書店員向け情報 HELP
出版者情報
在庫ステータス
取引情報
絵本で育てる情報分析力
論理的に考える力を引き出す 2
- 出版社在庫情報
- 在庫あり
- 初版年月日
- 2002年11月
- 書店発売日
- 2002年12月1日
- 登録日
- 2010年2月18日
- 最終更新日
- 2010年10月27日
重版情報
8刷 | 出来予定日: 2015-11-10 |
MORE | |
LESS |
紹介
日本ではまだまだ珍しい絵の分析方法を教える本。1枚の絵や絵本を見て、底に含まれた多くの情報を読み解く方法論。
欧米の、特に宗教画は文字が読めない人にキリストの教えを伝えるためのもので、多くの情報が絵に含まれている。それを読み解くのは当たり前。ドイツなどでは幼稚園から絵の分析カリキュラムがある。
本書は家庭向きの本と出版したが、工芸高校や看護学校の教科書として、また絵の分析を学ぶ大人のためのテキストとして採用され、高い評価を得ている。
目次
序文 イエール大学メディカルスクール アーウィン・M・ブレーヴァーマン医学博士
はじめに
第1章 絵を読む力とテクストを読む力を引き出す
Ⅰ 絵本のもうひとつの力に気づいていますか
1.絵本を使って子供の力を引き出しましょう
2.子供の中に思考回路を造りましょう
1子供は「目」と「耳」で絵本を読みます
2絵の分析
3読み聞かせを通してのテクストの分析と解釈
4自分ひとりで読むときのテクストの分析と解釈
3.絵本はなぜ最適な素材なのでしょう
4.絵本を分析的に読むことで育つ感受性
5.「絵の分析」から自立した読者へ・・・実証された仮説
6.つくば言語技術教育研究所の実践で明らかになった子供の能力
7・アメリカの家庭や幼稚園では・・・デイキンソンの報告
Ⅱ 欧米人の教養の源
1.欧米の「読書技術教育」
2.教養が生きる力となる
3.「読書へのアニマシオン」・・・遊びながら読書のための回路を造る
4.日本の子供にも「読書技術教育」を
5.作者の思いと読み手の思い
第2章 絵本を読む技術「絵の分析」
Ⅰ どんな力が育つのでしょう
1.「かわいい」「きれい」の中身は?
2.イエール大学メディカルスクール・ブレーヴァーマン博士の試み
3.「絵の分析」とギャラリー・トークのちがい
4.社会で自立して生きるための大切な力
5.知的で教養のある大人になるために
Ⅱ 集団で行う「絵の分析」
1.教育の中の「絵の分析」
1デンマークの幼児・小学校低学年向けワークショップ
2ドイツにおける「絵の分析」
2.遊びの中の「絵の分析」・・・読書へのアニマシオン
3.つくば言語技術教育研究所の「絵の分析」
1特徴
2目的
3「読書へのアニマシオン」との違い
4方法
5「絵の分析」の醍醐味
Ⅲ 家庭で行う「絵の分析」
1.リラックスして自分の考えを表現しやすい場
2.「教え込む」のではなく「引き出す」
Ⅳ 「絵の分析」の技術
1.「全体の情報から部分の情報へ」を基本に
2.「絵の分析」のための指標
3.複眼的思考力を引き出す
4.「絵の分析」はこのように行います・・・「雪遊び」
5.「なぜ」を中心に問いかけましょう
6.子供の理由の種類
1想像して見つけた理由
2絵の中で見つけた理由
3絵に描かれたことがらから推論して見つけた理由
7.「絵の分析」における大人の役割
Ⅴ 「絵の分析」に挑戦してみましょう
1.「絵の分析」の手順
2.絵のタイトル
3.「入院」
4.「割れた窓ガラス」
5.「日曜日の朝、僕はジョーを探して」(曲芸師のいる市場)
6.「特別な日」(家の断面図)
7。「秘密の隠れ家」
8.「旅の終わり」
9.「帰り道」
第3章 絵本を読む技術「テクストの分析と解釈・批判」
Ⅰ 物語(テクスト)の構造
1.昔話に共通する形とは
2.要点を押さえることで伸びる力
3.大切な情報を取り出せる体内センサー
4.物語(テクスト)の典型的な構造を見て見ましょう
5.『桃太郎』と『狼と7匹の子ヤギ』の構造を比べてみましょう
6.子供にお話の要点を訊いてみましょう
7.物語の要点の訊き方
8.感想を訊くのはやめましょう
9.要点の聞き出しはテストではありません
Ⅱ テクストの分析と解釈・批判
1.テクストの分析と解釈・批判が引き出す力
2.正しい判断と深い考察を可能にする力
3.「テクストの分析と解釈」のための指標
4.読解のための2段階の手続き
5.「テクストの分析と解釈」で重要なこと
6.「テクストの批判」とは
1「テクストの批判」で考えること
2「テクストの分析と解釈」との違い
7.どんな質問をするのでしょう
1「テクストの分析と解釈」も「なぜ」を中心に
2子供の内面に迫る「テクストの批判」
3日本式の発問やテスト問題とは異なる点
8.「テクストの分析と解釈・批判」を行ってみましょう
1『赤ずきん』の構造の分析
2『赤ずきん』の「テクストの分析と解釈」
3『赤ずきん』の「テクストの批判」
第4章 絵本『手のなかのすずめ』
Ⅰ 絵本の使い方
1.絵本は楽しむためのもの
2.「分析と解釈・批判」に向く絵本
1「絵の分析」なしには読めない「文字のない絵本」
2部分的に絵だけのページがある絵本
3絵とテクストのある絵本
3.絵本での「分析と解釈・批判」への取り組み方
1「文字のない絵本」の場合
2「部分的に絵だけのページのある絵本」と「絵とテクストのある絵本」の場合
4.子供が問いかけに答えないとき
Ⅱ 絵本『手のなかのすずめ』で分析に挑戦してみましょう
1.フックフーバーの絵本の魅力
2.『手のなかのすずめ』・・・翻訳にあたって留意したこと
1時制
2主語
3かぎかっこと正書法
4読み聞かせたときの聞きやすさ
3.絵本『手のなかのすずめ』の分析と解釈・批判
4.実際に行うときの留意点
第5章 解答例
Ⅰ 第2章の「絵の分析」の解答例
1.「入院」
2.「割れた窓ガラス」
3.「日曜日の朝、僕はジョーを探して」(曲芸師のいる市場)
4.「特別な日」(家の断面図)
5.「秘密の隠れ家」
6.「旅の終わり」
Ⅱ 第3章「テクストの分析と解釈」『赤頭巾』の解答例
1.『赤ずきん』の「テクストの分析と解釈」
2.『赤ずきん』の「テクストの批判」
Ⅲ 第4章で行った絵本『手のなかのすずめ』の分析と解釈・批判の解答例
付録 お薦めの絵本リスト
おわりに
前書きなど
この本は、世の中に溢れる情報を適正に分析し、解釈し、批判する力を、絵本を用いて子供から引き出す方法を提示することを目的としています。旧西ドイツの現地校での教育と日本の教育を経験し、企業で旧東西ドイツとのプロジェクトに関わる仕事を経験した私は、欧米式の言語技術と読書技術を指導しなければ日本人は国際社会で生き抜いてゆくことができないと痛感し、12年前につくば研究学園都市で言語技術を教え始めました。この本で私がご紹介するのは、社会の中で自立して生きていくため、そしてまた、欧米式の教育を受けた人々と国際社会で対等に交流し、異文化の人々と円滑なコミュニケーションをするために必要な情報分析のための能力を、絵本を読み聞かせる段階から、子供の大好きな絵本を用いて育てる具体的な方法です。
欧米の言語教育(国語教育)は、言語技術教育と読書技術教育の両輪によって構成されています。言語技術として、説明、描写、報告などのための技術が指導され、読書技術としてテクストの内容の語り、要約、分析と解釈・批判のための技術が、子供の発達段階に応じて段階を追って系統的に指導されます。両輪のうちでは読書技術教育の比重が大きく、その中でも特に「テクストの分析と解釈・批判」の技術、つまり情報分析のための技術の比重が大きくなっています。欧米の学生たちは中学から高校を卒業するまでの5、6年間、テクストを巡って討論をしながら分析し、情報に基づいて論証しながら解釈し、事実に即して批判するというトレーニングを繰り返し、さらに小論文にまとめるという教育を受けるのです。
私が日本の子供に欧米同様の言語技術と読書技術教育が必要だと考えるに至った背景には、私自身が現地校で辛酸をなめた経験があります。現地校に通った中高生の日々、私には毎日の授業が苦痛でした。ドイツ語を始め人文・社会科学系の授業では、テクストを分析し、解釈し、批判することを中心にした議論が行われ、毎回小論文の宿題が課されました。当時私が住んでいた首都ボンの学校には、各国の外交官や新聞記者の子女が通っていました。ドイツ語の能力が高くない外国人の生徒達ですら授業中の議論に臆することなく参加し、論文の試験でもよい評価を得ていることが私には脅威でした。私はといえば、毎日の授業の目的さえ把握できずにいたからです。現在の仕事のためにドイツの教科書を検討し、その言語教育の内容と体系を認識した私は、当時授業についていけなかった理由を理解しました。そして、もしやと考えて調べてみた他の欧米諸国の言語教育も、予想通り言語技術と読書技術教育とで成り立っていることを私は知りました。欧米諸国以外の国々については未調査ながら、そうした国々の生徒達の多くが議論に参加し、論文試験でよい成績を取っていたことから推測するに、彼らもまた同様ようやの言語教育を受けていた可能性があります。漸く原因の所在が判明し、私は目から鱗が落ちる想いでした。私が苦戦を強いられたのはドイツ語のせいばかりでなく、それ以前に授業に参加するのに必要な基本技術と知識を持たなかったからなのです。私が現地校に編入した時期は、すでに基本技術の習得時期を過ぎていました。そしてドイツ人の教師は、私が母国で言語技術や読書技術のための基本を習得していない事実を想像すらしなかったことでしょう。なぜなら彼らにとって、言語技術も読書技術も長い歴史を持つあまりにも当然の教育だったからです。
12年前に教室を開設したとき、月 2時間という枠の中で効率よく言語技術と読書技術の両方を子供に指導する方法を私は模索しました。とりわけ、指導に時間のかかる読書技術教育の効率的な実施方法が大きな課題でした。物語を語るための技術や要約の技術の指導はさして難しくありませんでした。しかし、「テクストの分析と解釈・批判」、この最も重要な情報分析のための技術をどのように導入するか、これが一番の難題でした。問題を解決するために私が着目したのが、外国人に対するドイツ語教育の中で、当時実施され始めて間もない「絵の分析」でした。外国人に対するドイツ語教育に「絵の分析」が導入されたのは、絵を分析することを通じて、ドイツ語能力が不十分な外国人にドイツ語で解説を加える力を向上させることが目的でした。この「絵の分析」を、日本の子供の実態に沿うように修正して情報分析の基礎技術の指導に取り入れ、中学から実施する「テクストの分析と解釈・批判」につなげ、指導時間の不足を補おうと私は考えたのです。外国人に対するドイツ語の教育の中で、外国人がドイツ語で解説する力を向上させるために「絵の分析」が有効であるのなら、言葉の発達段階にあり、ある意味で外国人のようにまだ日本語を使いこなせていない子供に転用するのも有効であるはず、というのが私の仮説でした。
こうして試行錯誤の末、この本でご紹介したような、一枚の絵や絵本を用いて「絵の分析」や「テクストの分析」を実施するための手法が生まれました。私の仮説は実践の中で証明されたばかりでなく、実際には仮説以上の成果が現れました。現在「絵の分析」、あるいは分析的な手法に基づく絵本の読み聞かせは、教室のカリキュラムの中で重要な位置を占めています。一枚の絵や絵本を用いて幼児から小学生に情報分析の基礎技術を指導することにより、中学生から効率的に「テクストの分析と解釈・批判」が実施できるようにもなりました。
ところで、この本に示した手法やプログラムは、ドイツの言語教育を参考にはしていますが、大部分は私が12年間の指導の中で、日本人の言語文化や言語環境の実態に応じて創り上げてきたものです。つまり、ここで示したつくるま言語技術教育研究所の手法は私のオリジナルであり、必ずしもドイツ式、あるいは欧米式と同一ではありません。「絵の分析」や「テクストの分析と解釈.批判」の基本技術は、元々欧米にあるものです。けれどもその手法には教師の創意工夫が反映され、子供への働きかけ方は人によって異なるのです。
欧米では学校で教育されるまでもなく、子供はごく自然に分析的な会話をする環境で育ちます。学校教育の中で情報を分析する技術を学んだ人々が家庭で子供を教育するわけですから、日常生活の中で絵本を読み聞かせたり、テレビを見たり、絵画を見たり、コマーシャルを見たりしたときに、ごく自然に分析的な会話が生まれてくることは不思議なことではないでしょう。だからこそ、日本でも子供に絵本を読み聞かせる段階から、日常的にトレーニングをする必要があるのです。いかなる技術も本物にするためには、子供時代から、発達段階に応じて系統的にトレーニングをすることが重要です。私はこの本によって、日本の子供に情報分析のための基礎技術を身につけさせたいと考えています。そのためには、大人がまず技術を身につける必要があります。父親と母親ばかりでなく、子供を指導する立場にある教師や美術館で子供向けのギャラリー・トークをする方々、またこれから教壇に立って子供の指導を目指す学生にも学んで欲しいと私は願っています。「メディア・リテラシー」の教育にも、「絵の分析」や「テクストの分析と解釈・批判」の技術は不可欠です。こうした技術なくしては、本当の意味でメディアの情報を読み解くことはできないでしょう。
幼い頃から情報を分析して解釈し、自分なりの考えを組み立てるトレーニングを積んだ子供が増えれば、日本の政治や外交のあり方にも変化が生ずるのではないでしょうか。情報を鵜呑みにせず、鋭く観察して自分自身で判断し、判断の理由を分析的に考える力は、子供の将来にとって素晴らしい財産になるばかりでなく、私達の国にとっても大きな財産になると私は信じています。
なお、情報分析の基礎になるのは、対話の技術です。対話の方法については『論理的に考える力を引き出す―親子でできるコミュニケーション・スキルのトレーニング』(一声社)をご参照いただけると幸いです。
版元から一言
NHK教育テレビに、本書を持って著者が登場。スタジオの子どもたちに本書の口絵を見せ、実際に絵の分析をさせてみたところ、大きな反響をよんだ。
絵本作家として地位を築いている、たしろちさとの分析実践用口絵は、専門家の間で高い評価を得ており、トレーニングに最適。
本書では、絵本の分析には、小社発行の絵本『手のなかのすずめ』を使用している。合わせて購入していただくと、効果が倍増する。
上記内容は本書刊行時のものです。