
発行:七つ森書館 この版元の本一覧
四六判 312ページ 並製
定価:2,000円+税 総額を計算する
ISBN 978-4-8228-1007-8 C0076
在庫あり
奥付の初版発行年月:2010年03月 書店発売日:2010年03月02日
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田中優子さん(法政大学教授・江戸研究家)が解説執筆!「私は平岡正明を通して、落語とは聞く者の想像力の極みであることを知った」。単行本未収録の落語論集成です。一周忌の7月まで続々と新刊が刊行されます。無限に広がる平岡ワールドをお楽しみください。
目次
1 立川談志論
談志「幽霊の遊び」と根津の雰囲気
談志、二〇〇一年九月九日
談志のざらつく部分
談志「鉄拐」と山の手の支那趣味
談志「二階ぞめき」とユイスマン「さかしま」
○愛すべき落語の登場人物たち ①
2 落語家点描
金馬「居酒屋」と滝田ゆうの漫画
枝雀論
桂文楽のラストラン
志ん生「お直し」の二、三の新知見
志ん朝の「夢金」
○愛すべき落語の登場人物たち ②
3 私的落語論
杉浦日向子の「ひな鍔」
米原万里、小咄はバカ者のマラ自慢がいちばん
生世話落語「もう半分」
豆腐落語
その日、落語のネジがポロリ
解説 愉快な天上の音楽のように 田中優子
前書きなど
愉快な天上の音楽のように──『立川談志と落語の想像力』解説
田中優子
立川談志は、一九三六年に文京区小石川で生まれた。一六歳で五代目柳家小さんに入門したという。三代目古今亭志ん朝は一九三八年、文京区の本駒込で生まれた。むろん、実父である古今亭志ん生に入門している。そして著者の平岡正明は一九四一年、やはり文京区の本郷に生まれたのだ。平岡は早稲田大学ロシア文学科に進んだが、共産主義者同盟(ブント)に入って六〇年安保に参加、大学は中退した。
戦時中、同じ江戸東京の中心部、それも同じ文京区に生まれ育ち、さほど年齢の違わない同世代であったことが、本書の骨格を形作っている。本書は立川談志論が中心だが、全体を読み通すと、いつも志ん朝がどこかに顔を出していることがわかる。あるときは談志と比べられ、あるときは志ん生と、またあるときは兄である馬生と比べられる。どうも著者は談志が好きで、志ん朝があまり好きでないらしい。しかしいつも、志ん朝が気になるのだ。
「彼は」と、著者は談志のことを語る。「彼は昭和十一年生れ、俺は十六年生れで、同世代者といっていいか。彼は白山で生れて根津で育ち、俺は中学高校が白山下の京華で、生れたところが本郷坂上」と言う。これがどんな意味を持っているか、次に続くくだりで分かってくる。
「熊公の初七日に長屋の連中が集まったのは、町内会の一室とか、消防団の詰所といった場所ではなかろうか……盆踊りの終りにスルメかじって冷酒飲んでいるような場所だろう」と。「え?」と私は思った。この熊公とは、談志の「幽霊の遊び」に出てくる熊公のことだ。熊公の初七日に死んだはずの熊公と一緒に吉原に繰り出す話なのだから、私はてっきり江戸の長屋のことだと思い込んでいた。そして長屋の風景や、長屋の連中の誰かしかの部屋などを思いうかべていた。
しかし……、私は確かに長屋の生まれではあるが、江戸時代の長屋は行ったことがない。吉原にも行ったことがない。全て知識の上のことである。知識でも想像力はちゃんと羽ばたく。しかし固定化する。思い込む。盆踊りの終りに、スルメかじって冷酒飲む板の間にござを敷いた公民館、という想像力は働かない。江戸でないと……というのが、伝統主義者や江戸趣味人の了見の狭さである。
平岡正明はそこに切り込んだ。とても江戸趣味で落語を聞くやからが及ぶところではない。平岡は談志と自分が共有した同時代の根津を、想像力の舞台にしたのだ。そこから平岡は記憶の根津神社に入ってゆく。秋の大祭で御輿をかつぐ子供のころの平岡正明が見える。やがて根津遊郭の話だ。根津は確かに、今はとても巨大遊郭があった場所とは思えない。「かすかな色気をとどめた町」と平岡は表現する。想像上の「幽霊の遊び」の舞台は根津なのである。そのかすかな色気をただよわせた、すでに遊郭の無い根津から、なんと連中はトロリーバスに乗って吉原に繰り出した、という想像に広がる。……
著者プロフィール
平岡 正明(ヒラオカ マサアキ)
1941年東京・本郷生まれの根津育ち。評論家。京華高校から早稲田大学文学部露文科へ進み中退。60年安保闘争後、早大ブントと訣別。政治結社「犯罪者同盟」を設立。
1964年『韃靼人宣言』で評論家デビュー、カウンターカルチャーのカリスマ的存在に。1967年『ジャズ宣言』でジャズ評論家デビュー。1990年『大歌謡論』で第4回大衆文学賞研究賞、1993年『浪曲的』で斎藤緑雨賞受賞。1992年から1994年まで「ハマ野毛」を編集・刊行。荻野アンナ、田中優子、種村季弘らが参加。「野毛大道芸」に関わる。
著作は100冊以上に及び、落語論として『大落語』上下『哲学的落語家!』『志ん生的 文楽的』『シュルレアリスム落語宣言』『快楽亭ブラックの毒落語』他。ジャズ評論として『ジャズより他に神はなし』『戦後日本ジャズ史』『マイルス・デヴィスの芸術』『昭和ジャズ喫茶伝説』他。歌謡曲論として『山口百恵は菩薩である』『美空ひばりの芸術』他。江戸音曲論として『新内的』他。映画論として『海を見ていた座頭市』『座頭市 勝新太郎全体論』『若松プロ 夜の三銃士』他。文学論として『筒井康隆はこう読め』シリーズ、『梁石日は世界文学である』『風太郎はこう読め』他。ルポルタージュとして『日本人は中国で何をしたか』『中国人は日本で何をされたか』他。
2009年7月9日逝去(享年68)。
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