『立花隆の無知蒙昧を衝く 遺伝子問題から宇宙論まで』

2001-1-31 水曜日

批評社 佐藤英之 :http://hihyosya.co.jp/

 昨年10月に、社会評論社から『立花隆の無知蒙昧を衝く 遺伝子問題から宇宙論まで』(京都大学名誉教授・佐藤進著、46判・224頁・定価 1800円+税)が刊行された。この本は忽ちの内に4刷になるほどよく売れた。企画のユニークさや売行き部数からしても久々の快挙である。この本の企画は、社長の松田健二さんが「文藝春秋」を読んでいて立花隆の論調がどこかおかしいとは思いつつも、その根拠がなかなか理解できない、という苛立ちに端を発して、誰か遺伝子組替問題や生命科学、宇宙論についてきちんと立花隆の論調を批判的に検証できる人はいないものかと想いあぐねていて京都大学の佐藤進さんにお願いしたという。

 本文は5章に分かれていて、
「第1章 遺伝子組み替えとは何か 遺伝子操作の実態/
第2章 自然の摂理とは何か 現代物理学の進展と限界/
第3章 生命の起源と進化 分子生物学の到達点/
第4章 性と生・死 生命科学はどこまで解明できたか/
第5章 無知蒙昧と神への侵犯 科学技術文明のゆくえ 」
である。
かなり専門的な理系の知識が必要なところもあるが、総じて現代科学・技術の先端情報とその危険性について懇切丁寧な解説を試みながら、立花隆の「無知蒙昧」を批判的に検証し、その無節操なイデオロギー的喧伝を戒めている。
立花隆という人は、「田中角栄の研究」で華々しく登場し、希代の政治家・自民党総裁の田中角栄を政権の座から引き下ろすきっかけを作った。この辺りまでは結構真面目に考えていたのだろう。最近では、脳死・臓器移植問題に絡んで、立花隆はかつての自身の主張を変えて「ドナーカードを持とう」と熱心である。臓器移植法が施行されて初めての脳死−臓器移植手術の騒ぎは尋常でなかった。あの騒ぎを目の当たりにして殆どの人は「ドナーカード」など絶対に持つまいと思ったに違いない。大体、医者や看護者や厚生省の役人など、この間一人として医療関係者が臓器を提供したというハナシは聞いたことがない。私は宗教的な信念や因習で「ドナーカード」を持たないのではではない。先端医療技術の進歩の名の下に殆ど全くと言っていいほど信頼のおけない病院で、脳死とはいえ人体実験にも等しい処遇で利用されるのがイヤなのである。臓器を提供されて助かる人がいたとしてもである。吉本隆明は、同じ時期に立花隆とは逆に「私はドナーカードを持たない」と主張している。さすがである。

 20世紀末にクローン羊が誕生し、ヒトゲノムが解読され、21世紀はナノテクノロジーをはじめ先端技術の実用の時代、自己決定の時代だという主張が新年早々の新聞・テレビの特集で埋められた。果たしてそうなのか。佐藤進さんは言う。「地球環境が多くの生命体を生み出したことは、…地球が開放定常系であるから、熱力学第二法則に反することなく可能である。が、生命系への自己組織化原理がどのようなものであるかについては、未だ解決の糸口さえつかめない現状である」と。簡単に言えば、35億年前に生命体がなぜ地球上に誕生したのかまだ何も分かっていない、ということです。また、ヒトや他の「『「生物が生きている』ということが何ひとつ分かっていない段階では、ゲノム解析が極めつくされようとも生命体を左右することはできないだろう」と。是非とも一読をおすすめしたい1冊である。


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本の価格について

2001-1-24 水曜日

凱風社 新田準 :http://www.gaifu.co.jp/

 読者の皆さんが意識することは少ないと思いますが、本の価格は「定価」と表示さ れています。「定価」とは、出版社が本の小売価格を決定し、北海道から沖縄まで全国どこでも同じ価格で本が提供されているということを意味します。運賃格差や手数料もありません。

 ふつう、メーカーが小売価格を拘束しようとすれば、独禁法違反で訴えられます。 メーカーによる小売価格の拘束(再販価格)は「私的独占の禁止及び公正取引の確保 に関する法律」(独禁法)によって禁止されているからです。しかし出版など著作権 の行使にかかわる行為は、その適用から除外されています。

 出版社が小売価格を決定し、それが一貫して守られているからこそ、長期にわたる 販売を前提とした出版が可能になりますし、少部数高定価の書籍を少数の読者を相手 に出版することも可能になります。つまり「表現の自由」と多様性を経済面から保証 しているのが、出版物の「再販適用除外」です。

 この制度がいま、危機に瀕しています。

 アメリカ流「グローバル・スタンダード」と「自由競争」(じつは「弱肉強食」の 論理)を信奉する学者などは、本の再販適用除外は廃止しても良いと言い出しています。

 私たち出版社は、出版物を企画し、製作し、販売価格を指定してその書籍を世の中 に流通させる立場にあると同時に、本好き、つまり本の「ヘビー・ユーザー」の集ま りです。言い換えれば、出版物の価格にもっとも敏感な人間が出版社を運営している わけです。だからこそ、少しでも安い価格の本にしようと、各出版社は血のにじむ努 力を続けてきました。

 書棚にある昔の本の値段を調べてみました。30年前の1970年に刊行された勁草書房 の「抵抗文集」シリーズは、各250頁〜300頁前後の上製本で500円から600円でした。 このシリーズは上製本で、業界流に言えば人文専門書です。当時、初任給は4万5000 円くらいでしたから、1冊の値段は初任給の1.2%に当たります。同じ企業の2000年度 の初任給をインターネットで調べてみると20万円弱、その1.2パーセントは2400円で す。いま、流通している同じような書籍の価格もこんなものでしょう。出版社は書籍 の小売価格を拘束してきましたが、過去四半世紀以上にわたって、本の値段は相対的 には高くなっていません。

 一方、本の価格を自由化して市場にまかせたらどうなるでしょうか。アメリカにそ の例があります。

 大幅値引きで大量販売をする巨大ナショナルチェーン(ネット書店も含め)がある 一方、値引きをほんとんどしない多くの独立系の一般書店があります。ベストセラー やタレント本は数十パーセント引きで売られる反面、大部分の専門書は値引きせずに 売られています。しかし出版社は値引き販売に対応できるよう、カバープライスを高 めに設定してきたため、本の平均価格は年々上昇してきました。

 マスセールスに乗らない本の刊行も年を追って困難になってゆきます。ほんとう に、こういう状態が望ましいのでしょうか。書籍の再販禁止適用除外をはずすメリッ トはないと思いませんか?

 日本の公正取引委員会はこの3月に、書籍・新聞の再販価格を継続するかどうか決 定を下す予定です。

●公正取引委員会→http://www.jftc.admix.go.jp/


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出版社−取次間の締め日を5日きざみにせよ!
——新刊の委託搬入集中=即返品を減らすために

2001-1-15 月曜日

青弓社 矢野恵二 :http://www.seikyusha.co.jp/

本が売れない
——新刊の点数を増やして売り上げをキープするしかない
——締め日の 25日までに搬入して今月の売り上げをたてろ……。

いまさら言うまでもない、搬入集中=即返品の構造である。
部数で売れなくなるにつれて、この傾向がますます加速している。20日から月末までに、全体の45%が搬入されているのだ。その結果、弊害も多い。なによりも返品率が上がって、取次は書店への配本のためにアルバイトの確保で人件費もふくらんでいることだろうし、出版社からの請求書も集中して残業代などがかさんでいるのかもしれない。書店は書店で、新刊の洪水をさばくのに精力をさかれ、段ボール箱を開けただけで(ときには開 きもせずに)取次に返品する事態を招いている。

「なんとかしてくれよ!」
——誰もがなげきつづけて久しい。
解決策を提言しよう。出版社と取次との間の締め日を、5日・10日・15日・20 日・25日・末日に振り分ければいいのである。A社とB社は5日締め、C社とD社 は10日締め……と分散すれば、年間を通じて大きな波動はなくなり一定の数値を維持するのである。取次−書店間の取り扱い業務量は平均化され、即返品率はいまより も減少することはまちがいない。

この合意のもとに、たとえば1年間の猶予をみて「2002年4月期から実施する」 という方針を徹底すれば、人件費ほかの固定経費や制作費などの資金繰りの対策を立てるにも時間は十分のはずである。 「頭(商品の内容)は革新的でも、足腰(流通や、その改革への取り組み)は保守 的」と指摘され自認もしてきた出版業界だが、この程度の流通改革・流通対策にさえ 反対するような社は公表してもかまわないし、それさえ実現できないようならば、死期を待つだけになってしまうのはあきらかだろう。


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