アイヌ語地名の輪郭
山田 秀三:著
発行:草風館 この版元の本一覧
A5判 216ページ 上製
定価:6,000円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-88323-080-8 (4-88323-080-5) C3025
在庫あり
奥付の初版発行年月:1995年06月
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紹介

 北海道の大地に深く広く刻まれているアイヌ語の地名。その研究を後半生の楽しみとして生き、三年前に亡くなった、山田秀三氏(1899—1992年)の著作を集めた最後の本がこのほど出版された(『アイヌ語地名の輪郭』、草風館)。これで、山田氏のアイヌ語地名関係の著作のほとんどが単行本として集約されたことになる。
 アイヌ語地名は第一に先住のアイヌ民族によって命名され受け継がれてきた、アイヌ民族文化の記憶であり、生きることの原点というべき生活に密着した自然との共生を物語る文化遺産である。北海道のエキゾチズムとして旅心を誘う役割も果たしているが、ロマンチックな響きなどの底にある人間と自然の共生から生まれた本当の地名の姿を、山田氏は明らかにした。
 第二に、道外から移住してきた人々との関係の中で変容していった、アイヌ民族文化と社会の歴史をも物語っている。山田氏はアイヌ語地名の研究を通じて、土地の人々の歴史をくみ取ろうとしていた。アイヌ語地名の分布の研究は道内だけでなく、アイヌ語地名が残る東北地方の古代史研究にとっても重要な意味をもつこととなった。 山田氏のアイヌ語地名研究に成果をもたらし、評価をゆるぎないものとした理由はその方法にある。地形などに即して語源を考察するという徹底した現地調査主義でありながら、机上の作業が現地調査の前後数週間に集中して行われた。現地調査は実りのない旅行に終わる場合も多かったが、行って納得できなけれは断定的な結論は出さない。だから出された結論は信頼するに足るものであった。
 ところがだんだん「山田地名学」が頼りにされだすと、結論が求められるようになり、本人は自信がもてないことをうっかり書いて、それが一人歩きすることを警戒して、一層慎重になった。「地名屋」を自称し、地名が語ることはここまでと自己の立場を限ったのは、地名を尊重したからにはかならない。広く日本列島の住民の歴史解明にアイヌ語地名研究が貢献できる可能性に夢がないではなかったが、東北以南へ性急に踏み込むことはしなかった。ようやく晩年に至って、あとのことは託すという意味で、自信はもてないがとしながら東北地方南部から北関東にかけてのアイヌ語地名についても意見を発表した。
 若いころの型破りな商工省などの官僚時代を経て、戦後に北海道の会社経営をしながら始まる地名研究の道程には、金田一京助、知里真志保、久保寺逸彦の各氏らとの出会いがあり、教えを乞うたアイヌ古老の方々がいた。歴史のめぐりあわせもあったとはいえ、まれなほど恵まれた環境であったともいえる。それらのアイヌ語地名研究の人々が亡くなったあとも、人脈の要として長い間北海道にかかわりつづけ、ひとり思い出とともに研究を続けたのである。
 山田氏のアイヌ語地名研究はその成果が学界で利用されることはあっても、だれにもどこにも束縛されることのない自由な学問であった。
 「常呂川筋の地名」など今回の最後の著作に収められたものもそうだが、論文形式ではない各地の地名探査の報告を読むと、現地の人々の暮らしがそこにあって地名があることがわかる。また、そのことを伝えようとしているようでもあり、同好の人々への呼びかけが随所に見られる。
 地名が文化遺産であることはだれでも承知している(とはいっても、あまり重要視されてもいないようであるが)。山田氏の地名研究は、地名が文化遺産であることの意味を教えてくれるものである。風化する記憶の中で今、アイヌ語地名は何を語り、未来に向かってわれわれはどうこたえればいいのか、本当の地名研究ガ求められている。             児島恭子
            (1995.10.17 北海道新聞) 

目次

第一部 アイヌ語地名の話
 はしがき——アイヌ語地名の性格
 ペッとナイの世界——川筋の地名
 海辺・山野の地形・地物
 海辺の地名語 岬の名 山の呼び方 原野などの地形
 動植物地名
 草の地名 板を掘って食べた主な草 木の地名 獣鳥地名 魚介類の地名
 生活の地名
 家・神・簗・舟 色・方位

第二部 アイヌ語地名の研究のために
 地名の変化ー−北方の地名について
 改名・合村名・新名 地名の移転 漢字の読み方から来る変化 省略、追加による地名変化
 音転訛からの地名変化
 アイヌ語地名図説サブノート——北海道の河川名の基本語形について
 ウエネウサラ(地名よもやま話)
  私のアイヌ語地名表記の話 チノミシリの意味 アイヌ語地名の訳し方 地名の中の所属形
 地名研究の楽しみ 
  大地名が特に分らない 位置が分っていても各人各説の地名 省略されている説明語
  目で見た姿で地名ができたこと アイヌ語地名の中の色 ソウヅケ物語

第三部 オホーツク海沿岸の小さな町の記録
      一一常呂町のアイヌ語地名調査
 調査にあたって
 常呂川筋の地名
 海岸・湖岸の地名
 調査を終って

第四部 南のアイヌ語地名を尋ねて
 下北半島のアイヌ地名
 南のアイヌ語地名?−福島県・関東北辺の散策記
 津軽海峡の南のアイヌ語
 仙台「案内」考

第五部 アイヌ語地名の周辺
 北海道アイヌ地名閑談——俚謡に唄われた地名
 カリンパの話
 アイヌ語地名と新旧の地図
 アイヌ時代の神々の居所−地名調査メモの中より

山田秀三「アイヌ語地名」関係著作年譜


著者プロフィール

山田 秀三(ヤマダ ヒデゾウ)

(略歴)本籍 福岡県
明治32年6月30日 東京市赤坂区榎坂町に誕生
大正6年3月 東京府立第一中学校卒業
  10年3月 第一高等学校卒業
  13年3月 東京帝国大学法学部政治科卒業
  13年5月 農商務省工務局属
  14年4月 商工省工務局
  14年11月 高等文官試験行政科合格
昭和2年5月 特許局審査官
  2年6月 商工省工務局
  3年6月 内閣資源局調査課
  4年4月  同 局 総務部
  8年6月  同 局 調査課長
  12年10月 企画院調査部
  14年4月  同 院 第三部
  15年4月  同 院 調査官第四部(兼)第一部
  15年11月(兼)総力戦研究所員
  16年5月  同 院 第二部第一課長
  16年6月 仙台鉱山監督局長
  18年3月 内閣官房調査官(兼)内閣東北局長
  18年5〜6月 鈴木行政査察使随員
  18年7〜10月 藤原行政査察使随員
  18年11月 内閣官房参事官
  19年4月 山下行政査察使随員
  19年11月 軍需省化学局長
  20年8月 商工省整理部長
  20年10月 退官
  24年4月 北嶺道曹達株式会社取締役社長
  36年3月 北海道文化財保護協会創立に参加、理事
  44年11月 北海道曹達株式会社会長
  54年3月 北海道曹達株式会社相

上記内容は本書刊行時のものです。

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