発行:現代人文社
この版元の本一覧
A5判 244ページ 並製
定価:2,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-87798-299-7(4-87798-299-X) C3032
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年07月
書店発売日:2006年07月21日
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紹介
裁判員制度は、本当に市民の能力や経験を活かすものになっているのか。ニューヨーク州刑事裁判調査から、公判前整理手続や公判手続の問題点を指摘し、諸方策を提起する。
目次
第1部 市民が活きる裁判員制度構築への提言
第1章 市民が活きる裁判員制度に向けて—ニューヨーク州の刑事裁判実務から学ぶ 丸田 隆(関西学院大学法科大学院教授)
第2章 ニューヨーク州の刑事裁判所システムについて 家本真実(摂南大学法学部講師)
第3章 公判前整理手続における証拠開示・主張整理 目片浩三(弁護士)
第4章 公判手続における弁護人の実務と役割 溝内有香(弁護士)
第5章 弁論及び尋問におけるビジュアル映像の使用について 松尾紀良(弁護士)
第6章 中間評議は必要か 立岡 亘(弁護士)
第7章 ルール化すべきは裁判官の説示・説明 坂口唯彦(弁護士)
第8章 ニューヨーク州刑事裁判実務から学んだこと—刑事裁判の原則を念頭に置いた裁判員制度の実現へ 家本真実(摂南大学法学部講師)
第9章 裁判員制度の土台作りをいかにするか 中山博之(弁護士)
第10章 【座談会】ニューヨーク州の刑事裁判実務を裁判員制度にどう活かすか—第2次ニューヨーク調査の成果と今後の課題
第2部 ニューヨーク州刑事裁判実務家インタビューの記録
第1章 裁判官に聞くニューヨーク州の陪審制度
第2章 弁護士に聞くニューヨーク州の刑事手続
第3章 ロースクール教授に聞くニューヨーク州の刑事手続と公判前整理手続
第4章 元連邦検察官に聞く連邦の刑事手続
第5章 元裁判官に聞く陪審裁判の実際
第6章 ニューヨーク大学ロースクール教授に聞く陪審裁判と公判前整理手続
第7章 連邦公選弁護人に聞く証拠開示手続と弁論
第8章 元検察官に聞く証拠開示手続と検察の立証責任
第9章 刑事弁護人に聞く証拠開示と弁護人の役割
第10章 連邦副検事に聞く証拠開示と検察側立証
第11章 ニューヨーク郡裁判所書記官陪審部長に聞く陪審員選定手続
第3部 資料
資料1 ニューヨーク州刑事訴訟法§240.20
資料2 ニューヨーク州刑事陪審模範説示集(抄訳)
前書きなど
はじめに
本書は、2005年9月3日から10日まで、日本弁護士連合会裁判員制度実施本部が企画したニューヨーク州陪審制度第2次調査として、同本部委員8名及び学者2名が参加し、ニューヨーク州の陪審制度の実情を調査した結果をまとめたものである。
2009年には刑事裁判に市民が参加する裁判員裁判が導入されることになった。そしてそれに先立ち、2005年11月1日から改正刑事訴訟法が施行され、裁判員裁判の実施を念頭に入れた連日的開廷とその準備手続である公判前整理手続がスタートした。連日的に行われる公判では直接主議、口頭主義の徹底した審理が目指される。アメリカの陪審裁判においても、直接主議、口頭主議の徹底した審理が連日開廷され、そのための準備手続も実施されている。そこで、日本弁護士連合会としても、この新しい制度のスタートにあたり、司法の市民参加について長い歴史的経験を持つアメリカの陪審裁判におけるこれらの手続がどのようなものであり、どのような運営をされているのかなどについてその実情を調査することが日本の新しい制度運用を考えるうえで有用であるとして実情を調査することになった。
主な調査項目は、公判前の準備手続として、争点及び証拠の整理を目的とした公判前整理手続のような制度があるか、公判前の準備手続はどのように運営されているか、証拠開示の方法はどうか、公判段階については、弁護士及び検察官の冒頭陳述、論告、弁論などの公判活動、供述調書、鑑定書などの書証の取扱い、また、陪審裁判の評議の方法、更には説示などである。
本調査は、陪審オリエンテーション、刑事陪審裁判の傍聴はもとより、現職裁判官、検察官、刑事弁護士及びロースクール教授との質疑応答、意見交換をするなどして行われた。
本書は、その調査結果をまとめたもので、第1部は調査の結果を調査参加者が項目毎にまとめたもの、調査参加者による座談会の内容を調査項目毎に編集し直したもの、第2部が各訪問先の調査協力者との質疑応答、意見交換などで構成されており、あわせて参考のために第3部にニューヨーク州刑事陪審模範説示集(抄訳)などを添付した。
調査の結果は本書のとおりであるが、いくつかの項目について触れてみる。
公判前の手続として、日本の公判前整理手続にあるような争点整理のために検察官及び被告人側から証明予定事実を提出したり、厳格な意味での証拠整理の手続は行われていない。例外として被告人側にアリバイ、心神喪失事由、専門家による鑑定を要する事項については主張責任がある。争点は検察官の冒頭陳述により明らかになるものであり、その巧拙は検察官の立証責任の問題として処理されることになる。証拠開示については、検察官は弁護士の証拠開示請求に対し比較的緩やかな形で応じているようであるが、応じない場合は被告人側の申出により裁判所が判断することになる。ただし、検察官は、被告人の無罪につながる証拠は開示しなければならない。
公判活動では、パワーポイントその他最新テクノロジーの利用についてはその有用性を認めつつも、その功罪があることから現実の使用については積極、消極両意見がある。また、通常供述調書が証拠として法廷に提出されることは少なく、鑑定も鑑定書そのものが証拠となるものではなく、鑑定した専門家の証言が証拠となるなど、直接主義、口頭主義が徹底されている。
裁判官は公正な裁判を担保するために陪審員に対して刑事裁判の基本ルールの説明、評議の仕方、その他必要な説示を分かりやすく行う。陪審員は、立証責任が検察にあること、従って合理的な疑いを超えて立証したと認定できなければ無罪としなければならないことを折りに触れ説明される。もし無罪推定について裁判官が説示しなければ、それが上訴理由となる。また陪審員は、最終説示が終わって評議が開始されるまで事件に関してほかの誰とも話しをすることを禁じられる。
調査でみてきたこれら公判準備の手続及び公判の審理手続は、いずれも刑事裁判における原則が尊重され、被告人の防御権に配慮し、事実問題の判断者は陪審員であることが常に意識して行われている。
陪審と裁判員裁判とは制度を異にするが、市民が参加する裁判であることに変わりはない。アメリカの陪審裁判が持つ歴史的経験から学ぶべきことは多い。
裁判員裁判の導入にあたり、裁判の迅速性を強調する余り、被疑者・被告人の権利が侵害されたり刑事裁判の原則が歪められたりすることがあってはならない。また裁判員裁判は、一般市民である裁判員が主体的・実質的に評議に参加することができる制度でなければならない。
本書が、すでにスタートした公判前整理手続の運用や来るべき裁判員裁判の実施に伴う諸問題を検討するために、その一助となれば幸いである。
最後に、ご多忙のところ、快く調査にご協力いただいた各訪問先の関係者の皆様と、調査のコーディネートから通訳まで全面的にご協力いただいた関西学院大学法科大学院教授の丸田隆氏及び通訳の摂南大学法学部講師の家本真実氏に、心より感謝申し上げたい。また、本調査の実施とこの出版を支えてくれた日弁連法制部の下園剛由氏、及び本書の出版を引き受けて下さった現代人文社の成澤壽信氏にお礼を申し上げたい。
2006年5月
ニューヨーク州陪審制度第2次調査団
団長 浅野 孝雄
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