「売れない」と言ってるだけじゃはじまらない!

2004-6-2 水曜日

東京大学出版会 小山美和 :http://www.utp.or.jp/

 私が所属する出版労連では、毎年6月に「仕事と産業を考える運動」の一環として出版研究集会を開催していて、今年はその第31回目にあたる。
 その分科会の打ち合わせもかねて、先日、久我山にある老舗久我山書店の山田洋一さんをたずねた。久我山書店は先代が親戚から引き継いだお店だそうだが、山田さん本人は様々な業種、サラリーマンやアルジェリアでのフランス語通訳なんていう経歴をへて、久我山書店を引き継いだ変り種の書店経営者だ。
 久我山書店を訪れた人はわかると思うのだが、約20坪の狭い店内におもちゃ箱のように所狭しと雑誌に書籍・コミックなどが陳列されている。一見すると「ぐちゃぐちゃ」にも見えるその配列が訪れるお客様に「どう訴えるか」を毎日考えられた格闘のひとつの現われなのだそうだ。どんな陳列が一番アピールするか?そして雑誌ごと(2000アイテム以上あるのだが)に出るスピードもすべて頭の中で把握されている。
 山田さんの活動は、もちろん店内だけにはとどまらない。昔からのお客様も含めて外商活動もエネルギッシュにこなしている。町の中小書店では昔からの外商活動ができるかどうか、そしてお客様をつかめるかどうかが鍵でもあるが、彼に言わせると「できないって言ってるだけで、やってないだけだよ」「売れないって言ってると余計売れなくなる」とのこと。「これは」と思う企画を目にすれば必ず出版社の編集部に出向いて熱意を伝え話を聴く。そして、精度の高い外商活動に活かしている。売上冊数は大規模書店やナショナルチェーンに比べれば微々たるかもしれないが、それでもここに「本屋」の原点を見る思いがする。マイナス成長の出版状況がつづくなか書店は最も厳しい立場におかれている。なかでも中小書店はなくなる一方だ。マージンアップや不公正取引是正など業界をあげて解決すべき問題も多いが、こうしたなかでもがんばる本屋があり、書店員がいると思うと頭の下がる思いがする。
 彼のエネルギーは自店の活動だけでも収まりきらない。東京都書店商業組合の理事と万引防止委員長(通称まんぼう)を兼任し、都の副知事や桜田門のお偉方とも丁々発止をつづける強面でもある。地域とのつながりも大事にし、若い人たちが本を手にするサポートこそ自分達の仕事であり、幼児期からの読書教育が重要という考えのもと、地域の教育委員会や図書館と協同して「読書は一生の友だち」という読書運動も展開している。10代の芥川賞受賞、ベストセラー化した『世界の中心で愛をさけぶ』などの読者はほとんどは10代。読書の世界も悪い傾向ばかりじゃない、と読書界の未来を信じてもいる。
 彼の持論では本屋は「コミュニケーションセンター」だそうだ。町には人が一杯あふれているが、それぞれの人間同士はなかなか口を利くこともない。本屋がその間に立つオルガナイザーになることができるのだ。未知の人と触れ合うための「きっかけ」はどこにでも転がっている。観察眼を磨きその「きっかけ」を見逃さないことが大切なのだろう。
 このことはとくに書店だけに限られたことではない。出版社も読者や書店とどんな形のコミュニケーションをとれるか、どこにその「きっかけ」を見つけられるかは、これからのキー概念になるだろう。そんなことを考えながら、「版元ドットコム」を参考にさせてもらいつつ、小会で新しく計画している独自の顧客とのコミュニケーションの可能性を信じてみようと思う。昨年の出版研究集会で、ポット出版の沢辺さんが言っていた「何かを始めるときは自らの手でコツコツ始めるしかない」というコトバを思い出し、毎日の仕事に地道に精進している。
 ここで紹介した山田さんを始め、いろんな方の話を提供する場である31回出版研究集会の概略は下記の通りです。誰の参加もOKで、何回参加しても1000円ですので、是非ともお時間をみつけてご参加ください。私もお待ちしています。


■第31回出版研究集会   出版研究集会Week=2004年6月11日〜21日
主催:出版労連  文京区本郷2-10-9 冨士ビル3F TEL03-3816-2911参加費:1000円(全体会分科会通し)
■全体会 ○記念講演 「戦争元年」にできること
講師 石坂 啓氏(マンガ家)

6月11日(金) 18:30〜 出版労連会議室
【石坂啓氏プロフィール】1956年生まれ。故手塚治虫氏に師事。マンガ作品に『キスより簡単』『マンチャラ小日向くん』『安穏族』『夢見るトマト』『パパイラズ』『正しい戦争』『もの食う人びと・コミック版』など。エッセイ集に『赤ちゃんが来た』『コドモ界の人』『男嫌い』『学校に行かなければ死なずにすんだ子ども』などがある。
■分科会(労連会議室)
★6月12日(土)13:30〜
(1)フリーランスの自己責任論
報告者:ゲブハルト・ヒルシャー・安田純平・吉岡逸夫(ジャーナリスト)
★6月14日(月)18:30〜
(2)報道規制と出版差し止め問題
対談: 田島泰彦(上智大学教授) ・吉岡忍(ノンフィクション作家)
★6月15日(火)18:30〜
(3)図書館は欲しい本を買えない?−資料費問題−
報告者:清田義昭(出版ニュース社)・西村彩枝子(江東区立図書館)
★6月17日(木)18:30〜
(4)がんばる本屋・書店員の心意気!
—売りたい本/読んで欲しい本/読者とのつながり方—
報告者:山田洋一(久我山書店)・中野玲子(三鷹りとる)・岸田真理子(弘栄堂書店)
★6月18日(金)18:30〜
(5)貸与権とは何か−著作権の流れのなかで−
報告者:酒井仁志(雑誌協会)下村昭夫(出版メディアパル)
★6月21日(月)18:30〜
(6)「発展的学習」教科書・教材、そして教育
報告者:小佐野正樹(科学教育研究協議会/小学校教諭)・野口優子(教育基本法「改正」反対市民連絡会/保護者)ほか



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