新しい共同体の創出へ向けて[後篇]当事者にとって本当に使いでのあるコミュニティとは?精神医療35号
精神医療編集委員会:編
発行:批評社
この版元の本一覧
B5判 128ページ 並製
定価:1,700円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8265-0402-7(4-8265-0402-0) C3047
在庫あり
奥付の初版発行年月:2004年07月
書店発売日:2004年07月25日
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紹介

人間は人と人の間を生きる生き物である。かつて地縁・血縁を母胎とした地域社会やコミューンあるいは治療「共同体」と言われた言葉は今では死語に等しい。「地域」、「コミュニティ」もまた、個々の患者が自立する自由を求める個別性や多様性に答えることができない没概念的な言葉だが、ネットコミュニティやバーチャルネットワークの世界が果たして利用者(患者)が主体的に関わり合える「community」なのかどうかは分からない。さまざまな試行錯誤のなかから新たな「共同体」の創出に向けた作業所、ピアサポート、社会参加などあらゆる社会資源を使ったユニークな実践の総特集。

目次

巻頭言

精神科医療・保健・福祉にとって「共同体」は死語か?
岡崎伸郎(仙台市精神保健福祉総合センター)

「安心共同体」へ向けて-患者が経営する有限会社“萌”の試み
児玉祐一(鹿児島県・児玉病院)

作業所の新しいかたちを目指して
猪狩和子(小規模作業所<喫茶店 来夢>代表)

精神障害者のスポーツ活動 -社会参加運動の新しい展開-
田所淳子(高知県東部保健所)

[メール対談]
ネットは共同体を超えるか?
香山リカ(精神科医/帝塚山学院大学人間文化学部学科教授)×岡崎伸郎(精神科医/仙台市精神保健福祉総合センター所長)

精神障害者ピア・ホームヘルパーの意義と課題
主査=殿村寿敏(大阪府健康福祉部障害保健福祉室精神保健福祉課PSW)
課長=野田哲朗(医師)

わたしの再スタート - 心の病いをくぐりぬけて
樋口伸彦(ピア・ヘルパー 医療法人光愛会ホームヘルプステーション「そのまんま」)

「震災」から10年 一ピア・カウンセラー発
高瀬建三(いこいの場ひょうご代表)

帯広・十勝圏域におけるコミュニティケア - 精神保健福祉士としての実践
門屋充郎(帯広ケア・センター)

光る町へ
- 精神障害者ピアサポートセンターこらーるたいとうの6年
加藤真規子(NPOこらーるたいとう代表)


●連載・コラム
ひきぬきにくい釘4
なみのみになる
塚本千秋(岡山大学教育学部)

羊飼いを育てる風土
山口県・扶老会病院事件
原 昌平(読売新聞大阪本社科学部)

“障害”って何だ?
松下 徹(医療法人新淡路病院精神障害者生活訓練施設オカビ)

[視点]
「障害者福祉と介護保険制度」議論についての私見 - 現状と課題の整理から
岸野ミチル(参議院議員秘書)

老いのたわごと23回
分裂病が治るということ(3)
‐誰にとって「分裂病がなおる」といえるのか
浜田 晋(浜田クリニック)

書評
浅井邦彦著『脳と心の調和に向って - 新しい精神医療と福祉』『スティグマと差別を超えて - 脱施設化と地域ケア』哲学書房(2004年1月、2月刊)
浅野弘毅(仙台市立病院)

書評
阿保順子著『痴呆老人が創造する世界』岩波書店(2004年2月刊)
竹中星郎(放送大学客員教授)

書評
吉本隆明・森山公夫著『異形の心的現象 - 統合失調症と文学の表現世界』批評社(2003年12月刊)
宮下 祐(横浜市中区保護課・ソーシャルワーカー)

前書きなど

[…] 精神科医療・保健・福祉の利用者や従事者にとって、「共同体」という言葉は今や古い響きをもつ。原語は言うまでもなくcommunityであり、社会科学の諸分野では現在でもそれを共同体と訳すことが少なくない。翻って私たちのフィールドで、共同体という言葉を確信をもって使用する人がどれだけいるだろうか?
 今日では、community psychiatryを地域精神医学(医療)、community mental healthを地域精神保健、community careを地域ケアというように、「地域」という訳の方が幅を利かせている。しかしそれも定訳というわけではなく、コミュニティというカタカナ表記のままにする例が増えているようだ。カタカナ表記を用いるのは、多数に受け入れられる適当な訳語が見つからない場合や、カタカナの方がコピーとして魅力的な場合などがあるが、もうひとつ、過去の訳語が歴史の手垢にまみれているため、ニュートラルな意味で使いづらいという場合もある。共同体の場合はこれに当たるかも知れない。
 第二次大戦中にジョーンズJones, M.が理念化した治療共同体therapeutic communityは、精神科病院内の組織運営のあり方や患者-治療者間の権力構造への尖鋭な問いかけを含んでいた。このため 60-70年代に左翼運動と相俟って高揚を見せた日本の精神科医療開放化運動や精神障害者の権利回復運動においても、治療共同体が多分に思想的・社会運動的な文脈で取り上げられた。
 ……例えばこのように、共同体という訳語には、かつての左翼的スローガンが深く刻印されているといってよいだろう。これは当時運動から距離を置いた人にとっては 擾 乱の記憶であり、運動を担いそれを様々の形で消化して今日ある人にとっては複雑に挫折した理想の記憶である。両者にとってある種の外傷記憶のようなものであってみれば、おしなべて共同体という言葉の使用に強い心理的抑圧が加わったとしても不思議ではない。
 さらに歴史の皮肉とでもいうべきことがある。かつて治療共同体が熱く語られた時代には、隔離収容型医療と地域とをつなぐべき社会資源はほとんどなかった。共同体は取りあえず、閉じられた病院内社会について論じられたのである。そしてようやく各種の社会資源が地域に展開されつつある今日、逆に本格的な共同体論議は鳴りを潜めたかのように見える。これを共同体概念の一般化ないし定着の結果と見るか、あるいは概念自体の衰弱と見るか。筆者の見解はどちらかといえば後者である。「共同体」が、誤訳の誹りを免れないにもかかわらず人畜無害な「地域」へと訳し直されたり、コミュニティというカタカナ表記にされるようになった経緯も、この問題と無関係ではない。
 筆者は、日本の精神科医療・保健・福祉のなかでcommunityの原義を追究するような議論が、(改革運動の栄光と挫折などとは別儀に)もっと息長くなされるべきだったと思うし、今からでも遅くはないと思う。さもなければ、昨今私たちの前に現出するcommunityの様々な変貌や変種、あるいはcommunity概念をめぐる様々な目眩ましに、到底ついて行くことができないだろう。[…]

関連リンク

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著者プロフィール

精神医療編集委員会(セイシンイリョウヘンシュウイインカイ)

浅野弘毅、阿保順子、岩尾俊一郎、犬飼直子、岡崎伸郎、岡村達也、黒川洋治、河野節子、高岡健、高木俊介、西澤利朗、野口昌也、広田伊蘇夫、藤澤敏雄、松本雅彦、森山公夫の16名によって構成される。(本号の責任編集者は岡崎伸郎+岩尾俊一郎)

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