冬の日、畑の中で
2002-12-18 水曜日
4センチほどの霜柱が畑いっぱいに立っている。長靴をはいてその中に足を踏み入れる。「シャッギュッ」と音をたてて足が柔らかい土の中に沈んでいく。
先日、久しぶりに畑仕事に精を出した。場所は成田空港のすぐ脇の横堀部落というところ。小社が11月に発行した『熱田てる物語』のお宅である。12月早々の雪の日におこなうはずだった落花生の収穫が延期となり、予定していた人手が集まらないと連絡を受けた。本を出させていただいたお礼もある。会社に事情を話して許可を得、平日の一日、作業着に長靴で畑に出た。
僕と熱田さんのお宅とのつき合いは、高校3年生の秋に援農に入って以来だからもう18年になる。人生の半分以上だ。といってもこの頃は年末の餅つき等の時に伺うだけだったので、畑に出るのは3年ぶりだと思う。
その日はポカポカとした作業日和。今年は里芋や大根はよかったが、落花生は今一つだそう。「だいたい野ネズミやタヌキがいっぱい食っちゃうんだ、この辺のタヌキは今年は太ってるはずだぞ、ハハハ」と笑うおっかさんの声を聞きながら作業は進む。といってもここは三里塚。のんびりとした風景の中に、5分おきぐらいにジェット機の爆音が響き会話は途切れ、1時間ぐらいおきに警察車両のパトロールがある。いつも思うが、空港にじゃまな農民に対する態度は地上げ屋そのものだ。
作業そのものは順調に進む。エイっと落花生の株の束を持ち上げると野ネズミがいた。「おっかさん、ネズミがいるよ」と呑気に口にすると、てるさんはとたんにネズミを踏みつけようと足を出す。「何やってんだ、ネズミは百姓には敵なんだよ。まったく都会の人はわかってないね」と怒られる。「すいません」反省しきりであるが、もう逃げられて後の祭り。その後も百姓の苦労を理解しないと、ずいぶんとしぼられる。
口も動かすが手も止まることはない。てるさんは作業の過程で土に落ちてしまった落花を一粒一粒素早く拾い集めていく。年齢は倍以上なのに作業のスピードも倍以上。「こういう苦労がわからないんじゃいけないよ」と言う言葉にも経験と重みがある。三里塚にくるとそんな言葉を聞きながらの作業で、結局いつも元気をもらってばかりいる(野菜も!)。
せめてもの恩返しに本をしっかり売るぞと気合いが入った。
てるさんに限らず、このところ老人パワーに圧倒されっぱなしである。
小社刊季刊『理戦』71号の特集「民俗学って何だ」で小熊英二さんとの巻頭対談を引き受けていただいた谷川健一さんもそうだ。82歳になるという谷川さんだが、対談の2日前までは聞き取りの旅にでており、その3日後には今度は奄美に飛んで調査なのだという。奄美では植林もやっているそうで、「こんど君も来ないか」と誘われる。ものすごいバイタリティ。そして経験に裏打ちされた態度はオーラを感じるほど。
対談では、それこそ谷川さんの著作は全て読んできたのではないかと思われる小熊さんの鋭い質問にも動ずることなく、どっしりと受け止めて話を進められた。びっくりするほど聞き応え充分。
事前に谷川さんの著作はあまり読めていなかったのだが、対談につき合わせてもらいすっかりファンになってしまった。小熊さん曰く「谷川さんの民俗学のエロティシズム」を、僕も感じさせてもらった。
ちなみに「民俗学って何だ」の特集を通じて福田アジオさん、神崎宣武さんとも会う機会があった。庶民の中に身をゆだね、伝承を聞き取り、その世界観や死生観を探求する。お二人や谷川さんからは、そこで培われた根気や対象への愛、気持ちのゆとりとでもいうのだろうか。そんなものを存分に感じさせてもらった気がする。
という感じで今年の後半、人との出会いの中で出版した2冊。『熱田てる物語』、季刊『理戦』71号。いい本に仕上がったと思っています。ぜひ読んでみて下さい。
