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官製ワーキングプア 布施 哲也(著) - 七つ森書館
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官製ワーキングプア (カンセイワーキングプア) 自治体の非正規雇用と民間委託 (ジチタイノヒセイキコヨウトミンカンイタク)

社会科学
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発行:七つ森書館
四六判
256ページ
並製
定価 1,700円+税
ISBN
978-4-8228-0870-9   COPY
ISBN 13
9784822808709   COPY
ISBN 10h
4-8228-0870-X   COPY
ISBN 10
482280870X   COPY
出版者記号
8228   COPY
Cコード
C0036  
0:一般 0:単行本 36:社会
出版社在庫情報
不明
初版年月日
2008年7月
書店発売日
登録日
2010年2月18日
最終更新日
2015年8月22日
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紹介

“生活が保障され、安定している”と思われていた公務員もワーキングプアに!
数十万とも、数百万とも言われる自治体に働く嘱託・臨時職員、民間委託の実態を市議会議員が明らかにする。

目次

第1章 嘱託職員・臨時職員に聞く
 1 未来のある話を聞きたい
  下がりつづける時給  リストラからワーキングプアへ
 2 電話で決まる講師の仕事
  講師のクビを切る担当教員  賃金は一三年で頭打ち
 3 勤務は一〇年が限度
  私にはボーナスがありません  せめて通勤費をください
 4 解雇は指定管理者制度導入のため
  最初はあった自主運営の熱気  虚しくなる解雇撤回の運動
 5 解雇された嘱託職員
  解雇は正職員採用のため  はじまる正規職員からの差別

第2章 自治体発ワーキングプア
 1 江戸の官もワーキングプア
  明治の官吏は「おいこら庶民」  維新の出頭人は薄給の武士
 2 お上と庶民の微妙な関係
  暮していけない武士の「米本位制」  従順な庶民が誕生する
 3 削減にならない職員削減
  自治体の非正規雇用は四割へ  賃金は正規職員の三分の一以下
 4 地方公務員法の限界
  まず勝てない解雇撤回裁判  賃上げはだめだと総務省は言う
 5 年次改革要望書とワーキングプア
  ワーキングプアの元凶はムダな公共投資  アメリカが求めるので郵政民営化
 6 増えるのは税金と施設
  誰が儲ける公共工事  生活できない年金のみの収入
  女性の四割以上がワーキングプア

第3章 増えつづける自治体非正規職員
 1 学校は職種と雇用の見本市
  教頭も知らない教員と職員  給食調理現場もワーキングプア
 2 図書館も非正規雇用
  正職員は館長ひとりだけ?  財政格差が文化の格差に
 3 不明な一部事務組合と広域連合
  隠れてしまうワーキングプア  責任者は「充て職」ばかり
  チェックが難しい中二階
 4 押しつけられた非正規雇用
  庶民に厳しい課税制度  自治体で働き市民税を滞納する
 5 議会は非正規雇用を推進する
  批判できない議員と議会  ワーキングプアがいない政策決定の場
 6 増えるのは警察官
  もてるのは警察官ばかりなり  情報は官僚へ官僚へ
 7 同一労働で格差賃金
  非正規職員は守秘義務おかまいなし?  働けど働けど薄給なり

第4章 民間委託は誰のためか
 1 指定管理者制度の誕生
  パートばかりの委託先企業  あらゆる施設が対象に
  支払う賃金は管理者の裁量で
 2 何だかわからないPFI制度
  究極の民間委託なのかPFI  利益は民間に負担は税金で
  図書館も刑務所も民営化
 3 外郭団体もNPO法人も受け皿に
  外郭団体化するNPO法人  再委託に再々委託と委託は続く
 4 職員半減の街・志木市のこと
  身分は有償ボランティア  パートナーとはなれないパートナー
 5 現業職場と図書館では
  企業に人気の学校給食事業  自治体発の「民間ワーキングプア」
  大手が仕切る図書館委託
 6 自治体財政悪化は誰の責任
  限界にきた国と地方の財政のしくみ  自治体も違いがあっていい

第5章 処方箋をさがす
 1 新自由主義がもたらすもの
  小泉政権が福祉を壊した  庶民も従順に政府も従順に
 2 自治体最低賃金を定める
  低額すぎる最低賃金法の最低賃金  生活保護基準を基準に
 3 価格入札から政策入札へ
  ダンピング防止がワーキングプアの防止  ILO条約批准が最初の一歩
 4 運動は自治体を動かし法を動かす
  民間労組が自治体職場でストライキ  法解釈を変えるシンプルな運動
 5 運動はしなやかに
  派遣を止めさせ非正規雇用に制限を  大切なのは当事者の意思と行動

あとがき

前書きなど

あとがき

 自治体をはじめとした公務員労働者が減少しつづけているが、その理由は財政難のためというのがおおかたの理解だ。でも財政難を理由とすることは、間違いではないが正しくはない。総務省が、国家の「意志」であるとして、自治体職員である地方公務員の削減を執拗に求めている。そしてその財政難も、地方自治体にその責任を問う前に、地方自治財政制度そのものが責任を問われるべきだろう。制度は、都市化する地域はますます富み、過疎化する地域はますます疲弊することを後押しするからだ。
 財政難そのものも検証しなければならない。財政難がハコ物建設や道路整備をその理由にあげるならば、それらは地方自治体の「意思」である前に、国家の「意志」といえるものだろう。日米構造協議の公共投資に示されていたように、赤字を国から地方自治体に転嫁していることにすぎないからだ。
 自治体労働者、ここでは正規雇用の労働者になるが、その労働者の削減は二重の意味で問題がある。その一つは、民間同様に非正規雇用者の増大となるからだ。非正規雇用者は、そのほとんどがワーキングプアとなることは、あらためて述べるまでもない。
 そしてもう一つは、自治体の果たしてきた役割と、果たすべき役割のことである。自治体の役割は新自由主義と対局に位置しているからだ。新自由主義は福祉や教育や人権という自治体の政策を廃止し民営化することを、その目的のひとつとしている。自治体が非正規雇用者を増やすということは、新自由主義の政策を企画・立案し、実行していることになる。民間企業が単に新自由主義の末端を担っていることとは違う。それに、自治体固有の教育、福祉、人権という政策を否定し、自治体そのものの存在さえも否定してしまうことになる。簡単にいえば、非正規雇用者を増やすことは、ワーキングプアを増やして、自治体の福祉施策の対象者を増やすことにもなるということだ。
 自治体の選択肢は三つある。一つはこのままの路線を維持することだ。でもそれはかなり難しい。それを推進する側も否定する側も、このままであることは望まない。もう一つは、ワーキングプアを増やすとともに、福祉政策も新自由主義の求めに応じて減少させ、保険会社などが喜ぶように民間に移すことになる。これが、小泉に代表される勢力が欲していることだろう。でもかなりの国民が、その本質がどういうものかを知りはじめている。最後の路線は、そうでありたいと望んでいるのだが、ワーキングプアを減少させるために雇用政策を改めることになる。
 本書執筆のきっかけとなったのは、三つのことによる。一つは、本書でも述べたように「みどり三多摩」オープンフォーラムとなる。二〇〇八年二月二三日に行われたこの集まりは、「自治体の非正規雇用」に焦点を当てたもの。嘱託・臨時職員が増加していると承知していたので、この内容を取り上げたいと求めていた。調査の結果は、三多摩の自治体における非正規雇用が四〇%近くあることを示していた。このフォーラムでは、首都圏青年ユニオンの方と自治労埼玉県本部の方から話をお聞きしたが、示唆に富むものとなった。
 もう一つは、偶然にもこの日のフォーラム終了後に開かれた、労働組合の集まりとなる。この組合は日雇労働組合を前身とした組織で、私もそこに関わっている。この日は、NHKで放映された「ワーキングプア」という番組をビデオ鑑賞することが目的だった。
 この番組には池袋の繁華街でマンガ雑誌を集めているホームレスの青年が登場する。この青年が労働組合の一員として、三多摩の自治体の道路清掃に従事することになるが、その仕事を請けているのがこの労働組合。ワーキングプアと深く関わることになる。 当日は、その青年も含めて十数人の人たちが集まった。余談だが、この青年はホームレスを脱してアパートに住み、公務職場の民間委託先企業で働いている。その後も組合の集まりで何度も出会うことになる。 最後は私的なことになるが、ここ数年間は自分自身がワーキングプアならぬ、非ワーキングのプアという立場であった。働けばいいのだが、そんなに簡単に働くところは探せないし、当方の心を含めたその前身と全身がそれを許さない。それこそ自己責任であるが、身をもって年収二〇〇万円前後の世界を体験することになる。この三つの出来事が、執筆する強い動機となる。
 執筆にあたっては、多くの先人の書籍や論文が参考になった。公務職場、特に自治体に関わる非正規雇用やワーキングプアを取り上げたものは、その努力が足りないのか、ほとんど見つからなかった。でも民間におけるものはかなり参考になった。
 そのなかでは、『ワーキングプア──日本を蝕む病』(NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班、ポプラ社、二〇〇七年)と、『拒否できない日本──アメリカの日本改造が進んでいる』(関岡英之、文春新書、二〇〇四年)、『ルポ貧困大国アメリカ』(堤未果、岩波新書、二〇〇八年)がある。もう一冊は『貧困と富──階級社会の実相』(ブックレット・コンパス21刊行委員会、二〇〇八年)をあげたい。そこで示されている数値は、執筆する動機の強い裏づけとなった。
 そして、なによりも参考となったのは、各自治体の『予算書』となる。予算書だけで理解できないところは問い合わせるか、現地に出かけて調査をした。最後に、インタビューに応じてくれた五人の方と、原稿を素読みしていただいた、長年の友であるフリー編集者のF氏に感謝する。

著者プロフィール

布施 哲也  (フセ テツヤ)  (

1949年、千葉県に生まれる。狭山事件の再審を求める市民の会、障害者の教育権を実現する会、などで活動。宮武外骨私的研究会主宰。清瀬市議会議員。

上記内容は本書刊行時のものです。