発行:めこん
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四六判 144ページ 上製
定価:1,500円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8396-0165-2(4-8396-0165-8) Cc0030
在庫あり
奥付の初版発行年月:2003年12月
書店発売日:2003年12月15日
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カンボジアでもっともポピュラーな民話11編を訳出し、その社会的・歴史的背景を詳しく解説しました。日本でいえば「舌きりすずめ」、「桃太郎」のような、古い昔から語り継がれてきた民族の心が詰まった物語ばかりです。解説では、そこからクメールの歴史、生活環境、道徳、価値観などを読み取り、「クメールの心」に迫ります。最近急増しているカンボジア・ファンから待望の声が高かった本です。
目次
はじめに 動物の物語 村の水牛と森の水牛 カラスはシギの敵 村のカラスが森のカラスに教える 毒を吐き出したニシキヘビ オオカミとカメ 村のスズメと森のスズメ 解題 動物と人間の物語
欲張りな人
男が結婚を娘に申し込む
解題
人間の物語
二人の隣人
女の世渡り
怠け者の完璧な妻
解題
カンボジアの民話世界とクメール人の世界観
1カンボジア近代史と民話の「発見」
2フランス植民地以前のカンボジア社会と民話の世界
森と動物の物語
農民の世界観と価値観
民話に見られる人間関係
3クメール人の空間認識
「村(スロック)」と「森(プレイ)」
クメール人にとっての「森」
あとがき
前書きなど
カンボジアと聞いたとき、われわれはまず「アンコール・ワット」に代表される巨大な石造建築物を思い浮かべるであろう。深い森の中に、突如として姿を現すアンコールの遺跡群は、われわれの歴史への想像力を刺激してやまない。特に、密林にそびえ立つアンコール・ワットの壮麗な尖塔を目にしたとき、あるいはアンコール・トムの中心にあるバイヨン寺院を飾る四面の観世音菩薩像の微笑みに触れたとき、12世紀アンコール王朝全盛期に君臨した王たちの栄光や、王国の支配した広大な領域に思いを馳せるのである。
一方、アンコール王朝以後のカンボジア王国の歴史的変遷を考えたとき、現代カンボジアの民衆文化とアンコール文明との直接的な関連は、驚くほどに少ない。14世紀以後、カンボジア王国は、西のシャムと東のベトナムから挟撃され、支配領域を徐々に失っていった。15世紀前半には、アンコール地域から政治的中心をメコン川流域地域に移動させた。その後、大遺跡群を建造し続けたアンコール時代とは異なった国家形態を呈するようになった。人々はいつしか、アンコール王朝の記憶を忘れ去ってしまったのである。そして、19世紀中葉にフランス人がヨーロッパ世界にアンコール・ワットを伝えるまで、これらの遺跡群は、静かに森の中に眠っていた。
しかし他方で、アンコール地域から離れた地方に暮す人々にとっては、現在も過去も、アンコール遺跡は非日常的な世界のイメージにすぎないだろう。各地の村落におけるありふれた光景としては、農業に淡々と励む人々の姿であり、慎ましい生活の日々である。毎日営まれている農民生活こそが、クメール人の真の姿を表すといっても過言ではない。
それ故に、カンボジア人にとって、村落社会と「アンコール文明の壮麗さ」とは、ある意味で相互に関連性が乏しく、別次元の世界である。アンコール時代の文化的影響も、現在のカンボジアの農村文化に直接反映されているわけではない。
では、こうしたクメール農民の、特に過去の姿や生活、価値観などは、何を手がかりにして知ることができるのだろうか。
フランス植民地時代以前、農民の声が、文字にされ紙などに直接「記録」されることは少なかった。ましてや、「文書」として保存されることはほとんどなかった。村落社会では、文字や文書よりも、「身振り」や「口伝え」などによって、物事が伝えられていたからである。すなわち、動作と口承の世界であった。
そうした中で農民は、自分たちの経験した話や言い伝えなどを、子や孫に語り聞かせた。人々の間では、物語一般は、ただ「はなし」(ルーング)とだけ呼ばれながら、人から人へ、世代から世代へと、「口承」によって伝達された。「はなし」は、記憶され、語り継がれ、何世紀にもわたって生き延びたのであった。これが「民話」(ルーング・プレーング)の原形である。
1920年代に入って、フランス人研究者は、各地の民衆の間に伝えられていた、民話を発見し、それらの採集を徐々に開始した。民話には、ウサギ、ワニ、トラ、オオカミ、ヘビ、カラス、スズメなどの動物が擬人化されて登場する物語、仏教的要素を取り入れた話など、さまざまな種類の物語があった。こうした民話や昔話類は、静かに人々の間で語り継がれ、クメール農民の世界観や価値観を表すものとして残ってきたのである。
アンコール時代以後のカンボジアについては、歴史的な空白部分も多い。クメール人農民に関する歴史的資料に至っては、皆無に等しいといえる。その意味では、フランス植民地時代に採集された数々の民話は、19世紀以前のクメール人農民の世界観や価値観を探り出す「手がかり」として貴重である。民俗学的資料や文化人類学的調査の研究と合わせ、民話の分析を通じて、アンコール王朝の歴史とは異なった、カンボジア社会の別の姿を垣間見ることが可能になるであろう。
版元から一言
本書は、『クメール民話集』(全九巻)から19編を選び、訳出したものである。同書は、1921年から採集と編纂が開始され、1959年から1971年にかけて全9巻が出版された。こうしてフランス植民地時代から1960年代にかけて、地方の村落に伝わってきた民話が、フランス人文化人類学者やカンボジア人研究者たちの手によって採集され、編集されたのである。
本書の内容については、現在のカンボジアにおいて、年配の者から若い者まで、年齢を問わず、よく知られている物語を中心に選んだ。お寺で僧侶から聞いた訓話、祖父母に教えられた道徳の話、教科書で読んだ経験のある物語など、クメール人であれば、いつかどこかで触れた記憶にある話を、できるだけ選び取るように心がけた。選択と決定にあたっては、カンボジア王立芸術大学(前プノンペン国立芸術大学)考古学部の学生やプノンペン国立博物館資料室の館員の意見を参考にした。
著者プロフィール
高橋宏明(タカハシヒロアキ)
元プノンペン国立大学講師。現在上智大学アジア文化研究所研究員(カンボジア地域研究、カンボジア近現代史専攻)
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