人生、ときどきシェイクスピア
酒井 良一
発行:亜璃西社
この版元の本一覧
四六判 288ページ 並製
定価:1,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-900541-68-9(4-900541-68-0) C0095
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年11月
書店発売日:2006年11月22日
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紹介

◆「マクベス」「リア王」「ロミオとジュリエット」などの名作で、喜怒哀楽という人間の本質を鋭く描ききったシェイクスピア。そんなイギリスを代表する劇作家に魅せられた著者が、ロンドン駐在記者時代に触れた数々の本場の舞台とその魅力を交えながら、シェイクスピアへの熱い想いをつづる文芸評論。
◆同時に、演劇や戯曲に見るシェイクスピアの世界を、独自の視点から平易な語り口で案内しており、これまでにないシェイクスピア入門書としても楽しめます。第12回「林白言文学賞」受賞。

目次

<第Ⅰ章 旅立ちのころ、夢うつつ>
時よ とどまれ/追想『シェイクスピア研究』/ラムの「ハムレット」味読/「ダニエル様のご再来じゃー」/「人生は歩きまわる影にすぎない」—『マクベス』その1/白痴のしゃべる物語—『マクベス』その2/アンティーク趣向—『マクベス』その3/「なんて地獄は暗いんだろう」—『マクベス』その4/「歴史家としてはどうかねぇ」—『マクベス』その5/徒手空拳・苦学生/「君を夏の日とくらべようか?」—ソネットその1/「きみは老いても新しく生まれかわり」—ソネットその2/「赫々と燃えている虎よ!」/変幻自在な表現/本物か贋物か、それが問題/60年安保、昂揚感から流亡感へ

<第Ⅱ章 旅ごころ、観劇道中>
心に決めた「観劇三昧」/パブの二階で『恋の骨折り損』公演/「俺はだれだ」—『間違いの喜劇』/ガミガミ女攻略法—『じゃじゃ馬ならし』/機知合戦に愛の試練—『から騒ぎ』/多彩なヒロインたち/冗舌に生きる青春—『ロミオとジュリエット』その1/純愛を奏でる名台詞—『ロミオとジュリエット』その2/主役呑みこむ脇役群像—『ロミオとジュリエット』その3/「あーッ! 驚いた」—『ロミオとジュリエット』その4/多様な恋愛譚—『夏の夜の夢』その1/夢幻のなかの妖精たち—『夏の夜の夢』その2/激辛の残虐味—『タイタス・アンドロニカス』その1/間一髪!危機脱出—『タイタス・アンドロニカス』その2/王権めぐる争乱(薔薇戦争序曲)—史劇その1/史劇のなかの滑稽味、フォルスタッフ(『ヘンリー四世』)—史劇その2/問われる王権の正当性—史劇その3/系図が頼り—史劇その4/悪党の美学(『リチャード三世』)—史劇その5/(傍白)私は何者だ?〜王リチャードの問い—史劇その6/なぜか憂鬱な気分—『お気に召すまま』その1/鬱ぎの虫・ジェークイズの「五蘊皆空」—『お気に召すまま』その2

<第Ⅲ章 旅は道草、数奇ごころ>
気になるお天気・野外劇場/陽光願望—『太陽叩き』/『シンベリン』とのめぐり合い/小劇場“ピット”で観劇/グローブ座にかける夢/古都に残る名優の面影/秘密の味は「蜜の味」/「テムズの河風 袂にいれて」——ックランド回想/汗が覚える真夏の読書/道なき道歩く先達

<第Ⅳ章 旅空は果てもなく>
苦悩する情熱—『ハムレット』その1/「独白」にみる情念—『ハムレット』その2/逍遥・鴎外論争—『ハムレット』その3/嵐に咆哮する老王—『リア王』その1/背信と忘恩のなかで—『リア王』その2/人生、夢と同じ素材—『テンペスト』その1/“土着”と“新世界”と—『テンペスト』その2/寛容、そして調和へ—『テンペスト』その3/田園緑なりき/故郷への足跡をたどって/終焉そして再生/「万代不易」の業績

前書きなど

序に代えて
 その海岸には、日本海の波打ち際からせりあがるように砂丘が広がっていた。夏に
は砂の上で陽炎が躍り、遠くの風景が朧に揺れて見えた。燃えるような砂浜の熱気が、
少年の記憶に焼きつくように残っている。
 この砂丘を越えると、背の低い松の防風林が続いていた。そして、林を見下ろすよ
うに造られた中学校のグラウンド。松林に秋風がわたる頃、毎年、全校生徒による運
動会が開かれる。
 昭和20年代も終わりのこの年、運動会では変わった障害物競走があった。百メート
ルほどのコースのなかほどに、英文問題が書かれた白い紙が置かれている。近くに置
かれた辞書を頼りにこれを訳して、ゴールに走りこむという趣向であった。
 古いゴムヒモが緩く腰からズリ落ちそうになるトレーニングパンツを気にしつつ、
少年が課題文を拾うと
「Much ado about nothing」
 とあった。
 続けて辞書をひく。「ado」の訳語のみを探し当て、「泰山鳴動してネズミ一匹」
と訳し、なお呻吟し続ける仲間たちを尻目に、いち早くゴールに飛び込んだ。日ごろ
鈍足で、競走には滅法弱かった少年には“してやったり”という得意満面の思いがあ
った。
 ゴールで、やや皮肉っぽい笑みを浮かべた英語教師が「ま、いいだろう」と言った
のを50年経った今も鮮明に覚えている。後年、これがシェイクスピアの『から騒ぎ』
であることを知った。若い男女が機知に富んだやりとりで恋のさやあてを展開するコ
メディで、『から騒ぎ』の原題には他にふくみのある意味も隠されているというが、
舞台や映画でこの喜劇に接するとき、いまだに「泰山鳴動」がまず頭に浮かぶ。

 少年であった私のシェイクスピア“原体験”である。

版元から一言

これまで出会った恩師、友人との思い出、ロンドン駐在記者時代に触れた本場のシェイクスピア劇などを絡めながら、シェイクスピアの主だった作品を洒脱な筆致で辿る著者。その温性豊かな文章は、滋味にあふれています。

著者プロフィール

酒井 良一(サカイ リョウイチ)

1939年、新潟県出身。東京外語大学英米科を卒業後、北海道新聞社に入社。同社モスクワ、ロンドン駐在記者を経て、1990年北海道文化放送(uhb)入社。報道、編成など各局を担当し、2004年定年退社。

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