馬鹿の鏡
藤田 浩子:編著, 小林 恭子:絵
シリーズ・叢書「昔話に学ぶ「生きる知恵」 3」の本一覧
発行:一声社 この版元の本一覧
四六判 184ページ
定価:1,300円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-87077-189-5 (4-87077-189-6) C0093
在庫あり
奥付の初版発行年月:2006年08月 書店発売日:2006年08月20日
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紹介

馬鹿息子・馬鹿婿の話は、人を馬鹿にするではなく、どんなことをすれば笑われるか、世間や常識を学ぶための話。抱腹絶倒の26話。

3巻のカラー口絵は、番傘・蓑笠・煙管・煙草入れ・蚊帳・高下駄・屏風・土瓶・すり鉢・すり粉木。

目次

はじめに
この本の使い方
馬鹿息子話
   からすのいる所  
   柿の見張り番
   ちゃぁっくりかきす
   傘をさす
   傘屋奉公
   どっちが遠い
   うれしいこと 
   ふんどぉし
   釜敷き
   親孝行
   蚊帳
   切れたうどん
   旅学問
   かわむいて
   挨拶
   さようの首
   親父を焼く
   若水
馬鹿婿話
   大根風呂
   おったて屏風
   だんごどっこい
   半殺し
   そばがき
人のふり見て
   芋ころりん
   ことしゃみせん
   においの当人
あとがき

前書きなど

はじめに
つきあい下手な子ども、そしておとな
 長いこと子どもにたずさわる仕事をしてきました。そして年々、子どもたちの、友だち
との関わり方が下手になってきていることに気づきました。もちろん以前から、保育園.
幼稚園には、関わり方の下手な子はたくさんいました。「貸して」が言えなくて噛ったり
叩いたりする子や、いっしょに積み木をしたいのに「入れて」が言えなくて、友だちの積
んだ積み木をこわしてしまう子や、好きな女の子と遊びたいばかりにスカートをめくって
しまう子、そんな子がたくさんいました。いっしょに遊ぶにはどうするか、それを学ぶ場
が保育園や幼稚園なのですから、いてあたりまえなのです。 そこで揉まれながら、たいて
いの子は卒園するまでにおおよその「つきあい方」を学んで小学生になっていったのです。
 けれど、今、小学生になっても、中学生になっても、高校や大学生になっても、人と上
手につきあえず、もたれ合うことが仲よしの証拠と錯覚したり、だれかを仲間はずれにす
ることで自分たちのつながりを確認し合ったり、ささいな行きちがいでも修復する方法が
わからないまま、自分を否定したり相手を否定したりしてしまう子が増えてきました。つ
きあうための「知恵」が足りないのでしょう。
 子どもたちとつきあうということは、当然その親御さんたちともおつきあいするという
ことなのですが、そもそもその親御さんたちが、家族も含めて人との関わり方があまり上
手でない、いえ、他人との関係だけでなく、自分自身との関わり方も上手でない人が増え
ているように思います。仕事がうまくいかなければ部下に当たるしか解決の方法を知らな
い上司、事故で電車が遅れれば駅員さんに当たってうっぷんを晴らす乗客など、そこここ
でお目にかかります。それでもだれかに当たっているうちはまだいいのです。八つ当たり
もできず、それを内に内にとためこんで処理できなくなり、突然思いもよらぬ方法で爆発
させる人、それも若い方ならともかく、いいトシの爺婆までも節操のないことを口走って
いる今日このごろです。私も含めて自分自身をコントロールできないおとなのなんと多い
こと!
 世の中全体の人が、自分の言いたいことを伝える伝え方が下手になってきたのです。自
分の言いたいことをうまく相手に伝えられないのです。言いたいことをそのまま言ってト
ラブルになったり、トラブルを恐れて言えずじまいなのに心の中でいつまでもくすぶって
いたり、うまく伝える「知恵」が足りないのでしょうね。
伝える力・受け止める力
 同時に相手の言いたいことを推察してしっかり受け止めることも下手になりました。こ
ちらの言い方も下手なのですが、「子どもを受け入れて」と言えば、奴隷のように子ども
に仕えてしまう親御さんもいます。「親の生活を大事に」と言えば、深夜までテレビを見
せたり、夜中に二歳三歳の子を連れてコンビニに出入りする人もいます。「子どもを認め
てあげて」と言っても、子どもよりまず自分を認めてもらいたい親御さんも多いのです。
笑い話のようですが、遠足のお知らせに「持ち物は水筒と……」と書いたら、からっぽ
の水筒を持ってきた子が何人かいて、結局その親から、お知らせが不十分と指摘されたと
いうこともありました。水筒には水を入れてと書いてなかったのはたしかなのですが。
 「お話会は二時から」とお知らせを出して、ちょっと遅刻してきた親子が会場に入りた
いと言うので、ひとつのお話が終わるまで待ってと頼むと、「遅刻したら入れないとは書
いてないじゃないか」と指摘されるということもありました。文字にはなっていないけれ
ど、遠足に持っていくなら水を入れた水筒のことだと推察する力、二時からと書いてあれ
ば二時までには会場に入ることだと推察する力がなくなってきたのでしょうか。推察する
力ではなく、自分をコントロールする力がなくなってきたのかもしれません。そういう場
合に対応する「知恵」が足りないのかもしれません。
「騙す」「化かす」昔話に学ぶつきあいの知恵
 相手を傷つけないように、相手にいやな思いをさせないようにしながら、こちらの言い
分をしっかり通すには「騙す」のが一番です。とくに相手が自分より強い立場の人であれ
ばあるほど、騙すことが大事です。小僧が和尚様に、嫁が姑に、病人が医者に、農民が役
人や殿様に、動物(のようにあしらわれていた民衆)が人間に、とにかく弱い立場の者が
もの申すには、強い者を騙すための「知恵」が必要だったです。相手の言い分をまず聞い
て、相手を受け入れ、それを踏襲しながら、相手をギャフンと言わせる、そんな知恵が昔
話にはたくさんあります。「騙す」というと聞こえが悪いのですが、人づきあいの上での
騙しは「相手をいい気持ちにさせる」と言いかえることもできます。相手をいい気持ちに
させながら、こちらの言い分を通すのです。昔、下層階級の人たちは、今よりもっと言い
たいことも言えず、道理に合わないことも我慢して呑みこまなければならなかったでしょ
う。それでも上手に人とつきあい、したたかに生きてきたのです。その「知恵」が昔話の
中にたくさん隠されています。
 人間界で「化ける」といえばまず思い浮かぶのは「化粧」です。よそおいも新たに変身すれば、人の目をごまかせます。ひと昔前には、見合い写真とご本人は別人のようだったなどという話もありました。化けるというのは本来の自分を隠して、なりたい者に変身することですが、完全に変身するのではなく、なりたい者をよそおったり、なりたい者のふりをすること。本来の醜い自分を隠して「美人をよそおい」、「美人のふり」をするのでしょうか。意味としてはそういうことかもしれませんが、お化粧をしている人たちはそういう思いでお化粧をしているのではなく、これから自分に出会う人たちが心地よく感じてくれるようにとの心遣いでしょう。男の人だってひげを剃ってスーツに着替えて出かけます。
人とのおつきあいには、まず相手が嫌な感じをもたない程度の身だしなみが必要なのです。
そう考えると「化ける」というのは相手に対する思いやりでもありますね。今はその化け
る過程を電車の中でじっくりと見せてくれる女性もいますが、あれは相手に対する思いや
りどころではありません。まわりの人は石かかぼちゃだと思っているのでしょう。
 人と人がつきあうとき、一直線ではうまくいかないことが多いのです。子どもならとも
かく、大人になって「素直」だの「正直」だのと言われたら「人づきあいが下手」の代名
詞かもしれません。自分の要求を通したいとき、一直線ではうまくいかないことが多いで
しょう。相手を思いやって自分を少しでも感じよくするために「化け」たり、相手が気持
ちよくこちらの言い分を聞いてくれるように「騙し」たりするその「知恵」を、ここに載せた話から汲み取っていただければ、きっとお役に立ちます。


版元から一言

昔話は、ただの古い話ではありません。懐かしいから残そう、というものでもありません。
文字が読めない昔の人は、語りとして生きる智恵を伝えていったのです。農耕などに関する、それこそ生死にかかわる話から、近所づきあい、権力者の横暴への対処の仕方、など宝石のような教訓が多々含まれています。
それを、ただ難しく話したのでは、子どもは聞かない。お話として、時には笑い、時には怖くなり、また涙しながら、自然に生きる智恵を学んでいったのです。
著者は、昔話を「語り」として耳から聞いてきた人。本書で紹介しているのは、福島県三春地方ではるか昔から連綿と受け継がれてきた昔話です。毒も薬もそのまま今の子どもに伝えるよう、編集しています。

著者プロフィール

藤田 浩子(フジタ ヒロコ)

1937年、東京生まれ。戦時中、福島県三春に疎開。隣の畑のおじさんから、語りとして昔話を聞いて育つ。雨が降れば雨の話、みみずがでればみみずの話、子どもが泣けば子どもの話・・・、と時と場合に合わせて自由に語りをするおじさんの影響を大きく受けた。
福島県や東京都西小岩幼稚園などで幼児教育に携わって50年。妹たちに語りをしてから60数年。幼児教育者として、語り手として、全国各地の幼稚園・保育園、小学校、図書館・保健所・公民館、市民ホールなどで活発な講演活動を続けている。
子ども向けおはなし会、若い親御さん向け育児教室、保育士・幼稚園教諭向け実践教室と教育論、図書館司書向け講座、などなど多様な切り口で参加者を満足させ、「名人芸」の呼び声高い。大人気の為、講演会の申し込みが殺到している。講演会での著書の販売は目を見張るものがある。
毎年アメリカに渡り、アメリカの子どもたちにも日本の語りを続けており、その活動が評価され、2003年度International Story Bridge 賞を受賞。

上記内容は本書刊行時のものです。
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