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笑う漱石
- 初版年月日
- 2015年3月
- 書店発売日
- 2015年3月14日
- 登録日
- 2015年1月27日
- 最終更新日
- 2015年3月19日
書評掲載情報
2015-09-20 |
読売新聞
評者: 石田千(作家、エッセイスト) |
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紹介
夏目漱石は、俳聖・正岡子規の親友でした。文豪として活躍しながら、生涯に2600余の俳句を残し、句風は斬新にして洒脱、進取の気風に富んでいます。
オールカラー! 南伸坊さんが夏目漱石の俳句を30句選んで絵をつけました。
目次
罌粟の花さやうに散るは慮外なり(明治28年)
ちとやすめ張子の虎も春の雨(明治28年)
菜の花の中に糞ひる飛脚哉(明治29年)
奈良の春十二神将剥げ尽くせり(明治29年)
端然と恋をしている雛かな(明治29年)
菫ほどな小さき人に生まれたし(明治30年)
ぶつぶつと大なる田螺の不平哉(明治30年)
寒山か拾得か蜂に螫されしは(明治30年)
……
前書きなど
まえがき
本書は、夏目漱石の俳句に、南伸坊が絵をつけた「絵本」です。先行して、タイトルも似ている『笑う子規』という本があります。この本では子規の句を天野祐吉さんが選び、私が絵を描きました。で、書名を『正岡子規・著 笑う子規』としてたんですが、この、著がちょっと 気になってました。あの本はともかく、今回の本は、明らかに 『漱石・著』ではない。それで、私の「絵本」としたのです。
『笑う子規』で味をしめたのは、偉人の俳句に絵をつける楽しさと、その偉人に「らしくない句」のあるのを知ったところでした。
睾丸をのせて重たき団扇哉
ってこんな句が、あの、正岡子規の作だっていうんですからね。
子規がこの句を気に入っていたかどうか、それは知りませんが、私は大いに気に入ってしまって、絵にも大いに力がこもりました。
そうして同じようなことがしたいなと思って、漱石に白羽の矢を立てたというわけです。子規のときは選句を天野さんがされましたが、今回は私がしました。というよりこれがとても楽しみでした。
漱石に、二六〇〇もの句があったというのさえ初耳の編者なので、もっぱら、坪内稔典先生が編集された岩波文庫の『漱石俳句集』を熟読して、漱石がもっとも熱心に句作したという、明治二十八年~明治三十二年につくられた句の中から二十八句を選びました。
この頃、漱石は『吾輩は猫である』も『坊っちゃん』も書いてないし、イギリス留学もしていない。無名のただの人です。いや、実は俳人として世に知られ出した頃ではあるらしい。解説文で知りました。
私は子規のキンタマのような句を探したんですが、キャラクターの違いかそれは見当たりませんでした。が、とぼけた句はたくさんあって二十八句にしぼるのをいろいろに楽しめました。
私は内田百閒のオトボケも大好きですが、たしか『阿房列車』で狸が汽車に化ける話がでてきたなとか、これはまるで山田風太郎の
病人の氷枕やヒヤシンス
じゃないか⁉ と思って、水仙の花が鼻風邪の病人の枕元にある句を選んだりする。という具合で、まったく私の好みで選んだのです。
名句というのもいいですが、俳句の名人が作った「それほどでない」句も私は楽しいと思う。私の好みはたいがい深刻じゃないもの、愉快なものですが、そればっかりをいいと思ってるわけじゃありません。
関連リンク
正岡子規・著、天野祐吉・編集、南伸坊・絵『笑う子規』(筑摩書房、2011年)の姉妹本です!
上記内容は本書刊行時のものです。