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原子力市民年鑑2011-12
- 初版年月日
- 2012年3月
- 書店発売日
- 2012年2月22日
- 登録日
- 2012年2月22日
- 最終更新日
- 2013年2月22日
紹介
福島を襲った原発震災の行方はどうなるのか。本書は40年にわたって調査・研究・提言を行ってきた原子力資料情報室による、原発データブックの最新版。巻頭には福島第一原発事故を分析した論文など8本を掲載。第Ⅰ部と第Ⅱ部には、日本の原子力を詳細に展望するデータを項目別に収録。
目次
巻頭論文
福島第一原発事故の意味するもの──西尾 漠
福島第一原発事故はどう起こったか──上澤千尋
福島第一原発事故による放射性物質の放出・拡散と陸上部分の汚染の広がり状況について──澤井正子
福島第一原発事故収束に向けての緊急作業に取り組む労働者の被曝──渡辺美紀子
新潟方式を作り直し、柏崎刈羽原発は廃止へ──山口幸夫
「もんじゅ」で再び事故-先行きはさらに不透明に──伴 英幸
下北半島をめぐる原子力施設の動向──澤井正子
福島第一原発事故の予感?──西尾 漠
第1部 データで見る日本の原発(サイト別)
日本の原子力発電所一覧
原発おことわりマップ
BWR(沸騰水型軽水炉)の概念図
PWR(加圧水型軽水炉)の概念図
ABWRの概念図(従来型沸騰水型炉との比較)
主な原発裁判
各年度末の原発基数と設備容量
原発に関する住民投票
原子力関連資料公開施設一覧
総理府/内閣府世論調査より
福島原発震災後の世論調査より
研究炉・臨界実験装置一覧
【計画地点について】
浪江・小高
上関
【運転・建設中地点について】
泊
大間
東通
女川
福島第一
福島第二
柏崎刈羽
東海・東海第二
浜岡
志賀
敦賀
美浜
大飯
高浜
島根
伊方
玄海
川内
ふげん・もんじゅ
第2部 データで見る原発をとりまく状況(テーマ別)
1 プルトニウム
2 核燃料サイクル
3 廃棄物
4 事故
5 地震
6 被曝・放射能
7 核
8 世界の原発
9 アジアの原発
10 原子力行政
11 原子力産業
12 輸送
13 温暖化
14 エネルギー
15 その他
前書きなど
【巻頭論文①】福島第一原発事故の意味するもの──西尾 漠(原子力資料情報室共同代表)
2011年3月11日、三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。大津波を伴ったこの地震により、東北から関東にかけての太平洋岸は甚大な被害に見舞われた。宮城県北部で震度7、同県南部・中部、福島県浜通り、茨城県北部・南部などで震度6強の揺れがあり、東北電力の女川原発(宮城県)の3基、東京電力の福島第一原発の6基、福島第二原発の4基、日本原子力発電の東海第二原発(茨城県)の1基はすべて運転を停止した。そのうち福島第一原発の3基は定期検査のため地震の前から止まっていたので、地震で止まったのは11基である。東北電力の東通原発(青森県)の1基は、定期検査で停止中だった。
東海第二原発でも、外部電源喪失、非常用ディーゼル発電機1台の停止で電力供給に支障を生じ、原子炉の冷却は綱渡りとなったが、何とか安定化させることができた。とりわけ深刻な事故となったのは、福島第一原発である。詳しくは後に続く上澤千尋らの論文を参照されたい。ここでは、同事故のもつ意味について概観する。
■終わりの見えない事故
福島第一原発事故は、多くの人が起こりうるとしてさまざまに「予言」してきた事故である。地震や津波の規模も、全電源喪失も、「想定外」では、まったくなかった。想定は、意図的に隠蔽ないし無視された。
地震や津波によって原発の大事故が起こると「予言」していたにもかかわらず防げなかったことは、いくら悔やんでも悔やみきれない。集中立地のために複数基で事故が起こることや、使用済み燃料プールで事故が深刻化することなどなど、すべての「予言」がほぼ現実のものとなった結果、個々の「予言」を超えた事態が出現した。かつて人類が経験したことのない事故である。想定すべきことをしなかったために、結果として「想定外」にしてしまったのだ。
何よりもの「想定外」は、事故の終わりが見えないことである。26年近く前に起きたチェルノブイリ原発事故では、いまなお老朽化した「石棺」から放射能(放射性物質)の漏出が続いている。事故により放出された放射能に被曝した人々の健康被害は、むしろこれからより深刻化するかもしれない。その意味でチェルノブイリ原発事故は四半世紀の余が経ったいまも終わっていないと言えるが、福島第一原発では事故そのものが終わっていないのである。
どうなったら「終わり」と言えるのかすら、わからない。2011年12月16日に野田佳彦首相が行なった「収束宣言」には、原発推進派の学者からさえ冷笑しか返ってこなかった。
原子炉には「注水冷却」が行なわれている。地震のために電源が失われたことで炉心の「循環冷却」ができなくなり、消防車を使った消火用注水ラインから注水して燃料を冷やすしかなくなった。当初は注水すればするだけ、放射能で汚れた「たまり水」となって増え続けていた。一部は海へと流れ込んだ。そこで、「たまり水」を注水に使うことで増えないようにしたのが「循環注水冷却システム」だが、「たまり水」の放射能をある程度除去しながら注水・回収・再注水しているのであって、炉心を水が循環するわけではない。
そもそも1~3号機でメルトダウンした燃料が、どこに、どれくらい、どんな形状であるのかが、からきしわかっていないのである。再度のメルトダウン、水素爆発、再臨界や水蒸気爆発の危険も、消え去ったわけではない。
余震や誘発地震が、続いている。本震でどこが傷ついたかの調査も、できていない。重たい使用済み燃料プールは、特に地震に弱い。塩分除去が行なわれているとはいえ、海水を注入したことに伴う機器の腐食も考えざるをえない。大量の放射能放出が再び起きないという保証はない。……
版元から一言
福島第一原発事故と日本の原子力を把握する、必須の一冊!
関連リンク
上記内容は本書刊行時のものです。