陪審制度を求める理由裁判員制度は刑事裁判を変えるか
伊佐 千尋
発行:現代人文社
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四六判 264ページ 上製
定価:1,700円+税 総額を計算する
ISBN978-4-87798-281-2(4-87798-281-7) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年05月
書店発売日:2005年06月10日
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紹介

裁判員制度の数々の疑問を明らかにするとともに、陪審制度と比較して、裁判員制度が真の刑事司法制度改革につながるのかを考える。

目次

目次
まえがき——裁判員制度は、真に「市民による市民のための司法制度」か  1

序章 裁判員制度への疑問ーー次の世代に禍根を残さないために  7
 1 裁判員は、裁判官と対等な立場で議論し判断できるか?  7
 2 捜査・公判が現状のままで裁判員制度は機能するか?  13
 3 「市民のための司法改革」からはほど遠い今回の司法改革  19
第1章 人の運命を左右する重大な決定——沖縄の陪審員体験から学んだもの  21
 1 沖縄の陪審事情  21
 2 被告人も陪審員もともに不安  28
 3 陪審員の感覚や良心  38
第2章 病んでいる刑事裁判——えん罪を生む自白偏重  42
 1 自白偏重はえん罪の要因  42
 2 冤罪の構造  45
 3 黙秘権と弁護人請求権  48
 4 司法による厳しいチェック  52
 5 蛸島事件から学ぶ  58
 6 武装平等の原則  61
第3章 陪審裁判が日本の刑事裁判を変える——司法参加制度の一日も早い実現を  64
 1 すし屋と裁判所  64
 2 司法の空洞化  67
 3 日本人の国民性と陪審制度  71
 4 陪審制度の起原  74
 5 陪審は強力な安全弁  77
 6 陪審消極論  81
 7 裁判官は神様か  84
第4章 正義の遅延は正義の否定——長期化する裁判  92
 はじめに  92
 1 明るい活気に満ち溢れたアメリカの裁判所  93
 2 マクマーティン事件  97
 3 甲山事件  106
 4 迅速な裁判を受ける権利  114
第5章 シンプソン事件と陪審制度——無罪は人種的偏見によるのか  119
 1 一一日間の陪審員体験が私を変えた  119
 2 シンプソン事件の教訓  121
 3 小陪審の役割  130
 4 陪審制度をもつ社会と、もたない社会のどちらを選ぶか  136

第6章 法曹関係者は素人(市民)判断を軽視する——アメリカ法曹代表団の模擬陪審傍聴記  139
 1 すばらしい試み  139
 2 刑事模擬陪審  140
 3 陪審員による評議  151
 4 パネル・ディスカッション  156
 5 素朴な感想  159
 6 逆立ちした理論  165

対談1 裁判員制度は、陪審制度の一里塚になるか 四宮啓×伊佐千尋  172

対談2 裁判員制度は、刑事裁判の現状を変えるか 石松竹雄×伊佐千尋  222

前書きなど

◎まえがきーー裁判員制度は、真に「市民による市民のための司法制度」か

 私たちは三〇年来、司法の危機的状況を打開するため、捜査は捜査官憲任せ、裁判は裁判官任せであってはならないと、戦後復活を公約された陪審制度の再施行と捜査の抜本的改善を求めてきました。
 戦後六〇年、ようやく政府も重い腰をあげたかに見えましたが、司法制度改革審議会が発足して間もなく、早々と出された法務省と最高裁の意見書は、期待を裏切るものでした。
 改革を迫られるに至った経過について、自らには全く非がなく、司法独裁の姿勢を誇示して憚らず、「わが国の司法は、それを担う裁判官、検察官を始めとする司法関係者の公正さ、中立性、廉潔性等によって、基本的にはその役割を適切に果たして国民からの信頼を得てきたものと考える」と自画自賛、刑事司法の特質、基本的構造を維持し、発展させる方向で考えるべきだと臆面もないのです。
 司法制度改革審議会が「二十一世紀の日本を支える司法制度」と題した最終意見書(二〇〇一年)も、「市民主体の司法改革」からはほど遠く、無責任極まるものでした。適正迅速な処罰を強調し、適正手続きを無視して捜査を拡大、取り調べの改善には一顧も与えていません。民主主義社会にとって市民の司法参加がいかに重要であるか、市民に信頼される裁判を強調しながら、陪審法については論議を避け、結局、事実の認定と量刑を裁判官と市民が一緒に判断するドイツ型参審制を軸に「裁判員法」という奇手を打ち出してきました。最高裁が「評決権なき参審制」を提起して世界の失笑を買っていますから、法務省あたりが考え出した「助け船」であったかも知れません。
 制度設計にあたった司法制度改革推進本部(内閣府)の井上座長案も官僚主導の色濃く、失望させられました。エリート意識の強い裁判官三人に対し、市民裁判員が六人の少数、加えてその主体性判断を講じる手立てを欠いては、裁判官たちに主導もしくは制約を受けてしまうのは目に見えています。
 それでは市民参加の意義が失われ、そうならぬよう手段が講じられなくては、裁判員は量刑作業に関与するだけで、結果として生じる誤判に市民のお墨付きまで与えてしまうおそれがあります。
 本書は、こうした裁判員制度について疑問を提示するとともに、これまで日本の刑事裁判の実態と欧米で行われている陪審制度について、各地の大学や弁護士会で話し、新聞雑誌に書いてきたものから編集部が抜粋したものです。さらに、「陪審裁判を考える会」でともに陪審制度の実現に取り組んできた四宮啓弁護士との対談、元裁判官で大阪で「陪審制度を復活する会」で活躍している石松竹雄弁護士との対談を付け加えました。お二人には、お忙しいところ快く対談を引き受けていただき、こころより感謝いたします。

 変革には常に困難が伴います。改革を推進すれば、既得権を握る支配層から反撥を受け、そこで妥協してしまえば、改革は中途半端に終わって改革の名に値せず、逆に反対派は巻き返しを計り、改革を逆行させてしまうでしょう。これは歴史の教えるところです。
 今回の司法制度改革をふり返るとき、「市民主体の司法改革」からはほど遠く、一体誰のための改革であったのか疑問に思います。
 裁判員制度は“Quasi Jury System” と英訳されていますが、陪審制度とは似て非なるもの、評議の基礎となる証拠の収集と採否の方法が改められ、そして冤罪原因を除去するための手立てが講じられていない裁判員制度には反対せざるを得ないのです。
 三年後にこの制度が実施される前に、私たちに課された問題は、この憂慮すべき現状をどう打開し、民主的な制度に近づけるかにあります。このような制度の非を今市民が声を大にして叫ばなければ、次の世代に禍根を残し、我々は何をしていたのか後世の非難を受けることになります。
 真の「市民による市民のための司法制度」を次の世代に残さなければなりません。とりも直さず、それは陪審制度です。

 二〇〇六年四月一〇日
      伊佐千尋

著者プロフィール

伊佐 千尋(イサ チヒロ)

1929年東京生まれ。1978年デビュー作『逆転』で第9回大宅壮一ノンフィクション賞を授賞。これを機に実業界から作家に転じた。1982年、陪審制度を復活・実現することをめざして、作家の青地晨、弁護士の後藤昌次郎、倉田哲治各氏らと「陪審裁判を考える会」を発足させる。

《主な著書》
『島田事件 死刑執行の恐怖に怯える三四年八カ月の闘い』(潮出版社、新風舎文庫)、『阿部定事件ーー愛と性の果てに』(文春文庫、新風舎文庫)、『逆転ーーアメリカ支配下・沖縄の陪審裁判』(新潮文庫、岩波文庫)、『日本の刑事裁判ーー冤罪・死刑・陪審』(中公文庫)、『舵のない船 布川事件の不正義』(文芸春秋)、『沖縄の怒り コザ事件・米兵少女暴行事件』(文春文庫)、『司法の犯罪』(文春文庫、新風舎文庫)、『最後の被告人ーースコッツボロ事件』(伊佐敦との共訳、クラレンス・ノリス/シビル・D・ワシントン著、文芸春秋)、『目撃証人』(文芸春秋)など司法問題に関する著作多数。
その他、『トレビノの破天荒ゴルフ』(訳、リー・トレビノ著、新潮文庫)、『名手たちの言葉』(広済堂ゴルフライブラリー)、『洛神の賦ーー三国志の世界を訪ねる旅』(文芸春秋)、『邯鄲の夢ーー中国・詩と歴史の旅』(文芸春秋)の漢詩選集がある。

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