緊急中毒

2004-10-20 水曜日

実践社 小山幸恵 :http://www.jissensha.co.jp/

 2年ほど前から1時間半の通勤を続けている。首都圏縦断60キロはちょっとした「旅」だ。意気込んで「オフピークのゆとり」なんぞ味わったのは最初だけ、駅まで走る毎日だ。先日の朝、本も開けない満員電車の中でゆらゆら揺れる「慢性的多忙感からの解放!!」の文字を、ボーっと(気がつくとかなり真剣に)追っていた。
 「成功する人の○○」とか「必ず○○する××の方法」とかの本や雑誌があふれているが、お金を出して読んだことはほとんどない。「成功…」「差をつける…」「必ず…」のあたりでちょっと気後れするというか、(開いてもいないくせに申し訳ないが)徒労感が先にたってしまう。この某誌特集では、「結果が出る人の」ではなく「〈グズの大忙し〉から脱出」の吸引力が強力だったのだ。新刊のご案内で書店さんを回りながら、その日は終日、帰ったら片付けねばならない事どもを思い浮かべて浮かべて重苦しくなる頭のどこかに、つり革広告の文字が張り付いて離れない。そして夕刻、そんなに気になるなら買ってまえ、となった。
 〈カリスマ経営者〉や〈勝ち組社員〉の云々……はさておき、つまるところ誰でもそうすべきと思っているような、生活習慣の改善や営業マナーの基本みたいなことが書いてあった。とはいえ1点、これだよこれ、と思わされたのは「時間管理のマトリックス」。〈緊急さ〉・〈重要さ〉で座標軸をたて、やるべき仕事の領域を4分割して管理せよ、のところ。
 「これだよ、これ」はこの分類法ではない。誰だって多かれ少なかれ、こんなようなことを勘案しながら仕事の順番を決めている。問題は優先順位の付け方、すなわち「なぜ緊急でも重要でもないものに費やす時間が減らないのか」のくだりだ。名づけて「緊急中毒」。曰く「緊急性の高い仕事や手のつけやすい仕事から片付けていると、常に仕事に追われている感じが抜けずにストレスがたまり、緊急でも重要でもない領域に逃げ込む」。重要な仕事は進まないから、ますますストレスがたまる→逃げ込む、の悪循環が続く。解決策は「少しでも時間が空いたなら、緊急ではないが重要な仕事にまず手をつけること。これでストレスがずっと軽減されるので、生産性があがってくる」……。エッセンスとしては、私が長年上司に言われ続けていることであった。
 そこで私はハタと気づいた。やるべき仕事リストを思い浮かべて憂鬱になり、普段ほとんど手に取ることもないビジネス情報誌を買い込み、読もうと思っていた資料を鞄に入れたまま、営業帰りの時間と長い通勤をそれに費やしたのだった。これ、多忙感というストレスからくる緊急中毒→逃避の循環そのもの。自分の行動パターンの解釈は1歩進んだ。そして4コマのマトリックスを右往左往する我が身のイメージと、すべき事どもの山が残った。

追)新刊のご案内はhttp://www.jissensha.co.jp/にてご覧ください。宮台真司さんの『亜細亜主義の顛末に学べ』、仲正昌樹さんの『正義と不自由』(『「不自由」論』『「みんな」のバカ!』『お金に「正しさ」はあるのか』で最近話題の著者)です。


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