発行:草風館
この版元の本一覧
A5判 380ページ 上製
定価:5,825円+税 総額を計算する
ISBN978-4-88323-085-3(4-88323-085-6) C3325
在庫あり
奥付の初版発行年月:1995年06月
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紹介
◆道楽じゃなけりゃ続かんヨ。頭の凝りをとらんと新発見はない◆
——現在、著作集(全4巻・草風館)が刊行中ですが、戦前の高級官僚だったはずの人が、なぜアイヌ語地名のめり込んだのですか。
わしゃ、法律をバックにして大きな顔をする役人なんて嫌いだったんだヨ。本当は歴史に興味があったんだが、若気のいたりで、給料もらって背広を着たくなったんだナ。初めは日本の工業化を目指す調査研究でとび回ったが、仙台鉱山監督局長で山歩きしているうち、変な地名がたくさんあることを知った。浦子内とか佐比内が、方言か古語かと思っていたら、どうも違う。北海道にある地名と似ている。アイヌ語を使っていた人が、東北にも住んだいたに違いない、と興味が次がら次へと広がっていった。
——地名にこだわったのは?
古事記でも日本書紀でも、東北のことは蝦夷征伐ぐらいしか出ていない。アイヌ語を使っていた人たちが文字で残した歴史もない。日本の北方史は何もなかった。だから、地名だけが、古代北方民族の遺した唯一の記録なんだヨ。これを追いかけたら、これまで語られなかった歴史が出てくるはずだ、と思った。アイヌ語を使っていた人が東北にもいたんて、当時は、日本初の発見者だ、と思い上がってもいたんサ。
——敗戦後、その『思い上がり』に気付いた?
文部省へ行ったら、アイヌ研究なら金田一京助さんがいると聞いて、東京・杉並におられた金田一さん宅へ一人で乗り込んだ。先生の論文読んだら、ボクより先に、同じこと書かれていた。そのときは悔しかったネ。だけど、自分の考えていたことを、あれだけの学者がやっていたことで、自分の考えが間違っていないと気をとり直した。それからというものは、終電まで先生の家でアイヌ語を学んだサ。資料をどっさり背負って夜道を歩いていたら、ヤミ物資と思われ警官に調べられたこともあった。役人をやめて、北海道曹達会社を設立(1949年)、北海道と東京の二重生活でしたね。
北海道へ住むと、金田一先生に会えなくなるから嫌だったんだが、先生から同じ研究者の知里真志保君を紹介され、彼と議論しながら土、日曜日となると北海道中を歩いた。東北を調べるために北海道を歩いたんだが、北海道でもわからないことだらけ。ボクみたいな『調査屋』が現地を調べると、それまでわかっていたと思われていたことと違ってくる。
——既成の研究を現地調査で塗りかえるわけですね。主に何を調べます?
幕末の探検家の松浦武四郎や明治中期につくられた地図には、アイヌ語地名がたくさんある。地図をもとに、同じ地名のところを目でみて歩く。見取り図を書いたり、写真を撮ったり。同じ地名でどこかに共通点があれば、その名前の起こりは、その共通点なんだ、ということがわかるんだヨ。
——帰納法ですか。そうして調べた資料が、ファイルで100冊以上ですか。40年かけて……。
ファイルはボクにとって貴重品だよ。自分の楽しみのためにやってきたんだから。こんなこと道楽じゃないとできん。 (↓に続く)
(1983.1.28 朝日ジャーナル)
目次
第一部 北海道中部のアイヌ語地名
札幌のアイヌ地名を尋ねて
第一部 札南地区
第二部 都心と西郊
第三部 札北地区略説
第四部 札幌物語
第五部 札幌の東南郊
深川のアイヌ地名を尋ねて
第一 深川という地名
第二 石狩川筋の地名
第三 雨竜川中流の地名
第二部 追想のひと
知里さんのこと
久保寺博士の追想
金田一京助先生を偲んで
知里さんと地名調査をした話
八重九郎翁を偲んで
アイヌ語地名総索引
前書きなど
(↑から続く)
——どこが道楽なんですか。
これでメシ食っているとなったら、楽しみよりも、苦痛になる。そんなことは当然だろう?
——40年やって、知りたいことが、わかったですか。
まだ半分ぐらいの段階さ。いままでは調査、これからが研究の時代。あと20年ぐらい勉強できたら、ちょっとしたものが書けるんだが、それまでもたず、くたばっちまうだろうナ。だが、ボクの調査は次の代の人に役立つだろう。このごろは、遺産をのこそうかという気分で、何書くのも遺言書くつもりだナ。「ボクはここまで調べた。いい悪いは君たちが判断しろ。材料だけは遺しておく」とナ。そうすることで、日本の文化は先へ進むと思うんだ。
——遺言書きが道楽だなんて、うらやましい限り。
だけど、道楽だから、自分に対しては厳格なんだ。自分で調べたいと思って時間と労力をかけてきたんだから、不正確なことはしたくない。これがボクの流儀だ。基礎が不正確なら、その上にはなにもつくれない。基礎のひとつひとつをつくることの大変さったらねぇんだナ。(中略)
——壮大な道楽も裏付けがないと……。
たしかに、食うや食わずの生活なら、こんなことはできない。北海道には若い仲間もおり、協力してくれるので、調査にはさほどカネはかからんが、時間がないとネ。その点は恵まれていた。1回の現地調査に最低1カ月はかかる。事前の資料収集に半月、調査後の検討に半月が必要だからネ。
——北方文化、民族への関心が最近、高まっているようですね。一時的なブームなのかしれませんが……。
北方への関心が高まり、研究する層が厚くなるのはいいことだヨ。「第2の知里君」が出てくる期待もある。ものごとへの好奇心、というのが研究の原動力なんだからネ。だからといって間口を広げ、いろいろな所へ首を突っ込むと雑学に終わってしまう。地名だけなら小さいテーマだろうと選んだ。ところが、ものを掘り下げるっとなると大変なんだよ。何でもそうだろうが……。
道楽ついでにいえば、ゴルフも骨董品集めも道楽。どれにしても、道楽といえるものを持たんと年取ってから、楽しい生活をもてんヨ、君。
著者プロフィール
山田 秀三(ヤマダ ヒデゾウ)
(略歴)本籍 福岡県
明治32年6月30日 東京市赤坂区榎坂町に誕生
大正6年3月 東京府立第一中学校卒業
10年3月 第一高等学校卒業
13年3月 東京帝国大学法学部政治科卒業
13年5月 農商務省工務局属
14年4月 商工省工務局
14年11月 高等文官試験行政科合格
昭和2年5月 特許局審査官
2年6月 商工省工務局
3年6月 内閣資源局調査課
4年4月 同 局 総務部
8年6月 同 局 調査課長
12年10月 企画院調査部
14年4月 同 院 第三部
15年4月 同 院 調査官第四部(兼)第一部
15年11月(兼)総力戦研究所員
16年5月 同 院 第二部第一課長
16年6月 仙台鉱山監督局長
18年3月 内閣官房調査官(兼)内閣東北局長
18年5〜6月 鈴木行政査察使随員
18年7〜10月 藤原行政査察使随員
18年11月 内閣官房参事官
19年4月 山下行政査察使随員
19年11月 軍需省化学局長
20年8月 商工省整理部長
20年10月 退官
24年4月 北嶺道曹達株式会社取締役社長
36年3月 北海道文化財保護協会創立に参加、理事
44年11月 北海道曹達株式会社会長
54年3月 北海道曹達株式会社相
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