適正な刑事手続きの保障とマスメディア
渕野 貴生
発行:現代人文社
この版元の本一覧
A5判 288ページ 上製
定価:3,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-87798-327-7 C3032
在庫あり
奥付の初版発行年月:2007年02月
書店発売日:2007年02月06日
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紹介

「犯罪報道と被疑者・被告人の刑事手続き保障」をテーマにまとめた、わが国初の論文集る。
日本の犯罪報道は、被疑者・被告人の公正な刑事手続を受ける権利を侵害している。この問題点に焦点を当て、アメリカ・ドイツの判例や法曹界・メディア界の取組みを紹介・分析しながら、侵害された権利の救済および防止に向けた検討を行う。

目次

はしがき
序 章◇問題関心
 第1節 問題の所在
 第2節 従来の議論の到達点
第1部 アメリカにおける「公正な裁判と表現の自由」論の展開
 第1章◇予断発生後の事後的救済
  第1節 予断法理の確立
  第2節 予断法理の適用基準
 第2章◇予断発生の防止論と報道の自由
  第1節 Sheppard判決
  第2節 Nebraska Press 協会判決——事前抑制の可否
  第3節 アメリカ法律家協会(ABA)の対応
  第4節 学説における議論
  第5節 小括
 第3章◇手続の公開制限の可否
  第1節 手続公開の根拠
  第2節 修正1条による裁判公開の射程
  第3節 修正6条の公開裁判条項の射程
 第4章◇手続関係者の情報提供の規制
  第1節 Gentile判決前の連邦下級審の動き
  第2節 連邦最高裁Gentile判決
  第3節 学説における議論
  第4節 ABAの対応
 第5章◇まとめ
  第1節 実証研究
  第2節 適正手続侵害の構造
  第3節 適正手続侵害に対する法的対応

第2部 ドイツにおける犯罪報道と公正な刑事手続をめぐる議論

 第6章◇権利侵害の構造
  第1節 検討方法
  第2節 保護されるべき権利
  第3節 無罪推定法理の保障の意義
  第4節 公正な刑事手続を受ける権利の意義
  第5節 私人間効力
  第6節 小括
 第7章◇公正な刑事手続を保障する手段
  第1節 ドイツ報道評議会(Deutschen Presserat)の対応
  第2節 連邦政府報告書
  第3節 刑事手続側の対応手段
 第8章◇予断の発生を防止する手段
  第1節 報道の自由との関係
  第2節 処罰と予防効果
  第3節 裁判所侮辱罪と報道の自由
  第4節 民事法上の手段を通じた一般予防
  第5節 裁判の非公開
 第9章◇手続関係者による情報提供活動の是非
  第1節 捜査機関の情報提供活動の規制
  第2節 被疑者・被告人側の情報提供の可能性
  第3部 考察
 第10章◇権利侵害の構造論
  第1節 手続関係者への予断と適正手続を受ける権利
  第2節 無罪推定法理違反の意味
  第3節 報道機関に対する適正手続を受ける権利の「適用」
 第11章◇適正手続を保障する法的手段
  第1節 手続打切りとの関係
  第2節 刑事手続側の対応手段
  第3節 事前抑制的手法
  第4節 手続関係者の報道関係者に対する情報提供の制限
  第5節 裁判公開制限の妥当性・有効性
 第12章◇両当事者対等報道
  第1節 情報発信型規制の必要性と危険性
  第2節 両当事者対等報道モデルの提唱

むすび

前書きなど

 大学で刑事訴訟法の講義を行う身になって数年経つが、捜査の端緒から判決に至る一連の手続を話すなかで、ある種の虚しさを感じてしまうポイントがいくつかある。その1つが、予断排除原則を具体化した起訴状一本主義である。
 刑事訴訟法256条に従って、起訴状には事件に関して予断を生じさせるような情報を書き込んではならないことになっている。つまり、裁判が始まる前に裁判官にそのような情報を伝えてはいけないことになっているのだが、それでは、適式な起訴状によって手続が進められる限り、裁判官は、第1回公判期日に、事件について起訴状記載の訴因事実以外の情報を有しない状態で法廷に入ってくるかといえば、必ずしもそうではない。少なくとも重大事件において、裁判官が「白紙」の状態で裁判に臨むことはほとんどありえないと断言してもよいのではないか。なぜなら、検察官が情報を提供しなくても、マスメディアが起訴に至るまでの間の犯罪報道を通じて、事件および被疑者・被告人について極めて詳細な、そしてその多くが被疑者・被告人にとって不利益な情報を既に提供しているからである。
 しかし、このような犯罪報道は、刑事裁判に影響を与えないのだろうか。公平な裁判所による裁判を受ける被疑者・被告人の権利を侵害しないのだろうか。裁判官は法律上、知らないことになっている、あるいは報道から情報を得ても影響を受けないことになっている、と説明されても納得できない人は少なくないのではなかろうか。私もその一人である。
 しかも、犯罪報道が事実認定および量刑の判断者に与える予断の問題は、裁判員制度の導入という制度改革にともなって、近時、市民一人ひとりが当事者として直面せざるをえない重要な問題になりつつある。
 本書は、以上の素朴な疑問を刑事訴訟法学の問題として捉え、第一に、犯罪報道と被疑者・被告人の適正手続を受ける権利との関係を理論的に探求し、第二に、マスメディア報道を通じて生じうる適正手続保障の侵害を予防し、救済するために取られるべき法的対応方法を提示することを試みたものである。
 本書のテーマについて本格的に考え始めてから、すでに10年以上の時間が経過した。本書は、その間、断続的に公表してきた論文を整理し、再構成したものである。主張の骨格に変化はないものの、既発表論文には不十分なところが多々あり、また、旧稿をそのまま再録すると論旨のつながりが分かりにくくなるところもあったため、本書をまとめるにあたって、それぞれの旧稿にはかなり大幅な加筆・修正等を行った。また、裁判員制度の導入に伴って新たに検討すべき点もいくつか生じてきていることから、それらの点についても検討を加え、必要な加筆・修正を施した。したがって、初出論文と本書との対応関係はゆるやかなものとご理解いただければ幸いである。しかし、にもかかわらず、本書はなお不十分さを多く残している。とりわけ、ドイツの検討部分については最小限の補訂しかできなかった。足らざる点は今後の研究のなかで少しでも補っていきたいと考えている。

 このような拙い研究であっても、多くの先生方のご指導がなければ完成させることはできなかった。
 恩師小田中聰樹先生のもとで、十数年前に本書のテーマで研究を始めようとしたころ、このテーマは、刑事訴訟法学の問題としてほとんど認知されていなかったように思う。そのような問題を修士論文のテーマにしようとしたのだから、無知というのは本当に恐ろしい。しかし、小田中先生は、「やってみるか」とおっしゃって、このテーマで研究を進めることをお認めくださった。現在振り返っても改めて確信するが、小田中先生のもとでなければこのようなわがままは絶対に許されなかったであろう。先生には、本当に自由な研究の場を保障していただくと同時に、公私にわたり私が迷ったときには常に進むべき方向に導いていただいた。先生に改めて深く感謝の気持ちを捧げたい。
 修士課程終了後、私は川崎英明先生のもとで助手に採用され、引き続き研究を続けられることになった。川崎先生も、普段は完全に自由に研究することをお認めくださるとともに、要所要所で的確なご指導をいただいた。また、小田中先生と川崎先生が極めて精力的に論文を執筆されながら、社会的・立法的課題に対する実践的活動においても最前線に立って活躍されているご様子に間近に接することができたことは、私にとって何物にも代えがたい貴重な経験であり、両先生のお仕事ぶりは、研究者のあり方についての生きたご指導そのものであった。
 さらに、私が、犯罪報道の問題に関心を持ったのは、元をたどれば大学1年のときに参加したインターカレッジな自主ゼミがきっかけである。そのゼミの顧問をされていたのが、田中輝和先生である。先生は、以来、ともすれば暴走しがちな私に対して辛抱強く、地道に研究することの重要性をお教えくださった。
 また、お名前を出すことは差し控えさせていただくが、本書をまとめるにあたって行った聴き取り調査に、多忙ななか貴重な時間を割いて快く応じてくださった弁護士の先生方にも厚くお礼を申し上げる。
 その他、様々な研究会を通じて多くの先生方からご指導いただいた。とりわけ、福井厚先生には、ドイツの貴重な文献を紹介していただくなど、折にふれてご指導いただいた。にもかかわらず、本書では、紹介していただいた資料をほとんど活かすことができなかった。今後、精進を重ねることでお許し願うしかない。
 静岡大学に就職してからは、人文学部・法務研究科の同僚・スタッフに良好な研究環境を保障していただいた。
 なお、私事にわたるが、私は先天性の心臓病を抱えて生まれた。現在、何らの制約もなく日常生活を送ることができているのは、根治手術によって命を救ってくださった村岡隆介先生のおかげである。深い感謝の思いを込めてお名前を挙げさせていただきたい。
 最後に、私の著作の最も厳しい評者であり、私という人間に対する最大の理解者であるパートナー伊藤睦に本書を贈りたい。

 本書の出版にあたっては、現代人文社の成澤壽信社長と木村暢恵氏に大変お世話になった。出版事情の厳しい折、本書のテーマの意義を認めて出版を勧めてくださった両氏に深く感謝申し上げる。

  2006年12月 富士山を眺める研究室にて
渕野貴生 

版元から一言

犯罪報道と被疑者・被告人の刑事手続保障》をテーマに1冊にまとめた、わが国初の論文集。裁判員裁判の開始を目前に控え、法曹関係者・メディア関係者は必読。

著者プロフィール

渕野 貴生(フチノ タカオ)

1970年生まれ。
1995年3月、東北大学大学院法学研究科博士前期課程修了(修士)。
東北大学法学部助手(1995年4月〜2000年3月)を経て、現在、静岡大学法科大学院助教授。

●主な著作物
『龍谷大学矯正・保護研究センター叢書第5巻 少年司法改革の検証と展望』(共著、日本評論社、2006年)
『民主主義法学・刑事法学の展望——小田中聰樹先生古稀記念論文集』上巻(共著、日本評論社、2005年)
『少年事件報道と子どもの成長発達権』(共著、現代人文社、2002年)
『少年「犯罪」被害者と情報開示』(共著、現代人文社、2001年)
その他、季刊刑事弁護、法学セミナー、法律時報など幅広く執筆。

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