発行:批評社
この版元の本一覧
A5判 184ページ 並製
定価:1,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8265-0422-5(4-8265-0422-5) C3047
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年06月
書店発売日:2005年06月07日
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紹介
犯罪・社会問題の報道に「精神科医」の言葉が大きな位置を占める社会において、どういう仕組みで、何が伝達され、そして何が失われてきたのか。
コミュニケーションの歴史的・社会的変容を追跡しつつ、精神医療従事者の発信する情報と、人々によるその受容の回路成立の可能性を探る。
目次
はしがき 精神科医の日常的営みと社会的役割——メディアの向こう側へ何を発信すべきなのか 阿保順子
【座談会1】メディアという窓を通して見える精神科医の虚と実 宮台真司・高岡 健・佐藤陽二[司会]阿保順子
精神科医からみたマスメディア——私のスタンス 滝川一廣
メディアの病理と精神科医の倫理 佐藤陽二
精神科医として発信すること 和田秀樹
メディアと精神科医——精神科医の日常性と社会的役割について 黒川洋治
【座談会2】メディアとアートと天皇制 彦坂尚嘉・宮台真司[司会]高岡 健
あとがきにかえて——新聞報道と私たち 高岡 健
前書きなど
2005年、日常を深く潜行していた効率社会のアウトプットが噴き出してきた。JR尼崎の脱線事故は、私たちの日常生活の地下にあるプレートの絶対運動を連想させる。社会の機能不全が生活を崩壊させ始めている。
以下のはしがきは、2001年11月の『精神医療』誌の特集を組んだ時のものである。あれからおよそ5年を経過したいま、精神科医のメディアへの露出は少なくなっている印象を受ける。池田小学校殺傷事件によるPTSDが初めて賠償されるという。もはやPTSDという言葉は、専門家の解説をつけずとも人々の耳に馴染んでしまったということの証左かもしれない。メディアと精神科医は、どう受け止めているのだろうか。
「メディアと精神科医」という今回の企画について話し合われていた頃、小泉内閣の支持率が一時91.6%になり、国会中継は連日テレビ放映され、日本の政治は字義どおりお祭りの最中にあった。その直後に池田小学校事件が起こった。そして同時多発テロとアメリカの報復。小泉内閣はいまやポストフェスティウム状態である。このような差し迫った時期にメディアと精神科医の双方を批判の俎上に載せることに対する疑義がないでもないだろうが、あえて取り上げることにした。批判は批判自体のためにあるわけではないし、いかなる組織、社会においても、それ自身が備えるべき自浄作用を失うべきではないと考えるからである。こんな物言いは、現実というカオスを見よというペシミストたちからは簡単に唾棄されてしまうのだろうか。
さて、メディア、特にテレビの凄さを誰しもが実感したのは、ニューヨーク世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだあの瞬間を目にした時だろう。映画のワンシーンと勘違いした人が多かったのではなかろうか。いまやテレビを筆頭とするメディアなしの人々の生活は考えられない。朝早くに出勤するサラリーマンは新聞を、家庭にいる主婦や夜遅くにご帰還のお父さんは一家に何台もあるテレビを、街を闊歩するギャルたちは街角に設置されている巨大画面を、誰もが一日のうちどこかで必ず見ているようにメディアとつながっている。そして、メディアの命が何であるかを知らしめたのも先のテロであったに違いない。つまり犯罪報道である。明日自分や自分の家族に降りかかってくることであるのに、どこか遠い世界の出来事として見入る。臨場感と高揚感、そして奇妙な非現実感、だからこその高い視聴率、それが犯罪報道である。
今回取り上げるのは、犯罪報道を命とするメディアと、それに絡んで登場する精神科医の発言である。朝と昼のワイドショー、夕方から夜にかけてのニュース番組、そこでは、評論家をはじめとするその道の専門家たちがゲストとして登場し、コメントや解説を求められる。それに説得力をもたせるような形で、街角の人々へのインタビューが花を添える。さらにニュースキャスターが整理整頓し、人々へ向けてのメッセージを発信する。犯罪報道においては精神科医がコメンテーターとして積極的に起用されるようになった。精神科医に期待されていることは、事件を引き起こした人々の異常性を医師という権威をまとってアピールすることである。メディア側が狙うのは何よりも視聴率であり話題性である。事件の異常性を立体的に浮かび上がらせるような多くの装飾をほどこして、問題をセンセーショナルに仕立て上げていく。仕立て上げられ、られた人々の不安に自ら答を出すといった構図のなかで、精神科医たちは踊らされているかに見えてしまう。時代の雰囲気を鋭敏に読み取ることを業とするメディアであれば、この構図が受けることは百も承知であろう。だから、メディアに登場する精神科医はもっと慎み深くあれと非難するのはいとも簡単である。それでは、精神科医たちは沈黙を決め込んだ方がいいのだろうか。無責任な解説よりは、責任のある沈黙を選択すべきなのか。しかし、事件の度に取り沙汰される精神鑑定は、内容はともかくその言葉はいまや多くの人々の知るところとなっている。「事件」と「精神科医」、敷衍すれば「社会」と「精神科医」は昔も今も切れてはいない。沈黙こそが正しい選択であるとばかりは言えないのかもしれない。臨床家として患者を診ることと、社会現象を包括的に捉えることの間にはかなりの乖離があると考えねばならないだろう。だが、医師であれ看護者であれ、およそ人々の生活にかかわる者がとるべきスタンスは、生活者と専門家という双方の目線とその実践にあるはずだ。そのことが忘れ去られた時、われわれは現実の外で浮遊するしかない。
メディアとそこに登場する精神科医の問題だけをあげつらってきたが、メディアの受け手はどうなのだろうか。日常の生活の中に生があり、病があり、死があった時代では、ある意味日常そのものがグレーゾーンであった。もはやそのグレーには耐えられない時代の空気が充満し、人々はそこに佇むことが不可能になっているのだろうか。いまという時代に生きることの難しさも、本特集にあたって考慮されねばならないだろう。
そんな空気のなかでメディアは、「受け手側のニーズ」という自分たちの作為によって人々を弄ぶか、逆に受け手の混乱や困惑に過剰に配慮する。たぶん、メディアは受け手の側をこの両極に置いて考えてしまう性癖があるのだろう。しかし、そうではない。そう考えること自体が不なのだ。聞き分ける力、読み分ける力、見分ける力に対する信頼をこそ大切にすべきではないのか。それは同時にわれわれ医療者にも向けられるべき言葉であるかもしれない。いずれにせよ、メディアの問題は根が深い。したがって今回の企画では、メディアに焦点を当てるというよりは、そこに登場する精神科医たち、ひいては精神科医全体に焦点をあてる。そのために、まずはメディアが人々に発信していることは何であり、それが持つ現代的意味は何なのかについて考える。そして、精神科医らが社会から何を付託されようとしているのか、あるいは自らを何者と規定しようとしているのか、そこを社会との関連で捉えることによって精神科医の陥穽と果たすべき役割を考えるための一つの切り口にしたいと思う。
今回の出版にあたって、座談会を一つ加えている。一見、本のタイトルには馴染まないように思われるかもしれない。だが、高岡によるあとがきをご覧いただければ、その意味が了解されるはずである。
版元から一言
●シリーズ『メンタルヘルス・ライブラリー』の12巻です。
*装丁 臼井新太郎
*装画 鈴木ちさ
*組版 字打屋
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著者プロフィール
阿保 順子(アボ ジュンコ)
1949年弘前市に生まれる.
1970年日本赤十字中央女子短期大学(現在の日本赤十字看護大学)卒業,同年より日本赤十字中央病院などに看護師として勤務.
その後,厚生病院附属高等看護学院に看護教員として勤務.
在任中の1979年,慶応義塾大学通信教育部を卒業.1981年より弘前大学医療技術短期大学部看護学科非常勤講師.
その間1992年弘前大学大学院人文科学研究科修士課程修了.
1993年より東日本学園大学(現在の北海道医療大学)看護福祉学部に勤務.
現在:北海道医療大学看護福祉学部教授,『精神医療』編集委員会編集同人.
著書に『痴呆老人が創造する世界』(岩波書店),『精神科看護の方法—患者理解と実践の手がかり』,『国分アイのナーシングアート』(編著)(以上,医学書院),訳書にJ.シュルツ,S.ヴァイデベック『看護診断にもとづく精神看護ケアプラン』(共訳),E.アダム『アダム看護論』,M.ウォード『精神科臨床における救急場面の看護』(共訳)(以上,医学書院)などがある.
高岡 健(タカオカ ケン)
1953年、徳島県に生まれる。
岐阜大学医学部を卒業後、岐阜赤十字病院精神科部長などを経て、現在は岐阜大学医学部助教授。精神科医。日本児童青年精神医学会理事。『精神医療』編集委員会編集同人。
著書に『別れの精神哲学』『新しいうつ病論』(雲母書房)『引きこもりを恐れず』(ウェイツ)、共著に『殺し殺されることの彼方』(雲母書房)、編著・共編著に『孤立を恐れるな!』『学校の崩壊』『人格障害のカルテ』(以上、批評社)、『不登校を解く』(ミネルヴァ書房)などがある。
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