礎データが不備であるままに政策検討がされ,半年あまりの審議でこの案を出すという性急さが気にかかる.そんなに性急に結論が出せる問題なのだろうか.何をあせっているのだろう.他の分野と同様に,とにかく障害福祉の「財源が無い」「財源が無い」と国から声高に叫ばれるのだけれど……

たまたま1人の人間が障害や疾病を持ったがゆえに,大きく生き方に制約を受けてしまうこの世の中.だが,どんな状態であっても1人の人間として「健康で文化的な最低限の生活」を送り,「私らしく生きたい」ということは,決して過ぎた贅沢ではない.それを保障するのが,障害福祉制度の根幹だったはずだ.今回の案がどうなっていくか,まだ分からない.だが,「私らしい生き方」を阻むものになっては本末転倒だろう.
「私らしい生き方」を決めるのは私のはずだけど,それを阻むものは何か.その基本的な視点で,めまぐるしい情勢の変化の背景を見たい.「私らしく生きる」ためには,他人事などない.


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