14の事例から学ぶ予防原則レイト・レッスンズ
欧州環境庁:編, 松崎 早苗:監訳, 水野 玲子:訳, 安間 武:訳, 山室 真澄:訳
発行:七つ森書館
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A5判 376ページ 並製
定価:2,800円+税 総額を計算する
ISBN978-4-8228-0508-1(4-8228-0508-5) C0036
在庫あり
奥付の初版発行年月:2005年09月
書店発売日:2005年09月22日
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紹介

アスベスト、BSE、地球温暖化を始めとする、ヒトや環境に対する汚染災害として有名な14の事例を科学的、経済学的に徹底検証。欧州環境庁が環境を守り、持続可能な発展に必要な、歴史から引き出された遅ればせの12の教訓と予防原則をレポートする。

目次

まえがき
謝辞

第1章■序
早期警告からの遅ればせの教訓:歴史から学ぶ取組み/予防原則とは何か/早い段階での予防原則の適用:ロンドン、1854/災害を見越す:科学と公共政策の統合/参照

第2章■漁業:資源の評価 
早期警告/19世紀の英国における漁業/1920年代から1942年のカリフォルニア産イワシ漁/ニューファンドランドのタラ/予防が明示的になる/生態系からのアプローチ/遅ればせの教訓/参照

第3章■放射線:早期警告・遅れて出る影響
X線/放射能と放射性物質/被曝管理に向けての初期の動き/戦後の転回:線量の正当化、最適化、限度設定/結論/参照

第4章■ベンゼン:米国と欧州の労働規準設定についての歴史的考察
早期警告/行動を起こすことと起こさないこと/考察/結論と将来のための教訓/参照

第5章■アスベスト:魔法の鉱物から悪魔の鉱物へ
はじめに/最初のアスベストの“早期警告”と反応/アスベストがんについての早期警告/中皮腫についての痛烈な早期警告/規制当局などが実施したこととしなかったこと/措置をとった場合ととらない場合の損失と利益/アスベストの教訓は何か?/参照

第6章■PCBと予防原則
はじめに/残留性、環境中の存在、および毒性の証拠が増加する/1970年代における工業界と政府のとった措置/科学的理解がより詳細になる/1980年代と1990年代における政府の行動/環境からの曝露経路/最近のPCB事故/結論/参照

第7章■ハロカーボン、オゾン層、予防原則
概観/初期の歴史/1930年代——CFC工業の誕生/1970年代——疑問のたね/モントリオール議定書とオゾンホール/遅ればせの教訓/参照

第8章■DES物語:出生前曝露の長期的影響
はじめに/はじめは楽観論/悲劇的な結果/DESに流産防止効果はなかった/被害の範囲を評価する/DES物語からの教訓/参照

第9章■成長促進剤としての抗生物質:常識への抵抗
はじめに/最初の早期警告/その後の行動、あるいは、行動しなかったこと/成長促進剤使用の利点と欠点/結論と将来のための教訓/参照

第10章■二酸化硫黄:ヒトの肺の保護から遠い湖の回復まで
魚は死に森は枯れた/1985年のCLRTAP議定書とさらなる前進/遅ればせの教訓/参照

第11章■鉛の代替としてガソリンに入れられたMTBE
はじめに/ガソリン中の鉛/MTBEの事例/MTBEの利点/MTBEの悪影響/反応/現在の傾向/予防原則に関連する考察/結論/参照

第12章■予防原則と五大湖の化学汚染に関する早期警告
最初の重要な早期警告/その後とられた行動ととられなかった行動の時期とその内容/公共機関による対応の結果/費用と便益/結論と未来のための教訓/参照

第13章■トリブチルスズ(TBT)防汚剤:船、巻貝、そしてインポセックスの物語
はじめに/TBT問題の出現/アルカション湾/英国の湾と海岸水域/地球規模の汚染/小型船に対する規制の有効性/海上船舶の重大さ/全地球規模の使用停止に向けての進展/代替品についての問題/TBT物語から引き出される遅ればせの教訓/結論:予防か、それとも、後追いの行動か?/参照

第14章■成長促進剤としてのホルモン:予防原則かそれとも政治的リスクアセスメントか? 
はじめに/エストロゲン様物質の野生生物への悪影響/エストロゲン様成長促進剤使用によるヒト健康への影響の不確実性は何だったか/欧州委員会により適用された方法は正しいと証明されたのか/全般的結論/参照

第15章■「狂牛病」1980年代から2000年にかけて:安全の強調がいかに予防を防げたか
はじめに/新たな畜牛の病気/当初の決定/専門家の助言と法的規則/砂上の楼閣/MAFF政策の失敗と最終的な破綻/結論/参照

第16章■事例から学ぶ12の遅ればせの教訓
はじめに/12の遅ればせの教訓
1)不確実性のみならず、無知にも配慮すること
2)“早期警告”のための研究と観測・追跡
 3) 学的知識にある「盲点」と欠落を見つけ出して指摘する
4)異なる分野間で学び合うための障害を特定し、減らす
5)現実の世界の状況が完全に考慮されることを保証する
6)主張されている“是”と“非”の内容を系統的に検証し正当性を判断する  
7)代替案を吟味し、堅実で、多様性があって適用可能な解を推進する 
8)関係する全分野の専門家のみならず、“普通の人”と地域の知識をも用いる
9)より広い社会的利益と社会的価値を考慮する
10)経済的政治的利益から規制の独立を保つ
11)調査と行動に対する制度的障害を特定し、減らす
12)分析による麻痺に陥らないようにする
予防のもつより広い意味/参照

第17章■結論 
早期警告からの遅ればせの教訓

監訳者のことば
執筆者紹介
翻訳者紹介
索引

前書きなど

監訳者のことば

 2005年9月初めにこの本を読者にお届けしようとしている。環境問題の対策に予防原則の適用を求める声は強いが、現実はなかなか進展せず規制の歩みはのろい。強い逆風すら吹いている現状である。他の先進国でも似た状況が起きているようだが、この本は欧州の環境庁がその遅い歩みを少しでも速めようとして出版した調査報告書である。事例研究として14の環境問題の歴史を概観し、新しい考え方も提案しているので、大学で講義している先生方にたいへん便利にお使いいただけると思う。
 日本ではミナマタ病、イタイイタイ病、カネミ油症などの多数の被害や、諫早湾干拓、長良川河口堰などの生態系破壊の例があり、国民的後悔というべき状況にある。欧米でもそのような過去の痛恨が今の環境問題を覆っているのだが、それらの事例研究を通して教訓を引き出し、予防原則に向けた力強い理論的バックボーンにしようとしている。これまで被害は常に小さく見積もられ、被害を救済し予防策をとろうとすると経済活動へのダメージばかりが声高に主張されてきた。その際に、科学的論争が国民、行政、政治家を翻弄してきた。ミナマタ病の原因を特定するのに、被害者の主張を否定するために御用学者による科学論争が長い時間を費やして被害を広げ、救済の道を塞いだことは、日本人はよく覚えているだろう。それを日本社会は克服しただろうか? そうは言えない。いろいろなケースで相変わらず被害者には2の矢、3の矢が突き刺さっている。その矢を放っている元凶はなんだろう。それを突き止めて、「過ちを繰り返さない」ための作業が必要としてこの本が作られたのだが、残念ながら(メチル)水銀の項がない。これについて事例研究をし、教訓を導き出して予防原則のために明文化することは日本の責任だろう。
「科学が溢れている現代社会ではあるが、科学だけに頼っていては子孫の未来はない。科学者ではない人々の深い知恵と勇気ある行動が立ち上がってこなければならない」、とまとめられている。そのためには科学のどこが信頼でき、どこが信頼できないかをかぎ分ける能力を身につけなければならないだろう。ある程度の知識と科学のそもそもの使命について、各自が判断能力を培っておかなければならない。
 予防原則にはいくつかのキーワードが提案されているが、その一つに「未来への配慮」がある。Foresight が原語であるがわれわれはこれを未来への配慮と訳した。ガソリン用添加物MTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)の事例研究を担当した執筆者はこのキーワードをとくに重視している。MTBEがそれ以前の鉛添加物に比べると害が少ないとして導入されたのに、ほとんど分解せず水には溶けやすいために地下水を広く汚染をしてしまい、大きな水道水源を放棄せざるをえない大都市まで現れたのである。こうした痛恨はフロンにも地球温暖化ガスにもあるのだから、われわれは「未来への配慮」を真剣に政策に反映させなければならないのである。
 そのほかに、この報告書の編集者たちが強調している新概念に“pros and cons”がある。ある選択肢に対する正当性と利益をprosと言い、そのリスクと損失をconsと言っている。従来のコスト・ベネフィット(費用便益)分析を広げて、pros and cons鑑定へという提案である。Proは賛成の意で、conは反対の意だから、これを日本語で「是」と「非」と翻訳することにした。簡潔すぎるきらいはあるかもしれない。本書でも断っているように従来の費用便益分析を良しとする人は少ないが、未来のための予防原則適用にあたってはプラスとマイナスの影響を幅広く、慎重に勘定することが欠かせないとして、「是」と「非」の鑑定を重視する立場を表明しているのである。この点は、関係者の我田引水を戒め、その克服が是が非でも必要だと言っているとも受け取れる。
 本書では14の環境問題をそれぞれの専門家が研究調査し、そこから引き出された教訓を「遅ればせの12の教訓」にまとめている。読者は興味ある事例研究を一つ二つ読んだあと、第16章「事例から学ぶ12の遅ればせの教訓」へと進んでいただきたい。そこには、事実関係を知ることだけでは不十分だと納得させられる議論が展開されている。もちろん歴史的事実関係が第一に重要ではあるが、それに義憤を感じるだけでは次世代、未来世代を守ることはできないのである。一人一人が人生において何かを決定し、選択する局面に立ったとき、この第16章は必ず役に立つと信じる。とくに社会に責任をもっている人々、もちたいと願う人々には参考にしていただきたい部分である。いま「健康と安全と環境に配慮して、これこれのことをやっています」と言える人は大勢いるかもしれない。しかし、それは未来の世代に対してどんな効果があるか? たとえエコグッズを開発しても、買っても、激流のような大きな流れの中でどういう効果があるのか? 激流に呑み込まれないためには、自分の行為の社会的インパクトを、その深さと広がりを問う形でもう一度自分に向ける必要があるだろう。
 科学・技術が進歩して、その影響を判断することが非常に複雑で判りにくくなってきている現在は、個別の知識だけが大切なのではなく、何をどう考える、どう行動するかが大切で、そのためには訓練といったものも必要のようだ。とくに研究や開発に携わっている人々には、自分が研究や開発している内容が社会的にどう適用されるのか、その影響は何かを考え発言することが求められている。われわれは、社会の一員であるとの自覚をもってこうした訓練を受け入れざるをえないだろう。そうしなければ、ますます複雑となる環境問題にも、社会問題にも、対処できないだろう。第16章の非常に含蓄ある論議に、翻訳しながら感銘を受けた。しかし、科学・技術の恩恵の中にいるということでは欧米国民と日本国民と同じ状況であるが、文化の違いはあるように思う。ここで提案されている12の教訓を生かす社会的文化的基盤を日本で見出すことができるか、日本が独特の文化的基盤にあるとすればどんなバリエーションが提案できるか、読者のみなさんにお考えいただければ幸いである。

2005年8月
松崎早苗

著者プロフィール

欧州環境庁(オウシュウカンキョウチョウ)

欧州共同体(European Community)の独立行政庁として1993年に設置され、EUの政策決定組織と加盟国へ客観的情報を提供することを目的としている。

松崎 早苗(マツザキ サナエ)

1941年生、静岡大学文理学部卒、2002年(独)産業技術総合研究所退職。環境に関わる化学物質の安全管理を研究し、環境ホルモンをはじめ情報発信に努めた。そのために翻訳を手がけた:ルネ・ロングレン『化学物質管理の国際的取り組み』(STEP)、ヨルン・ヒネーほか『有毒物質のLCAインパクトアセスメント』(産業環境管理協会)、シャロン・ビーダー『グローバルスピン』(創芸出版)、スタイングラーバー『がんと環境』、シェルドン・クリムスキー『ホルモン・カオス』、テッド・シェトラーほか『胎児の危機』(以上、藤原書店)など。共著『環境ホルモンとは何か?、?』(藤原書店)など。現在は環境のみならず、科学が社会に関与する問題で幅広く活動している。sanaemmm@mub.biglobe.ne.jp

水野 玲子(ミズノ レイコ)

1953年生。上智大学文学部社会学科卒・同大学院修士課程修了。こどもの体と環境を考える会、カネミ油症被害者支援センター、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議などのNGOにて次世代影響など子どもの健康と環境化学物質の問題に社会学的視点より取り組んでいる。日本の子どもへの影響は現れていないのではなく、私たちが明らかにしていないだけ。主論文に「霞ヶ浦、利根川河口地域における男児出生比率の低下」科学(2000)、「Male/Female Ratio of Fetal Deaths and Births in Japan」Lancet(2000)、「出生性比と死産性比の変化」、「男の子はいずこへ」など。「環境ホルモン」(藤原書店)Vol.1〜4(2000-2004)。

安間 武(ヤスマ タケシ)

1969年北海道大学理学部数学科卒業後、エンジニアリング会社にて主に海外の石油精製、LNGプラントなどの制御システムの設計、施工、その後プロジェクト部門の管理に従事。2000年、考えがあり早期退職後、現在まで化学物質問題市民研究会(NGO)にて海外情報およびウェブを担当。予防原則、EUのREACHなどを研究。その間、自然エネルギー関連 NGO事務局に1年半、2004年世界アスベスト東京会議事務局(事務局次長)に約1年従事。
化学物質問題市民研究会ウェブサイト
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

山室 真澄(ヤマムロ マスミ)

理学博士、(独)産業技術総合研究所地質情報研究部門・主任研究員。大阪府出身、茨城県つくば市在住。沿岸生態系の環境問題を生元素循環の視点から研究している。対象は堆積物・バクテリア・植物プランクトンから海草・水鳥・ジュゴン、フィールドはシベリア、中国からタイ・オーストラリアを含む湖沼と沿岸域、時間としては現在の生態系から数百年前、先カンブリア代の環境と、幅広く総合的にを心がけている。プライベートには、クルマを使えない子どもや老人が不利益を被らない、人間中心の道路政策を実現する為の活動を行っている。
ホームページ
http://staff.aist.go.jp/m-yamamuro/index.html

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