発行:批評社
この版元の本一覧
B5判 112ページ 並製
定価:1,700円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8265-0394-5(4-8265-0394-6) C3047
在庫あり
奥付の初版発行年月:2004年05月
書店発売日:2004年05月12日
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紹介
開放政策とは裏腹に社会防衛的な「医療観察法」によって地域で生活している患者を再び「病院という収容所」へ幽閉する政策が進行している。「地域」を拠点に、新しい共同体の創出に向けて試行されている様々な取り組みを紹介する特集号。
目次
[巻頭言]地域サポート体制のいま 阿保順子
◎その限界と可能性
相互支援システムの構築
◎【序論】地域を語るべき者は誰か 伊藤哲寛
宮城の地域精神保健・福祉活動
白澤英勝
公立単科精神病院が地域に果たす役割
◎ その歴史を振り返る 岩尾俊一郎
「精神科救急」と地域精神医療 黒川洋治
精神病院と地域活動
◎ 可能性と限界性 五十嵐善雄
クリニックにとって地域とは?
◎ 移送事例から見た地域 杉山克好
■対談/「狂」とは何か
清水義晴×森山公夫
引き抜きにくい釘 第3回
診察室の小道具
塚本千秋
[コラム]A氏の消息
生村吾郎
老いのたわごと 第22回
分裂病が治るということ(2)
—友達と老親の介護を機に
浜田 晋
書評/高岡 健著
『新しいうつ病論—絶望の中に見える希望』(雲母書房)
柴山雅俊
紹介/内田美津子著
『捕獲された私』(総栄出版)
浅野弘毅
書評/阿形恒秀・石神亙・中村敏子・森川敏子・山本深雪編著
『思春期理解とこころの病—こころと心をつなぐ学習プラン』(解放出版社)
柴山雅俊
前書きなど
開放化と地域医療化に進むかにみえた日本の精神医療が、いままた治安の重視という管理的方向へと遡行しつつある。そこで、本誌32号では「羅針盤なき航海—「医療観察法」の成立と漂流する精神医療」というタイトルで、精神科医療の置かれている現在地を見極めようとする特集が組まれた。現在地を確認しようとすれば、先に述べた開放化運動や地域医療へのシフトという運動が、一体何であったのか、過去へのノスタルジーではなく、現時点からの清濁併せ持った評価を必要とする。したがって、33号の「開放化運動を超えて—病院から地域への移行をめざして」では、開放化運動の検証という形で、その後を追っていくという企画がなされた。開放化運動が地域医療への扉を開いたのは確かではあるが、市民運動の高揚ももう一方の大きな要因であっただろう。20世紀の負の遺産として人々の生活を直撃したさまざまな公害病、高度経済成長がもたらした近代的生活によるアウトプットとしての環境破壊は、市民運動の契機であった。ボランティアや当事者運動は、市民運動の一つとして生まれてきた。法改正が相次ぎ、精神障害者の復権、地域医療化へと方向が転じ、地域での生活を社会参加という形でいかに可能にしていくかといった方向性を生み出した。それらが地域共同体への回帰とそれを支えるサポートネットワークの構築や自助グループ活動へとつながっていったように思う。
しかし、時代はバブルという経済的背景のもとで、人々の心を躁状態へと持ち上げ、その後の経済不況に伴って一気に鬱状態へと落ちていった。かつてない高齢者の増加と少子化の到来、疾病構造や経済事情の悪化等の社会状況の変化という大波を被った形で、教育や医療は市場経済の真っ只中に放り出された。国の医療費抑制という旗のもと、介護保険制度、病床数の削減、社会復帰施設の拡充などの大合唱は、人々を喧騒の渦に巻き込んでいる。次々と繰り出される法律の改正、診療報酬の改正、7万2千床問題、新薬の登場、病院評価、クリニカルパス、患者層の変化などは、精神医療にかかわるすべての人々を否応なしに効率化へと適応させようとしている。
そして、ここにきて管理収容の再到来を促すと予測される、あの心神喪失者等の医療観察法が成立してしまった。この法の実施に向けて、国立の精神病院はその体制作りに多大なエネルギーを費やさざるを得ない状況であるだろう。地域の基幹病院たる自治体立の精神病院は、民間病院では診ることができないという理由で送られてくる困難な事例の受け入れを余儀なくされているだろうし、新たな制度による臨床研修医の受け入れという大波をかぶっている。国公立といえども、これ以上の赤字を出してはならないという至上命題を抱えている。市場原理のまえでは、国公立も民間もみな平等である。スタッフの悲鳴は見えない先にこだまして、暗闇へと吸い込まれている。
さらに、急展開をみせようとしている障害者福祉の介護保険制度への統合問題は、考える時間を与えない勢いで進行しつつある。精神障害者の地域共同体への復帰は、補助金の大幅削減に代表されるように、急速に怪しくなってきている。
当事者はむろん、保健医療福祉に従事する人々には、「いま」が「次」にどのようにつながっていくことになるのか、頭の中の見取り図を描けないまま混乱の坩堝にいる。
保健所の統合、市町村合併によって地域の精神保健活動がどのように制約を受けるのか、あるいは、それを逆手にとっていくことは可能なのか。保健所保健師による患者さんへの直接的ケアの提供は望めなくなってきている。市町村保健師は、これまた介護保険保健師といっていいような状況になりつつある。保健所保健師がもっている看護のノウハウは、十分に市町村保健師に伝えられてはいない。市町村合併による合理化は、精神障害者に対してさらなるケアの放棄を結果するだろう。また、精神障害を抱えているであろう地域に潜在している人々に対する支援はどうなっているのだろうか。さらに、そういった人々とも関連して地域の救急体制はいまどのような状況にあるのだろうか。地域での精神障害者へのサポート体制は機能麻痺を起こしつつあるのではないだろうか。
制度やその運用など地域サポート体制のあり方の問題は大きいだろう。だが、地域という概念は、空間的な、物理的な意味の範疇において考えられてはいまいか、また、サポート体制という言葉は、当事者を中心にしながらも、なおまだ「当事者を囲む人々」の問題として語られているのではないか、という疑念も湧いてくる。地域サポート体制のあり方は、当事者も専門家もボランティアも、そして一般の人々も、モザイク状にちりばめられた全体図において語られる必要があるだろう。その全体図をもとに語る中から、きっと、共同体の新しい形と内容が再構成されていくと考える。
本号は、以上のような問題意識に基づいて、精神障害者の地域サポート体制のいまを、その限界と可能性の観点から明らかにすることを中心に特集を構成した。
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著者プロフィール
精神医療編集委員会(セイシンイリョウヘンシュウイインカイ)
浅野弘毅、阿保順子、岩尾俊一郎、犬飼直子、岡崎伸郎、岡村達也、黒川洋治、河野節子、高岡健、高木俊介、西澤利朗、野口昌也、広田伊蘇夫、藤澤敏雄、松本雅彦、森山公夫の16名によって構成される。(本号の責任編集者は阿保順子+ 広田伊蘇夫)
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