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原子力市民年鑑2013
- 初版年月日
- 2013年8月
- 書店発売日
- 2013年7月23日
- 登録日
- 2013年6月21日
- 最終更新日
- 2014年11月12日
書評掲載情報
2013-08-18 | 朝日新聞 |
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紹介
福島第一原発事故後の原子力事情を把握する、必須の1冊!
福島原発震災を経験した日本の原子力政策はいかに? 故・高木仁三郎氏が代表を務め、40年以上にわたり、調査・研究・提言を行ってきた原子力資料情報室による、原発データブックの最新版。巻頭には、福島原発事故を分析した論文など8本を掲載。第Ⅰ部と第Ⅱ部には、日本と世界の原子力事情を展望する詳細なデータを項目別に収録。
目次
巻頭論文
原発を終わらせるために(山口幸夫)
福島事故後の日本の原子力政策の動向(伴英幸)
福島第一原発事故──まだまだ謎だらけの事故原因とプラントの状態(上澤千尋)
「活断層」調査をどう行うのか──大飯・敦賀・東通の敷地内断層調査から(上澤千尋)
福島第一原発事故収束作業現場の矛盾が噴出──今後廃炉まで続くきびしい被曝労働に抜本的対策が必要(渡辺美紀子)
国策が翻弄された2012年──六ヶ所再処理工場をめぐる動き(澤井正子)
脱原発への歩み確かに──2012年度原子力事情(西尾漠)
第1部 データで見る日本の原発(サイト別)
日本の原子力発電所一覧
原発おことわりマップ
BWR(沸騰水型軽水炉)の概念図
PWR(加圧水型軽水炉)の概念図
ABWRの概念図(従来型沸騰水型炉との比較)
主な原発裁判
各年度末の原発基数と設備容量
原発に関する住民投票
原子力関連資料公開施設一覧
総理府/内閣府世論調査より
革新的エネルギー・環境戦略策定に際して示された世論
研究炉・臨界実験装置一覧
【計画地点について】
浪江・小高
上関
【運転・建設中地点について】
泊
大間
東通
女川
福島第一
福島第二
柏崎刈羽
東海・東海第二
浜岡
志賀
敦賀
美浜
大飯
高浜
島根
伊方
玄海
川内
ふげん・もんじゅ
第2部 データで見る原発をとりまく状況(テーマ別)
1 プルトニウム
2 核燃料サイクル
3 廃棄物
4 事故
5 地震
6 被曝・放射能
7 核
8 世界の原発
9 アジアの原発
10 原子力行政
11 原子力産業
12 輸送
13 温暖化
14 エネルギー
15 その他
前書きなど
【巻頭論文⑤】福島第一原発事故収束作業現場の矛盾が噴出──渡辺美紀子
福島第一原発事故収束作業の現場では、さまざまな問題が噴出している。鉛板で線量計をカバーするという被曝隠し、未成年者の被曝労働、暴力団の介在、違法派遣や偽装請負。下請け業者の中には労働者に労働条件を明示しない、健康保険に加入させずに就労させる、さらに本来は会社が負担すべき健康診断費や放射線管理手帳の作成費を作業員の給料から天引きしていたことまでもが明らかになった。
除染作業においても被曝管理対策がずさんで、危険手当が労働者にわたっていないなど問題が起きている。除染廃棄物処理でも労働者の被曝が大きな問題となる。
○2012年12月末までの総被曝線量は300人・シーベルト
東京電力が2013年1月31日に公表した、2012年12月末日までの作業者の被曝線量の評価状況についてのデータをもとに、2011年3月11日から12年12月末日までの作業者の外部被曝と内部被曝の累積線量を表1にまとめた。
累積総被曝線量を計算してみると、約30万人・ミリシーベルト(=300人・シーベルト)と膨大なものとなった。うち約70%は下請け労働者の被曝である。2011年3月、事故直後から対応にあたった東京電力社員が圧倒的に大きな被曝をしたが、翌4月以降は下請け労働者の被曝が大きくなっている。
2012年12月3日、東京電力が公表した「福島第一原子力発電所従事者の被ばく線量の全体概況について」によれば、「全体的な状況から発電所の線量は改善してきている。大半の作業者の被ばく線量は線量限度に対し大きく余裕のある状態で解除されており、その後も放射線作業に従事可能なレベル」と、きわめて楽観的に捉えている。
1ヵ月の被曝線量が10ミリシーベルトを超えた作業者数は12年10月で20人(最大16.94ミリシーベルト)、11月は15人(最大19.28ミリシーベルト)、12月は8人(最大15.85ミリシーベルト)となっている。経済産業省原子力安全・保安院公表の2009年度のデータによると、作業者の年間被曝線量は94%が5ミリシーベルト以下、被曝の最大値が19.5ミリシーベルト、平均線量が1.1ミリシーベルトであったことを考えると、現在の福島第一原発がいかにきびしい現場であるかが改めてわかる。東京電力は、労働者がこれまでとは桁違いの被曝をしていることをきちんと認識するべきだ。
東京電力が公表している福島第一原発での作業者の被曝線量のデータ、またこれまで経済産業省や放射線影響協会が公表してきた放射線業務従事者の被曝データには大きな欠落がある。事故以前から被曝線量管理はずさんであった。また事故直後の混乱の中での個人線量計不足、さらに線量限度を超えたら原発で働くことができなくなると線量をごまかすことが横行するなど、データが実態を反映していないことは明らかである。
○若年労働者の大量被曝
東京電力は、福島第一原発事故の復旧作業に携わった作業員の被曝に関するデータを世界保健機構(WHO)の要求に応じて、作業員の年代別被曝線量、内部被曝線量分布、甲状腺等価線量の分布などを2012年3月に提出した。その資料が12月6日に公表された(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/images/handouts_121206_01-j.pdf)。その内容をまとめた(表2、表3、表4参照)。
若い労働者が大量の被曝をしている。10代の作業員は64人で最大値が約57ミリシーベルト。最も高い被曝は30代の東電社員で678.8ミリシーベルト、平均線量では20代が最も高く15.86ミリシーベルト。
事故直後から中央操作室で作業を続けた方々にヒアリングをしたとき、「最初は若い人の被曝はできるだけ避けようと、現場に向かう輪番を工夫したが、一巡したら人員が足らず、若い人もローテーションに入れざるを得なくなった」という話を聞いた。平常時には中央操作室は放射線管理区域ではなかったので、線量計やチャコールフィルター付きマスクなど被曝に対する備えはほとんどなかった。また長時間、強い緊張の中で作業を続け、飲食さえも汚染した場所でせざるを得なかったことが大量の内部被曝をもたらした原因となった。
事故直後、大量の内部被曝があった東京電力の社員についてはていねいな被曝評価がされたようだが、同じような作業をした協力会社の社員と下請け労働者の内部被曝評価に差があるように思われる。それぞれどのように評価したのか明らかにされなければならない。また、東京電力は「2012年1月20日以降、内部被曝をした者はおりません」としているが、疑問である。放射能放出は続いており、局所的に高い汚染状況の場所も多い。作業中に飛散した放射性物質を吸い込んでしまう可能性もあるだろう。また、東京電力は2ミリシーベルトを記録レベルとし、「記録レベル未満の線量は放射線管理手帳に記入しない」としている。
省庁交渉での厚生労働省労働基準局労働衛生課電離放射線労働者健康対策室の説明によれば、3ヵ月に1回測定は実施している。1ミリシーベルトでスクリーニングしてcpmカウント数が2万カウントを超えていないかを確認している。カウント数は捨てられていないが、オフィシャルには「ゼロ」と記録される。国際放射線防護委員会(ICRP)のICRP(pub.75)「作業者の放射線防護に対する一般原則」で、記録レベル以下は除外するという原則がある、とすべてICRPの考え方に依拠したものだった。
1997年に発行されたICRP pub.75の規定は、福島原発事故のような事故を想定していない。内部被曝があったことをきちんと記録することはきわめて重要なことである。
表4の甲状腺等価線量の分布については、2012年2月5日までに日本原子力研究開発機構(JAEA)と放射線医学総合研究所が実施した頚部甲状腺測定をした人を対象としている。ヨウ素131からの甲状腺等価線量で、セシウムからの甲状腺等価線量は考慮せず、ヨウ素131の実測値に基づき評価したとしている。検出限界値以下の場合、補正は実施していない。小名浜コールセンターでの初期スクリーニングで、預託実効線量が20ミリシーベルトを超過した者を対象としてJAEAで測定したとしている。
30代の東京電力社員が最高1万1,800ミリシーベルトであった。一般的に甲状腺がんのリスクが増加するとされる100ミリシーベルトを超える作業員は少なくとも178人いた。東京電力は、作業員の甲状腺被曝についてのデータは公表していなかったが、WHOの求めに応じてようやく公開した。東京電力は、「全身の被曝線量で健康管理している。甲状腺は、全身の被曝線量とちがい線量限度の基準もないため公表しなかった」として、関連会社の社員の大半には結果を通知していなかった。
……
上記内容は本書刊行時のものです。