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変わりゆく日本漁業
その可能性と持続性を求めて
- 出版社在庫情報
- 在庫僅少
- 初版年月日
- 2014年8月
- 書店発売日
- 2014年8月3日
- 登録日
- 2014年6月13日
- 最終更新日
- 2024年4月14日
目次
★★ 目 次 ★★
はじめに 多田稔
【第1 部 日本の漁業と地域経済】
第1章 海外まき網漁業の現状と展望 (山下 東子)
第2章 漁業・養殖業の現状と新経営政策の意義
―資源管理・漁業経営安定対策を中心に― (小野征一郎)
第3章 国内におけるマグロ養殖業と組織形態 (中原 尚知)
第4章 海洋環境変化に伴う定置網漁業の漁獲組成の変動と経営問題
―京都府大型定置網漁業の事例から― (望月 政志)
第5章 「由比桜えび」ブランド化戦略の実態と課題
―静岡県由比地区を事例に― (李 銀姫)
第6章 魚類養殖業の新たな販売戦略
―養殖魚種の多様化から6次産業化へ向けた愛媛県の事例― (’前潟 光弘)
第7章 水産業を基軸とした6次産業化の意義と課題 (宮田 勉)
第8章 沿岸域のレクリエーション管理における漁業者の適性 (浪川 珠乃)
第9章 地域経済の発展と地域資源の利用
―八重山圏域経済を中心として― (婁 小波)
【第2部 漁業のグローバル化と日本の水産物市場】
第10章 国内市場の縮小と国際戦略 (有路 昌彦)
第11章 世界の水産貿易と日本―ズワイガニを事例として― (東村 玲子)
第12章 水産物需要増大に向けた取組の方向性
―「鱧料理」用食材ハモの事例― (津國 実)
第13章 漁協と大手量販店の直接取引が水産物流通に何を問いかけているか (日高 健)
第14章 国内水産業におけるHACCP普及の可能性 (大南 絢一)
第15章 我が国のクロマグロ需給動向と国際競争力 (多田 稔)
【第3部 合理的な漁業管理の実現に向けて】
第16章 漁業資源管理におけるシェーファーの理論とマクロの資源変動 (大石 太郎)
第17章 生態系保全と漁業に関する一考察 (牧野 光琢)
第18章 漁業と環境問題 (伊澤あらた)
第19章 責任ある漁業について:「FAO責任ある漁業のための行動規範」の経緯と現状(渡邊 浩幹)
第19章 漁業管理制度としてのITQ (八木 信行)
第20章 効率性分析から考える漁業管理の方向性 (阪井裕太郎)
第21章 「小間問題」と漁業権管理 (原田 幸子・日高 健・婁 小波)
第23章 日本型漁業管理の意義と可能性―プール制における水揚量調整に注目して―(松井 隆宏)
おわりに(総括)
小野征一郎先生略歴
小野征一郎先生の近畿大学での研究業績 榎彰徳
著作目録
著者紹介
前書きなど
はじめに
本書は小野征一郎先生(東京海洋大学名誉教授)の近畿大学農学部からのご退官を記念し、小野先生から薫陶を受けてきた水産経済分野の研究者が集まり、今後の日本漁業の新たな展開を論じたものである。小野先生は、養殖業の経営的問題から国際漁業問題に至るまで幅広い分野を熱い情熱と鋭い切り口で分析し、その核心を突いた課題提起と提言には定評があり、水産政策審議会会長として水産政策の形成にも大きく寄与されてきた。
日本の漁業は戦後高度成長期に大きく発展し、遠洋漁業における外延的拡大のみならず養殖業の発展もあり、漁業者の所得は向上していった。1964年(昭和39年)には水産物の自給率は113%を達成し、漁業は比較優位産業としてのスタートをきったのである。その後の経済成長の持続による国民所得の増大は水産物への需要を拡大させ、漁業にとって追い風となるはずであった。
ところが、国連海洋法条約等による排他的経済水域200海里体制への移行、円高や開発輸入等による海外からの水産物輸入の増加、および、我が国周辺海域における水産資源の限界によって、漁獲量が停滞したまま水産物価格が下落するという難局に直面する。頼みの養殖業も、過剰生産や海外への養殖技術の流出もあって、同様の課題に直面している。
このような漁業・養殖業の直面する課題に対して、水産物ブランド化戦略に関する研究が進められてきた。水産物ブランド化戦略は、それに適した魚種を有する地域においてはある程度の成果を収め、現段階ではそれをさらにレベルアップさせ、水産加工やサービス業とのリンケージを明確に意識した「6次産業化戦略」として推し進められようとしている。この方向での水産業のウェイトの高い沿岸地域経済の活性化を図ろうとする戦略を論じたのが本書の第1部「日本の漁業と地域経済」である。
次に、国際化とグローバリゼーションの影響について、今まではその負の側面への議論に終始してきた。日本の水産物自給率が低下傾向をたどりはじめて40年が過ぎ、誰しも水産業の国際競争力の無さを所与として受け入れてきた感がある。ところが、国内の景気低迷や食生活習慣の変化によって国内需要が減少傾向に転換し、視野を海外に向けざるを得なくなっている。ちょうどこの時、海外市場では日本食ブームによって水産物需要が増加するとともに、我が国の製造業の競争力に翳りが見え始めたことやエネルギー問題によって円高傾向にストップがかかった。以上のような内外の経済動向の新たな局面を積極的にチャンスととらえるのが第2部「漁業のグローバル化と日本の水産物市場」である。
最後に、水産資源の管理が非常に困難な課題として残っている。クロマグロのように完全養殖技術の開発に成功し、資源に対する負荷の低下が見込まれている魚種も存在するが、そのような魚種はわずかであり、ウナギのように非常に深刻な資源枯渇に直面する魚種もある。さらに、人間による漁獲のみならず、温暖化のような地球環境の変動も資源問題を複雑化させている。第1部や第2部で論じた地域漁業の活性化や国際化にうまく取り組めたとしても、その根幹となる水産資源が枯渇してしまえば、その努力は水泡に帰する。そこで、資源問題における課題を整理し、新たな制度的あるいは自発的な取り組みから今後のあるべき姿を示したのが第3部「合理的な漁業管理の実現に向けて」である。
本書の著者一同も、小野先生と同じ問題意識を抱き、漁業問題に挑戦しようとしているが、まだその水準を超えるには至っていない。「魚離れ」によって水産物の消費量が減少しているとはいえ、水産物は日本国民の食生活を支える非常に重要な品目である。水産業の関係者や行政担当者、消費者、今後の日本を支える学生の皆様には、ぜひ本書を一読いただき、我々の至らない部分にフィードバックいただくとともに、そこから我が国の水産業を変革してゆくアイデアが生まれることを願う次第である。
多田 稔
上記内容は本書刊行時のものです。