浅草事件の検証—自閉症と裁判—自閉症スペクトラム
高岡 健:編, 岡村 達也:編
発行:批評社
この版元の本一覧
A5判 190ページ 並製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8265-0428-7(4-8265-0428-4) C3047
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年09月
書店発売日:2005年09月13日
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紹介

 自閉症スペクトラムが、「ブーム」といっていいほどの状況にある。正確にいうなら、一方の極には誤解を伴った無関心があり、他方の極には誤解に根ざした過熱がある。では、どこかに正解があるかといえば、本当のところは危ういものというしかないのが現状である。それでも自閉症スペクトラムをめぐっては、良きにつけ悪しきにつけ、半世紀以上にわたる歴史的蓄積があることも確かだ。  自閉症スペクトラムは文字通りスペクトラムだから、「正常」と障害との間に明確な境界線が引かれているわけではない。だから、たとえば福祉的支援が必要な場合には、その範囲をできるだけ広く定義すればいいし、逆に不利益処分をもたらすような場合には、その範囲をできるだけ狭く定義すべきだということになる。そうはいっても、全てがうまくいくとは限らない。広く定義した上での教育が、支援というよりも強制や排除にしかならないような場合もある。狭く定義した上での刑罰が、適切な支援を欠落させてしまう結果もありうる。
 そもそも「正常」とは何であり、「障害」とは何なのか。あるいは、「普通」とはどういう意味を持っているのか。それらを文化の文脈の中でとらえかえすことは、大きな意味をもっているはずだ。  同様に、発達障害者支援法という、これまでの障害福祉の中で置き去りにされた領域に、わずかとはいえ光をあてる(少なくとも私はそう評価しているが)法律も、今後の展開によっては桎梏となりうる二面性を有している。
 以上のような論点について、本号の特集は、根源的な考察を加えている。各論考の著者はそれぞれ立場こそ違え、自閉症スペクトラムの領域での第一人者である。著者たちの間に主張の違いは厳然として存在するが、いずれもが最高の水準で書かれたものであることに疑いはない。  加えて、本書には耳目を集めた浅草レッサーパンダ事件についての座談会を、弁護団と発達心理学の泰斗の参加を得て、収載することができた。  アメリカからの輸入精神医学を吟味しないまま、日本の状況に当てはめることほど、子ども達にとっての不幸はない。しかし、そのような傾向が一部に見られ始めていることも事実だ。本書が、自閉症スペクトラムに関心を寄せる人たちにとって、自前で考えるための材料になることを願う。

目次

■はしがき ●高岡 健 —自閉症スペクトラムの現在 ■自閉症スペクトラム入門 ●高岡 健 11 0はじめに/1歴史/2疫学/3症候と成因/4治療を超えて/5新しい論点 ■自閉症のバリアフリーと合理的な配慮 ●大屋 滋
1はじめに/2自閉症に対する社会的関心/3「無のバリア」とマスコミ報道/4「無のバリア」と行政/5自閉症スペクトラムとバリアフリー/6学校教育とバリアフリー/7合理的配慮義務とバリアフリー/8親や家族に対する合理的配慮義務/9医療機関や地域生活におけるバリアフリー/10結語 ■“気がかりな”特別支援教育の本質 ●氏家靖浩
1特別支援教育という気がかり/2時の流れに身をまかせ?/3気がかりなのは子ども? 教師?/4子どもは天使ではない/5教育行政も気がかり/6いつの日か見果てぬ夢を/7付記 ■発達障害概念の拡大の危険性について ●生地新
1はじめに/2臨床経験/3考察 ■普通? 普通じゃない? ●木村一優
——スペクトラムを考える 1普通?/2普通ではないということ/3普通ということ/4文化的体験/5臨床経験/6豊かさを求めて ■自閉症スペクトラムの社会的処遇 ●石川憲彦
——発達障害者支援法の成立をめぐって 1はじめに/2私の問題意識:差別に転化させる構造/3障害者の人権/4現実的な問題/5専門家の責任/6本当の課題
■小児療育現場の自閉症スペクトラム 坂後恒久
1まずは、お詫びから…m(_ _)m/2障害は、個人が克服すべき?/3一体、『障害』って何?/4障害も、『いつでも、どこでも、誰とでも…?』/5歪められる乳幼児健診/6集団保育の場において/7就学指導委員会で/8在校生にも『就学指導』!?/9つながるスペクトラム
■座談会 浅草レッサーパンダ事件——自閉症と裁判をめぐって
——副島洋明・大石剛一郎・浜田寿美男・高岡健・岡村達也(司会) 1弁護の発端——訴訟能力への疑問からの出立/2訴訟能力への疑問から、自白の任意性・信用性の問題へ/3確定的殺意の物語つくり/4責任能力の問題から、情状鑑定へ/5訴訟能力の問題/6受刑(処遇)能力の問題/7裁判以前の問題/8本裁判の意義/9控訴審に向けて
■浅草・レッサーパンダ帽事件の結末 ●副島洋明
1彼からの手紙/2控訴取り下げ——本人による突然の控訴取り下げによる判決の確定/3控訴取り下げの理由をめぐって/4獄中結婚の夢、そして破局/5彼はどこからきたのか——私がはじめに見た妹の世界/6彼の恋人さがしの旅——事件(犯行)の背景をなす心境について ■あとがき ●岡村達也
——解題とBOOKガイド 1解題/2読後感/3BOOKガイド/4回顧

前書きなど

 自閉症スペクトラムが、「ブーム」といっていいほどの状況にある。正確にいうなら、一方の極には誤解を伴った無関心があり、他方の極には誤解に根ざした過熱がある。では、どこかに正解があるかといえば、本当のところは危ういものというしかないのが現状である。それでも自閉症スペクトラムをめぐっては、良きにつけ悪しきにつけ、半世紀以上にわたる歴史的蓄積があることも確かだ。  自閉症スペクトラムは文字通りスペクトラムだから、「正常」と障害との間に明確な境界線が引かれているわけではない。だから、たとえば福祉的支援が必要な場合には、その範囲をできるだけ広く定義すればいいし、逆に不利益処分をもたらすような場合には、その範囲をできるだけ狭く定義すべきだということになる。そうはいっても、全てがうまくいくとは限らない。広く定義した上での教育が、支援というよりも強制や排除にしかならないような場合もある。狭く定義した上での刑罰が、適切な支援を欠落させてしまう結果もありうる。  冒頭で私は、あえて「ブーム」という言葉を用いた。残念なことに、「ブーム」の背景には、かつての学級崩壊をめぐる遺産がある。日本の学校教育システムの老朽化に起因する問題を、子ども達に「軽度発達障害」という非学術的診断を貼り付けることによって、切り抜けようとした負の遺産である。また、「ブーム」の背景には、いくつかの少年事件をめぐる悪意がある。自閉症スペクトラムが犯罪の動因となることはないにもかかわらず、あたかも障害が事件を惹起したかのような切断操作が、悪意なのだ。  自閉症スペクトラムを有する人々が、施設の内部でのみ処遇される時代は、次第に過去のものになりつつある。それは歓迎すべき事実だ。しかし、施設を利用するにせよしないにせよ、現象面にのみ根拠をおいて子どもを発達障害と決め付けるなら、それは障害を見て人間を見失ってしまう結果に陥るだろう。  そもそも「正常」とは何であり、「障害」とは何なのか。あるいは、「普通」とはどういう意味を持っているのか。それらを文化の文脈の中でとらえかえすことは、大きな意味をもっているはずだ。  同様に、発達障害者支援法という、これまでの障害福祉の中で置き去りにされた領域に、わずかとはいえ光をあてる(少なくとも私はそう評価しているが)法律も、今後の展開によっては桎梏となりうる二面性を有している。

版元から一言

●シリーズ『メンタルヘルス・ライブラリー』の14巻です。

*装丁 臼井新太郎
*装画 鈴木ちさ
*組版 字打屋

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批評社ホームページ

著者プロフィール

高岡 健(タカオカ ケン)

岐阜大学を卒業後、岐阜赤十字病院精神科部長などを経て、現在岐阜大学精神科助教授。
日本児童青年精神医学会理事、日本総合病院精神医学会評議員、日本精神神経学会評 議員。雑誌「精神医療」(批評社)編集委員。映画やサブカルチャーにも造詣が深い。
主な著書に『孤立を恐れるな! もうひとつの一七歳論」(編著;批評社)、『不登校を解く』(共著;ミネルヴァ書房)、『人格障害論の虚像』(雲母書房)、『学校の崩壊』(編著;批評社)他。

岡村 達也(オカムラ タツヤ)

東京大学大学院教育学研究科博士課程を中退後、専修大学文学部心理学科助教授などを経て、現在文教大学人間科学部教授。臨床歴としては、日本女子大学カウンセリングセンター、神奈川大学学生相談室、専修大学心理教育相談室、他多数。現在は酉葛西カウンセリングルーム。
主な著書に『思春期の心理臨床 学校現場に学ぶ「居場所」つくり』 (日本評論社)、
『カウンセリングの条件 純粋性・受容・共感をめぐって』(垣内出版)、『子ども成長/教師の成長 学校臨床の展開』(東大出版会)、『臨床心理の問題群』(批評社)他。

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